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チェコ語翻訳、の話

これは私が実際におこなっている翻訳ノートの、とあるページの画像です。

チェコ語の論文をノートの左ページに書き写し、それを一語ずつ手動で翻訳します。そして右ページに意訳した文章をまとめています。

今回翻訳している論文は1976年に制作された、「フス派の紋章」と題された論文、または歴史書です。
(論文と歴史書の区別がいまいちよく分かっていません)
どうやら、フス戦争時代に活躍した貴族について書いてある書物のようです。ネットにPDFがあったのでダウンロードし、ノートに書き写しました。

しかし全文を書き写すのはとても大変な作業ですので、ざっと読んで大切そうな箇所をピックアップして、その近辺の10ページぐらいを書き写すことにしています。

でないと全500ページのものとかザラにあります。そんなの、一生かかってもできなさそう(笑)。

ざっと読んで、と言いましたが、わたくし、チェコ語を学校や塾などで習ったことはございませんので、何が書いてあるのかはさっぱり分かりません。
そこで道しるべとなるのが、年代を記した数字と、人の名前や地名です。

むしろ、この三つさえ読解できれば、そのページにどんなことが書いてあるか予測することができるのです。

例えば、文章の中に1424という数字と、Jan Žižkaという名前があったとします。
ヤン•ジシュカというのは人名で、彼は1424年に亡くなります。
よって、そのページにはジシュカが亡くなる時の事が書いてあるんだな、と予想できるのです。

そこで注意すべきは、チェコの人名は多くが地名と同じだということです。
15世紀のチェコの人は、苗字の代わりに自分の出身地を名乗ります。
よって、その論文に書いてあるのが人名なのか地名なのかを見極めることも、翻訳の上では重要になります。

私の好きな人物に「ヤン•ロキツァナ」という人がいます。
彼はロキツァニという村の出身なので、ロキツァナと名乗るのです。

しかし彼本人もさることながら、ロキツァニ村という場所自体もフス戦争の重要な土地なので、ロキツァニ村自体を主題とした論文さえあります。

翻訳を始めたばかりの頃はその見極めができておらず、ロキツァニという語句が出て来れば「ヤン•ロキツァナ」という人物のことが描かれているものだと思い込んで翻訳し、実は「村」のほうの記述だったと知るまで、めちゃくちゃな文脈で翻訳していたなんてこともありました。

まあそんな感じで、なんちゃって我流の翻訳ではありますが、気づけば翻訳し続けて三年が経とうとしています。
継続するって良いものですね。いろいろと読み解く力がついてきたのを感じます。

例えば一つの論文だけでは分からないことも、他の論文を翻訳してすり合わせることで、意味が結合することがあります。それまでに得た知識が役に立つのは嬉しいことです。

あと、その論文を書いた人が歴史のどの部分を重視しているかとか、どこを端折っているかなども見えて来るようになりました。そして、端折られた箇所の情報を自身の知識ボックスから補填することも、今では可能となっています。

見慣れた単語も増えて来たので、論文を読みながら「ああ、この単語は『貴族』だな」とか、「これは誰かが『死ぬ』という単語だべ」と、翻訳機なしで読める箇所が増えたのも嬉しいことです。


そこで思うのが、この全手動のアナログな翻訳作業をすることが、実はとても重要なんじゃないかということです。

もし、チェコ語の論文を全て自動翻訳して、それを読むだけの勉強をしていたとしたら、フス戦争の知識は得られるかもしれませんが、物語として人に語れるほどに、脳に刻むことはできていなかったと思うのです。

私がnoteにフス戦争の解説文を書くとき、実はほとんど何の資料も見ずに書いています。(年代などの答え合わせのために、後から資料を見たりはします)

それって、翻訳のときに苦労したから、脳がよけいに強く覚えているんでしょうね。

ノートの右ページの意訳は、かなりアレンジしてある箇所もあります。誤訳の部分もあるかもしれないけど、全体的な流れは合っているはずです。
例えば今回の画像にある訳文のピルゼンについての箇所は、知識ボックスからの補填を多く使用しました。

ピルゼンは交易都市です。いくらフス派の力が強かったとしても、国外から「フス派を支持するなら取り引きはしないぞ」と脅されれば、商人たちは反フス派になびくほかありません。

ヤン•ジシュカがピルゼンを去ったのは、そういった背景があるというのを私は感じていたので、そのような翻訳にしたのです。

フス戦争の研究を重ねるうちに、私はいくつかの仮説を立てるようになりました。
ピルゼンの商業的感情も、その仮説のひとつでした。
それらの仮説を立証するような論文や歴史書に出会うのも、またこの上ない喜びなのです。

えーと、とりとめのない話になってまいりましたので、今回はここまで。

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