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アール・ブリュット≧障がい者アート

アール・ブリュットという言葉を聞いたことがありますか?

アール・ブリュットとは、既存の美術や文化潮流とは無縁の文脈によって制作された芸術作品の意味で、 英語ではアウトサイダー・アートと称されている。加工されていない生(き)の芸術、伝統や流行、教育などに左右されず自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した芸術である。フランスの画家ジャン・デュビュッフェ(Jean Dubuffet 1901-1985)によって考案されたことばである。
ボーダレス・アートミュージアムNO-MAより)

アール・ブリュット(またはアウトサイダー・アート)は、いわゆる正規の美術教育を受けていない人たちが、湧き上がる衝動に従って自分のために制作したアートのことです。障がいのある人に限定される訳ではありませんが、日本ではASD(自閉症、自閉スペクトラム症)や知的障がいの方が制作する美術を指すことが多く、日本のアール・ブリュットは世界でも高く評価されているそうです。

以前読んだ本で、アール・ブリュットや関連する障がい者アートのことを知り調べてみたことを紹介していきます。

各地にあるアール・ブリュットの美術館・ギャラリー

1.ボーダレス・アートミュージアムNO-MAノマ(滋賀県近江八幡市)

2004年6月オープンした、滋賀県社会福祉事業団が運営する美術館です。ボーダレス・アートとは、障がいのある人たちによる造形表現や現代アートなど、様々な表現を分け隔てなく紹介していこうとする、NO-MAの展示コンセプトです。

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(画像は滋賀県・びわ湖環境情報より)

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(画像はマイフェバより)

アール・ブリュット・コレクション(スイス・ローザンヌ)との連携企画、「アール・ブリュット/交差する魂」展(2008、滋賀)は、日本国内も巡回し、日本のアール・ブリュットが注目を集めるきっかけとなりました。

展覧会だけでなく、町歩きやワークショップなど地域との関わりも大切にされています。

展示会「アール・ブリュット-日本人と自然-BEYOND」を見学させていただきました。とっても楽しい時間でした。

2.命のミュージアム るんびにい美術館(岩手県石巻市)

2007年にオープンした、社会福祉法人光林会が運営するアートと憩いの空間です。ボーダレス・ギャラリーだけでなく、アトリエやカフェ、ベーカリーも併設されています。

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(画像は岩手経済研究所より)

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(画像はるんびにい美術館より)

3.もうひとつの美術館(栃木県那須郡)

日本初のアール・ブリュット専門美術館として、2001年にオープンした、もうひとつの美術館。「みんながアーティスト、すべてはアート」をコンセプトに、年齢・国籍・障がいの有無・専門家であるなしを越えて、まち・地域・場所やジャンルをつなぎつくっていくアートのあり方を提案し、年3回の企画展を開催されています。

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(画像はアートスケープより)

4.藁工ミュージアム(高知県高知市)

2011年12月オープンした、NPO法人ワークスみらい高知が運営する美術館です。アール・ブリュット、アウトサイダー・アート、美術や芸術、そしてそのほかいろいろ・・・ 私たちのまわりにある「おもしろい!」を感じ、創り、楽しむ小さな美術館です。 

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(画像はいつもNAVIより)

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(画像はLove Artより)

福祉とアート、地域とアートをつなぎ、誰もが多様なものとつながることのできる創造的な場となることを目指して、年4回ほどの展覧会やワークショップなどを行っています。

5.鞆の津ミュージアム(広島県福山市)

2012年5月オープンした、(福)創樹会が運営する美術館です。「障がい者」「現代」「地域」アートが鞆の浦ミュージアムの三本柱なのだそうです。

明治期に建てられた広大な林家住宅の、築150年にもなる古い蔵を改装した素敵な美術館です。
入口から異例尽くめ! 靴を脱いで展示室に上がります。美術館に入ったというよりも、もっと異質な空間に足を踏み入れたという感覚(笑)。「鞆の津」にぽっかり口を開ける、アナザーワールドの入口に、さあ、飛び込んでみよう!
鞆物語より)

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(画像は鞆物語より)

展示会「きょうの雑貨」を見学させていただきました。楽しい時間でした。

6.みずのき美術館(京都府亀岡市)

母体である障害者支援施設みずのきの創立5年目に開設された絵画教室(1964年〜2001年)から生まれた作品の所蔵と展示、そしてアール・ブリュットの考察を基本に据えた美術館として、2012年10月に開館しました。

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(画像はみずのき美術館より)

みずのき絵画教室で制作された油彩やクレヨン画を中心に1万点を越える絵画作品を所蔵されています。また美術館の展覧会には所蔵作品のみならず、多彩なアーティストやクリエイターとのコラボレーションによる展覧会も企画されています。

7.はじまりの美術館(福島県耶麻郡)

2014年6月 築約140年の酒蔵「十八間蔵」を改修して誕生した小さな美術館です。運営母体である社会福祉法人安積愛育園は、設立から約50年にわたり主に知的に障がいを持つ方の支援事業を担ってきました。安積愛育園に所属している作家や、東北地方にゆかりのある展示テーマを取り扱うことが多いそうです。

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(画像ははじまりの美術館より)

8.たんぽぽの家 アートセンターHANA(奈良県奈良市)

障害のある人たちのアートを、“エイブル・アート=可能性の芸術”という新しい視座で捉え直し、社会に新しい芸術観や価値観を与えてきた、たんぽぽの家が運営するコミュニティ・アートセンターです。

障がいのある人たちによるビジュアルアーツやパフォーミングアーツのスタジオ、今を生きる人たちの表現を紹介するギャラリー、コミュニケーションの場としてのカフェ&ショップ、アートの可能性について探求するインフォメーションセンターやミーティングルームが用意されています。

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(画像は日本財団DIVERSITY IN THE ARTSより)

9.ギャラリー インカーブ(京都府京都市)

社会福祉法人素王会のアートスタジオとして2002年に設立されたアトリエ インカーブ所属のアーティスト専門のギャラリーです(出版事業のビブリオ インカーブもあります)。

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(画像は美術手帖より)

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(画像はギャラリー インカーブより)

10.HERALBONY GALLERY(岩手県盛岡市)

後で紹介するブランド、HERALBONYの常設展示ギャラリーです。

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(画像はnoteヘラルボニーマガジンより)

11.artアート spaceスペース co-jinコージン

京都御所東の荒神口にある障がいのある人の作品や表現に出会える場です。ギャラリー展示を中心に、イベント、ワークショップ、講座などを開催されています。

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(画像はart space co-jinより)

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(画像はハートネットより)

12.A/Agallery(東京都千代田区)

2010年3月に日本で初めて障害のある作家の作品を専門に紹介・販売するギャラリーとして誕生しました。エイブル・アート・ジャパンとエイブルアート・カンパニーが協働で運営しています。

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(画像はアーツ千代田3331より)

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(画像はエイブル・アート・ジャパンより)

13.放浪美術館(長野県茅野市)

「放浪の天才画家、裸の大将」と呼ばれた山下清さんの作品を常設展示している美術館です。

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(画像は放浪美術館より)

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(画像は産経新聞より)

番外.アール・ブリュット・コレクション(スイス ローザンヌ市)

アール・ブリュットを提唱したフランス人芸術家のジャン・デュビュッフェ。彼の集めた約200人の作品およそ5000点のコレクションがローザンヌ市に寄贈されたことをうけて、18世紀の由緒ある邸宅をいかして美術館が1976年にオープンしました。

現在は、さらに世界各国のアーティストの作品を幅広く蒐集し、現在では約350人の作品3万点もの所蔵を誇っています。2008年には『日本展』も開催されました。

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(画像はスイス政府観光局より)

アール・ブリュットの作品を紹介するサイト

1.DIVERSITY IN THE ARTS TODAY

日本財団が運営する障がいのある人たちが生み出すアートと、それらをとりまく多様な文化が行き交うプラットフォームです。コラムやインタビュー、アーティストやその作品の紹介などが掲載されています。

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(画像はDIVERSITY IN THE ARTS TODAYより)

2.アートの輪

一般社団法人障がい者アート協会が運営する、障がいのある方の作品を集めたオンラインギャラリーです。

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(画像はアートの輪より)

3.Able Art Company

エイブルアート・カンパニーが運営するサイトです。障がいのある方のアート作品をデザインとして使用できる仕組みを整え、社会に発信するために取り組まれています。アーティストの作品を展示し、商品やノベルティや広告に使用する仲介も行っています。

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(画像はAble Art Companyより)

4.HERALBONY ONLINE GALLERY

HERALBONY GALLERYで展示されている作品をオンラインで鑑賞することができます。

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(画像はHERALBONY ONLINE GALLERYより)

5.パラリアンアート

「障がい者がアートで夢を叶える世界を作る」をテーマに、障がい者アーティストとひとつのチームになり、 社会保障費に依存せず、アーティストの作品展示や使用手続きのための代理店紹介など、民間企業・個人の継続協力で障がい者⽀援を継続できる社会貢献型事業を⾏っています。

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(画像はパラリアンアートより)

6.工房集

福祉施設であり、社会福祉法人みぬま福祉会を利用するメンバーの表現プロジェクトを社会につなげるための活動拠点として2002年に開設されました。

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(画像は工房集より)

7.アートと障害のアーカイブ・京都

art space co-jinを中心に、京都府内の障がいのある方たちの作品をデジタルアーカイブ化したサイトです。

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(画像はアートと障害のアーカイブ・京都より)

8.SHOBU STYLE

鹿児島県にあるしょうぶ学園で、アート&クラフトをテーマに、利用者をサポートするスタッフとのコラボレーションによって日々ユニークな作品が展示されています。

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(画像はしょうぶ学園より)

各地のアール・ブリュットの展示会・イベント

1.パラアート TOKYOギャラリー

毎年開催されている障がい者のアートの国際展です。2021年はオンライン開催で、全ての作品を見ることができます。

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(画像は2021パラアート TOKYOギャラリーより)

2.いわてアール・ブリュット巡回展

2016年の希望郷いわて国体・希望郷いわて大会に合わせて開催された、「アール・ブリュットいわて」展から毎年、岩手県内を巡回する展示会が開催されています。

ホームページ上に作品とその紹介が掲示されたデジタル展覧会もあります。

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(画像はいわてアール・ブリュット巡回展より)

3.あいちアール・ブリュット

愛知県では、1999年から障があのある人を対象とする公募展や企画展が展開されていました。2014年からは、愛知県内の障がいのある方から寄せられた作品を展示する「あいちアール・ブリュット展」と、その中から審査により選ばれた30点を紹介する「優秀作品特別展」が開催されています。

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(画像はあいちアール・ブリュットより)

4.アール・ブリュット展 ふくい

障がいのある方もない方も共に支えあう社会づくりの一助となることを目的に開催されている、知的障がいおよび発達障がいのある方の作品展です。

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(画像は福井県より)

5.武蔵野アール・ブリュット

2017年から始まった、市民協働によって作り上げるアート展です。

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(画像は武蔵野市立吉祥寺美術館より)

6.アール・ブリュット立川

2015年から展示会や販売会、2021年にはウォールペイントなどの取り組みをされています。

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(画像はアール・ブリュット立川より)

7.ぼくらのアールブリュット

上越地域の障害のある表現活動をしている人たちがネットワークを中心に、2017年から毎年1回、展覧会を開催しています。

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(画像は新潟県アール・ブリュット・サポート・センターNASCより)

8.アートパラ深川 おしゃべりな芸術祭

10日間にわたり、江東区の門前仲町、清澄白河、森下がアートで溢れ、深川の街なか全体が美術館になるイベントです。

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(画像はハートネットより)

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(画像はアートパラ深川より)

9.NAKANO街中まるごと美術館!

アーケードの天井を空中ギャラリーと見なして大きなバナーが吊るされ、地元のギャラリーでは全国から選び抜かれた作品が展示され、ショッピングセンターの階段など随所にポスターが貼り出されます。また会期中には講演会やシンポジウム、路上イベントなどのパフォーマンスなども実施されるなど、地域で暮らす人々も巻き込みながらの祭典です。

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(画像はハートネットより)

10.かんでんコラボ・アート

2001年から関西電力が取り組んでいる、関西一円から障がいのある方のアート作品を募集して行われる展示会です。過去の展示会を体験できる、WEB展示会も公開されています。

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(画像は福祉心話会より)

それ以外にも多くの地域でアール・ブリュットの展覧会やイベントが開催されています。

アール・ブリュットの作品・商品を購入できるところ

美術館・ギャラリーで紹介した場所やそのオンラインストアなどでも作品を販売されているところがあります。

1.HERALBONYヘラルボニー

「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット。岸田奈美さんのnoteでヘラルボニーを知りました。いつかここでネクタイを買いたい。

オンラインストアや岩手県盛岡市のHERALBONY SHOPで、アパレルウェアやネクタイ、スカーフなどのファッション小物、生活雑貨、トートバッグなどを販売しています。

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(画像はHERALBONYオンラインストアより)

2.マジェルカ

東京の吉祥寺にある、日本全国の障害のある方々が作る雑貨だけを集めたセレクトショップてす。

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(画像はマジェルカより)

Tシャツなとのファッション雑貨から、インテリア、テーブルウェア、ステーショナリー、子どものおもちゃ、アクセサリー雑貨まで幅広く取り揃えています。オンラインでの販売もされています。

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(画像はマジェルカより)

3.一般社団法人障がい者アート協会 ピックアップアイテム

アートの輪を運営する障がい者アート協会のサイトで、絵画やポストカード、スマホ・PCの背景やカレンダーなどを販売されています。

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(画像は障がい者アート協会より)

4.GOOD JOB STORE

Good Job!センター香芝、アートセンターHANA、LIVE WORKS、dart、Able Art Company、tam tam dot、poRiff、西淡路希望の家といった福祉施設で働く作り手の商品を販売しているサイトです。

ファッション、バッグ・ポーチ、ファッション小物、インテリア、キッチン、ハンカチ・手ぬぐい、ステーショナリー、書籍、キッズ・ベビー、食品といった幅広い商品を扱っています。

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(画像はGOOD JOB STOREより)

5.障がい者アート Genseki

マグネットやキーホルダー、ポーチ、メガネ・ペンケースなどの障がい者アーティストとのコラボ商品を販売するサイトです。

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(画像は障がい者アート Gensekiより)

6.一般社団法人ソーシャルアートラボ~障害者アート×NFT~

インターネット上のマーケットアートのNFT作品を販売されています。

NFT:非代替性トークンとは、アートや音楽、映像作品など、唯一無二かつ代替不可能なデジタル資産にブロックチェーン上で所有証明書を行う技術です。

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(画像は一般社団法人ソーシャルアートラボ~障害者アート×NFT~より)

コラボレーション販売

企業がアーティストと契約した商品を販売されているケースもたくさんあります。その一部を紹介します。

むす美「アール・ブリュットふろしき」

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(画像はむす美オンラインより)

Tabio「アートソックス」

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(画像はsoarより)

ダイソー「パラリアンアートグッズ」

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(画像は東京バーゲンマニアより)

ニューバランス「9BOXナインボックス

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(画像はLITALICO発達ナビより)

まとめ

冒頭でもお伝えしたようにアール・ブリュットは、障がいのある方のアートだけを指すわけではありません。ただ日本では障がいのある方の…というイメージが強いようです。

調べていくうちに、障がい者アート、エイブル・アート、ボーダレス・アート、アウトサイダー・アート、パラアート、いろいろな呼び方とそれぞれの考え方があることを知りました。

芸術性に価値を置く考え方もありますし、福祉の側からの就労や賃金を期待する想いもわかります(昔作業所でアルバイトをしていました)。いろいろな考え方について、詳しくは参考にしたサイトを覗いてみてください。

学校で子どもたちが描き、形づくる作品と、アール・ブリュットの作品と、将来の進路先での作品づくりと、余暇活動としての作品づくりとは、それぞれ違うようで、淡く薄く繋がっているのかもしれません。

支援学校で働く僕は、美術の時間に入ることもあり(主担の先生の「子どもたちの手垢の残る作品を」という言葉をいつも大事にしています)、日常的に子どもたちの作品を目にします。毎年開催される県内の支援学校作品展にも見学に行き、気に入った作品のポストカードを購入します。

一方でモネが好きで、行ける範囲で開催されるモネの作品のある美術展には足を運びます。足繁くとまではいきませんが、ちょこちょこ美術館へ足を運びます。気に入った作品のポストカードを購入します。

ポストカード集めは僕のささやかな趣味の1つですが笑、アルバムにはお気に入りのカードが並んでいます。僕にとっては気に入ったかどうかが大事なポイントで、誰が描いたのかは二の次です。

上手くは言えないのですが、そういうものなのかなというのが今の僕の考えです。

まぁあまり深く考えず、紹介したいろんなサイトを覗いてみてください。きっとビビッとくる作品に出会えるはずです。楽しみにしていてください。


参考にしたサイト

1.ボーダレス・アートミュージアムNO-MA「アール・ブリュット/交差する魂」

2.日本財団「アール・ブリュット支援」

3.TRANS.Biz「アールブリュット」の意味とは?提唱者や作家・美術館も解説」

4.NHK福祉情報サイト ハートネット「あがるアート」

5.エンタメ特化型情報メディアスパイス「日本全国のおすすめアール・ブリュット(アウトサイダー・アート)美術館7選」

6.『日本におけるアール・ブリュットの展開─脱境界の芸術と福祉の実践─(宮地 麻梨子)』

7.『「アール・ブリュット」と障がい者アート : 「芸術」として「、支援」として、そして「コミュニケーション」として(関   久美子)』

8.TRANS「『障がいのある方のアート』その魅力に迫る~企業がグッズに採用することの意味~」


表紙の画像は、Bloomoi Brilliaより引用したヘラルボニーのアートライフブランド「HERALBONY」の2021年度キービジュアルです。