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不便の許容 | 読書日記『5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人』

題名のインパクト通り、内容も抜群に面白いし、具体的なエビデンスに基づく鋭い主張には説得力があって一気読みしてしまった。でも私は思う。この内容が現場である日本にどれくらい響くのだろうかと。

現在ドイツ生活7年の私。ドイツで働いたことのある人には、もうこの本で紹介されている例一つ一つに「あるある」が詰まっていて、共感しまくりの内容だと私自身は感じる。

熊谷さんの講演に一回参加したことのある私はファン視点であるというのもあるかもしれない。

政治・経済の知見が広く、情報量満載ながらシロウトの私でも専門的な内容をシンプルに分かりやすく説明。また「今日の機会に私に聞きたいことがあればぜひ質問してください」とサービス精神も旺盛。その講演ですっかり熊谷さんの人柄に魅了されてしまった。

私の身近に接するドイツで働く日本人の中においては、このドイツの働き方に触れてその感じ方が大きく二つに分かれる。一つは著書のようにドイツの働き方を肯定的に捉える、私はこちら側。明確な役割分担、余計なことはしない・したくない、就業時間に忠実。残業は悪という価値観は目から鱗が落ちるごとく衝撃を受けたしこんな価値観があることに感動を覚えた。要は私はドイツの価値観に強い共感を覚えた1人。こういった価値観が日本にも浸透するといいな、と思っている。

一方で、ドイツの働き方に触れて改めて日本の働き方の尊さをより一層思うようになる、という反面教師として捉える見方もあるよう。

仕事だけの付き合いという希薄な関係、役割以外の仕事はしないという融通のなさ、契約が全てで臨機応変な対応はまずありえないなどなど。ドイツの働き方に触れて、やっぱり日本の働き方はすごい!とより自信を持つ方もいる。

私としては、色々な価値観があるのだな、と興味深い。一方である種の日本の現在の働き方を美化しすぎる感覚、ここに日本の働き方が変わらない・変われない原因の一部を感じずにはいられない。

国が違えば文化も働き方も違う、そういうことだろう。どっちがいい・悪いの話ではないし、そういう方向に持っていくのも良くないんじゃないかなと思う。

だって日本のサービスレベルの高さは言うまでもない。つくづく日本の生活で不便を感じることの少ないこと。あっあれがない!となってもコンビニに行けば手に入るし、レストランでもボタンを押せばすぐに注文を取りに来てくれるし、お会計もスムーズ。ものを買えばむこうから「こちら、袋に詰めましょうか?」と声をかけてくれる。

電車や新幹線のダイヤ管理、もはやカミワザとも言える正確さで運営されている。しかも365日。

ものづくりも然り。細かいところまで洗練されていること。文房具は身近で分かりやすい例だと思う。ジェットストリームボールペン。あんな滑らかな書き味のボールペンは日本にしか無い。しかもコンビニで買えちゃう手軽さだ。ノートも開いたら真ん中でピシッと分かれて平になるものなどある。

日本の働き方の議論をする時、ダメな部分だけに目を向けがちだが、それだと議論は進まないんじゃないかな、と思う。前提として今の日本の働き方によってたくさんの付加価値や良い面があることはしっかり認知する、ここを忘れてはならない。労働生産性を1人が1時間に生み出すGDPといった分かりやすい指標で比較するのも分かる。でもお金には反映されない利便や暮らしやすさといった部分、ここを他国と比べれば日本のレベルが優れていることなんて多々あると思う。どこを軸に物事を捉えるかで印象はがらりと変わる。

それを維持するための犠牲として、長時間労働を強いている状況、そして健康を犠牲にするといった大きな問題、これは紛れもない課題だろう。

結局のところ労働時間を減らす、これしかないと思う。その減らす部分をどこにするか。良い部分に優先順位をつけて、維持できるところは残す。ただし、今享受している利便は多少手放す覚悟がいるんじゃないかなと思う。

不便を許容する、この心持ちがないと今の素晴らしいサービスレベルを維持しながら労働時間だけ減らすなんていうのは叶うものではないと思う。どのみち今の日本は労働人口が減っていく一方なんだし。

ああ、イチサラリーマンがこんなことを語って何かしたいとかそういうことは全く持って考えていない。今回はじめて社会問題に関する本の感想を書いてみたが、なかなか表現が難しいなあ、とつくづく思う。もっと上手く書けるようになりたい。

しかし、この本に触れてこういったことを考えるのもいいんじゃないかな。あくまでも私事として、自分はどういう働き方を望むのか、それを考えるきっかけになった本でした。

最後、イラストを探していて素晴らしいイラストに出会う。こんなイラストがウケる世の中・価値観が広がっていくといいな。

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