空は何色?まい子の授業

まい子は言葉が出なかった。

「わたしは空は黄色いと思うなあ」
「あかりちゃんはそう思うんだね。わたしは今日は緑で、ときどきピンク!」
「僕はかっこいい青だと思うなあ。透明色の空も好き」
「先生は空って何色だと思う?」

まい子は先生と呼ばれ、子どもたちの笑顔に目を丸くしていた。どうしよう、そんなこと考えたことなかった。いや、考えていたこともあったはず。でももう忘れちゃった。忘れなきゃっていつか諦めていた気がする。この子たちはまだきらきら光る心をもっているんだ。私は空をしばらく見たことがあっただろうか。何と言えば先生らしいだろう。変な方向に頭がねじれて、単純な言葉がいまいち出ない。

「空かあ…」

まい子は空の色は、青いだろうなと思った。これまで散々見てきたつもりではいる。少なくともこの子たちよりは10年以上生きてるわけだから、1日1回天気予報を確認して、365日空を見上げたとしても、かなりの数だろう。でもそれは空を見ていたと言えるのだろうか?

私の空…とまい子は胸の中で唱えた。まい子は空が思い浮かばなかった。目を瞑って見えたのは、灰色の丸いモヤモヤだった。昨日の彼との喧嘩や、頬を打たれたこと、先輩からの叱咤、風呂場でうずくまって「助けて」と嗚咽したことが脳裏によぎる。

「灰色かも…」

まい子は素直に呟いた。ちょっと後に「しまった、これは先生っぽい姿ではないかもしれない」と思った。子どもたちはにこにこして返事をした。

「灰色すごーい!」
「先生は灰色?」
「今日も雲がいっぱいだよね」

まい子は自分の空は汚れてしまったと勝手に落ち込んでいた。どうして子どもと関わってこんなにお給料が貰えるんだろう。救われてるじゃない。まい子の体の外側の殻がひとつ剥がれている。子どもたちが純真に飛び交わすシャトルを眺めていた。まい子は付け加えた。

「でもいつもは透明色かな?そう……君と同じ」

まい子の目には熱く潤ったものがいっぱいになっていた。

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