母が死んだ。 ~六夜目 テトラポットで海を~
こちらに帰ってきてからはじめての少し涼しい朝だった。
せめて昨日涼しかったら嬉しかったのに、わたしの人生はいつもこんな感じで過ぎていく。
昨夜、父に怒りを爆発させてしまったが、そのことを深く考えている時間的猶予はなかった。
明日、飛行機に乗って家に帰る。
すったもんだして組み立てて飾りつけた祭壇が、一晩あけたら昨夜よりも立派に見えた。
一心不乱に片づけた場所に綺麗に収まっているし、お供えもお花もそれらの配置も何もかも完璧に思える。
お線香をつけるととたんに部屋が暑くなるので、お線香をつけるのを父は昨日からすでにやめていたのでお線香はついていない。
父はそういう人だし、これでいいと思った。
帰ることに後ろ髪をひかれる気持ちは少しあったが、もうほんとうに無理だった。
そんな状態で今日は役所と葬儀屋に行かねばならないし、明日までは何があってもここにいることが確定してしまっている。
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