お金がもたらす幸福度の限界②
バッグを購入してからの日々は長かった
失態を思い出してはかすれたうめき声叫び声をあげたり、買ったバッグの写真をみて、ほくそ笑んだりを繰り返す情緒不安定な状態が続いていた
イギリスから荷物が届いたのは、それから2週間が経った夜
その日も酒を飲んでいた私は、茶色い段ボールを受け取ったときは、すぐにこれがなんの荷物かはわからなかった
ただ、張り付けられた伝票には英語が並んでいたので、
これはもしや
酔いも覚め一心不乱にガムテープを引きちぎると、
高級感ある牛革の香りが漂った
中には、写真に見た通りのブランドバッグが入っていた
か、かわいい!!
パジャマ姿のままバッグを持って小走り、鏡の前でポーズをとる
ブランドのロゴと目があい、笑みがこぼれる
一気に「高い人間」になったような気がする
買ってよかったという熱い思いがふつふつと沸き上がり、後悔の念はどこかに消えてしまった
その夜は、満足感のまま、久々に深い眠りにつけた
しかし、翌朝目を覚まし、バッグのロゴと対面したとき、
不思議なことがおきた
あの高揚感がなかった
私のものになったかわいいブランドバッグは確かに床に置いてある
形が変わったわけでも、偽物にすり替わったわけでもない
同じものがある
もちろんデザインはよく高級感があり、かわいいと思える
それなのに、機能感じたあの興奮を少しも感じられなかった
はっとした、とはこのことだ
買い物で得られる鮮烈な快感は一瞬なのだと気づいたのだ
お金で得られる喜びは、私たちを快感でとろけさせ、それまでの労働の苦労さえ昇華させてしまう強烈な麻薬なのだ
しかし、薬の濃度が下がっていくと、途端に頭がぼーっとして、気持ちは下がる
また、きっと心が疲れた私は、すぐに、この快楽を欲してしまうだろう
私はバッグを袋に包み、クローゼットの奥にそっとしまい、なにもない自分を鏡に映してみた
パジャマをきた、昨日と変わらぬ私
しいて言うなら、髪がぼさぼさになった寝起きのみすぼらしい私がいる
昨夜、ブランドバッグを持った時は、こんな風貌でさえ自信を持てた
何もない私は、果たして自信を持てるだろうか
あの英字のロゴに、自分の価値を託してしまわないだろうか
自分が、ブランドの付属物になってしまわないか
ブランドを金払って宣伝する人にもなってしまわないか
矮小な私が、ますます矮小にならないだろうか
やはり、買うべきではなかったのだ 私には、まだ早かった
深い後悔に襲われていると呼び鈴が鳴った
茶色い小さな箱の中には、きらきら光るネックレスが入っていた
ハイブランドのネックレスだった
私は、パジャマの上からそれをつけ、鏡の前で笑顔を抑えられなかった
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