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ドイツの国民的トランプゲーム 「スカート」

こんにちは。

おうち時間が増えている人も多いと思うので、今日は、ドイツで200年以上の歴史があるトランプゲーム"Skat/スカート"の紹介をしたいと思います。

トランプの52枚のカードから2〜6を除いた32枚のカードを使って3人で対戦するゲームになります。

ルールは上記のサイトや日本語でもいろいろなところで説明されているので、省略することにして、ここでは、スカートの歴史やドイツでスカートがどれくらい浸透しているかについてお話します。

1. スカートの始まり

「Skat/スカート」は19世紀にドイツのテューリンゲン州で誕生し、1830年代にドイツ全土へ広まったという歴史あるカードゲームです。

1813年にテューリンゲン州のアルテンブルクという町でスカート(当時の表記は"Scat")に関するメモが見つかったのが、スカートに関して言及されている最古のもの。

スカートはその頃あった3〜4つのカードゲームをもとにできあがったと言われています。

他のカードゲームと同様に、地方や場所によって「独自ルール」や「変則ルール」などがあったため、「基本ルール」を統一するために、1886年に「第1回スカート会議」がアルテンブルクで開催され、1899年には「ドイツスカート連盟」が設立されました。

その後、スカートの全国大会が開かれ、ルールについて話し合ったり揉め事を解決したりするためのスカート裁判所もできました。
スカート、ドイツ人にとってどれだけ重要だったんだ!!


2. 戦時中のスカート

スカートには様々な専門用語があるのですが、情熱的なプレーヤーたちは、スカートは「遊ぶ」のではなく、「kloppen/叩く」と言うそうです。
見出しの写真のように、熱が入るとカードをテーブルに叩きつけることからきているようです。

スカートは第一次世界大戦中も「叩かれて」いたようで、兵士たちがスカートを「叩いて」苦しさを乗り越えた様子が書籍に残されていたり、家族へ送る手紙の中にも、スカートを「叩いていた」様子が戦争のこと自体よりもとても頻繁に書かれてしたりするそうです。

この頃何十万セットものスカートカードが印刷され、兵士たちには無料で配られたようです。
このエピソードも、どれだけスカートが兵士を困難から救っていたのかを物語っていますね。

少し余談になりますが、アウシュビッツの強制収容所に送られた人たちも、寸劇をしたりこどもたちを笑わせたりと、どんな状況の中でも遊びを忘れずに、苦痛を乗り越えようとしていたようです。

遊びの力って、本当にすごいですよね。

3. ドイツのトランプカード

ドイツでも現在は日本で手に入るような所謂トランプのカードを主に見かけますが、元々はドイツ独自のカードがありました。
日本で使われているカードは、ドイツでは「フランス式」と呼ばれています。

ドイツ式のカードは、
クラブは「Eicheln/どんぐり」、
スペードは「Grün/木の葉」、
ハートは「Rot/ハート」、
ダイヤは「Schellen/鈴」
となっている、とてもきれいなカードです!

このカードたちがたくさん刷られて、兵士たちに配られていたんですね。

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ちなみに、トランプの52枚のカードから2〜6を除いた32枚のスカートカードを私が初めて手にしたのは、日本からフェンシングの遠征に来ていたこどもたちの通訳をしていたときのこと。
参加していた女の子が、ドイツの名所が描かれたトランプカードをドイツのお土産にと買って電車の中で開けてみたところ、32枚セットのスカートカードを買ってしまったようで、「カードが揃っていない!!」とみんなでびっくりしました。
私はその頃スカートの存在は知っていたもののルールは知らず、調べて電車の中で試してみたのですが、その後すぐに目的地に着いてしまい、少ししかできなかったのを覚えています。

あの子、あのカードでスカート「叩いて」いるかなぁ?

ドイツには、スカートの他にも"Doppelkopf/ドッペルコップ"というカードゲームがあり、ドッペルコップカードは、トランプの52枚のカードから2〜8を除いた24枚の2セットの48枚。

ドイツでお土産にトランプを買う際には、一度中身を確認してくださいね。

4. スカートの残した形跡

スカートは戦後もドイツ全国に広まっていったようで、1920年にクルト・トゥホルスキーさんというジャーナリストが、

ドイツ人は、心が震えるときには歌わない。スカートをするのだ。
Wenn dem Deutschen so recht wohl ums Herz ist, dann singt er nicht. Dann spielt er Skat.

と書いたほど。

他にもオペラ作品や絵画、また映画にもなった小説『ブリキの太鼓』にもスカートを「叩く」場面が登場するほどの浸透ぶり。

文化人や政治家、労働者に学生まで、ドイツ人の日常に広く深く根付いています。


5. 現在のスカート

スカートはなんと、ユネスコの無形文化遺産に登録されています!
しかも、フレーベルのキンダーガーデンを押しのけての決定。

ドイツ人のスカートへの情熱には驚かされることだらけです。

ドイツには、スポーツや様々な娯楽などのVereinというクラブ活動のような団体があるのですが、全国で約60万のVereinがあり、国民全体の44%が何かしらのVereinに所属しているそうです。

スカートのVereinはドイツ全国で1600以上、そのうち1週間に少なくとも1回は集まってスカートを「叩く」Vereinがベルリンだけでもなんと約200も!
スカートのプレイヤーは20〜25万人と、世代は違えど、サッカーよりも多いそうです!

現在はプレーヤーの年齢層も上がってきて、若い世代にもスカートを広める動きもあるようです。

ドレスデン建築家の友達は、みんな若いけれど、毎週水曜日には近くのバーでビールを飲みながら事務所の同僚たちとスカートを「叩いて」います。

全国大会などのためにルールが統一されて基本ルールができたものの、オフィシャルではなく趣味でスカートをしている人たちの間では、やはり、「独自ルール」や「変則ルール」があるようで。

スカートでもドッペコップでも、初めて一緒にする人や出身が違う人たちの間では、始める前に「ルール合わせ」をするそうです。
みんな自分がやってきたルールが正しいと思っているので、この時点で既にケンカになることもあるのだとか。

そういうのが、いいなぁ。遊びだなぁ。と、私は思うのです。

スカートに関する書籍も多く出ているし、今はインターネットでルールも調べられるし、たくさんの言語に訳されているけれど、スカートでも他のどんな遊びでも、人から教えてもらうのがやっぱりあったかくて嬉しくて、生きた遊びを受け継がせてもらえることがありがたいのです。


ドイツには他にも有名なトランプゲームもありますし、本当にたくさんのボードゲームも出ていますが、ここまでドイツに深く広く根付いているスカート。

おうち時間が増えた今、家族でスカートを「叩いて」みてはどうでしょうか?

外出規制で友達とも集まれないし、3人もプレーヤーが集まれない、という人は、オンラインでもできるみたいなので、ぜひ。




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