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「上機嫌の思想」の系譜に連なっていたい 2020/04/12

『龍彦親王航海記』ついに読了。
後半はちょっと浮世離れした澁澤龍彦のエピソードがさもありなん、と言う感じで色々紹介されていた。

 結婚前のある日、二人は銀座の画廊で会う約束をしていた。待てど暮らせど澁澤は現れない。怒り心頭に発した龍子が帰りがけに家によると、「だって眠かったから寝ていたの」と澁澤はケロッとしていた。「エッ! あなたの眠いのと龍子とどっちが大事なのよ」と怒ると、澁澤は、「だって、この宇宙はぼくを中心に回っているから、これからもずっとそうだよ。そんなことで怒るのはおかしいよ」といけしゃあしゃあと言った。
P.298

まぁこんなん言われたらふつう噴飯ものだろうな⋯⋯。

銀行で自動支払機からお金が出るのにびっくり仰天して、自分もやりたいと何度もボタンを押してお金を残らずばかばかと出してしまった
P.459
いつだったか、ちょうどなにか差別問題が起こっていて、内藤君[河出の編集者の内藤憲吾]と二人で澁澤さんの前で差別問題について話したことがあったんですが、(中略)そうしたら、澁澤さんはほんとにきょとんとされて、それからめずらしく、だんだん不機嫌になって、「わからんな、みんな仲よくすればいいじゃないか!」と(笑)。
P.462

これも澁澤らしいエピソード。

澁澤龍彦は、割とアンケートには律儀に付き合って回答していたらしい、と言うのが意外。もっとも、回答内容はいつもストレートで苦笑いするしかないようなものもあるのだけど。

「ビートルズとわれらの時代」というアンケートが「別冊太陽」でおこなわれ、澁澤はそこにも回答を寄せている。しかし、ビートルズなど聞いたこともないので好きも嫌いもない、という木で鼻をくくったような、にべもない回答である。
P.409

澁澤への批判に言及した箇所もあるのだけど、澁澤への批判は内面の葛藤とかルサンチマンがない。色々な作品を下敷きにした翻案、剽窃みたいな作品ばかり。澁澤自身には中身が何もない、と言ったようなものが多い。でも種村季弘を筆頭に、擁護派としては澁澤のそう言うところが面白いんである。

のちに富士川は澁澤龍彦を、『快楽論』の幸田露伴を元祖に据えて、谷崎潤一郎、石川淳、吉田健一らが受け継ぐことになる「上機嫌の思想」の系譜、すなわち「自我がどうの、内面がどうのなどといった、近代以降の日本文学の重要な関心事だった問題に対して、超然としているというか、ほとんどまったく無関心な態度を貫いた」文学者たちの系譜の一人に位置づけている。(「上機嫌の思想」)
P.448

谷崎潤一郎も吉田健一も澁澤と同じ「上機嫌の思想」の系譜、というのは大好きな自分の嗜好をわかりやすく言語化された気がしてハッとしてしまった。自分の好きなものはそういったものだったのだな。確かに、内面がとか、自我がとか、人生がとか、そういうのちょっと重すぎるというか、本人が本気であればあるほど滑稽に感じる。多少なりとも面白い分には良いけれど、そもそも悩みなんてほとんど思考停止して堂々巡りしているだけだとか思ってしまうので、根底にはそういうものに対する無関心があるということなのだろう。

澁澤龍彦は8月5日、本を読んでる最中に死んだ。享年59歳。自分も死ぬまで好きなコンテンツに囲まれて暮らしたい。日影丈吉、吉田健一、世界幻想文学大系といった学生時代に欲しかった全集ものは早めに確保して、読みたい本を読み、観たい映画を観て、やりたいゲームをやる。好きなものにもっと耽溺して楽しく過ごしていこう。




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