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メンマは発酵食品です 〜自家製メンマなんて怖くない!?〜

前回のnoteで、皮付きのたけのこをアク抜きし、発酵・天日乾燥させて自家製メンマを作ったことを書きました。
異臭に耐え、22日もの時間を費やしたにも関わらず、結局メンマらしいメンマを作ることができませんでした。残念。

なぜ、メンマにならなかったのでしょうか。
メンマの製造原理を確認しながら考察してみます。

1.メンマができるわけ① 乳酸発酵

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アク抜きしたたけのこは皮を剥き、カットしてから重量の20%の塩に漬けました。ここで起こるのは「原形質分離」「乳酸発酵」です。ザワークラウトと同じですね。

さらっと説明します。
高濃度の塩分によって浸透圧がはたらき、細胞膜内の水分が外へ出ていくことにより原形質が収縮し、原形質分離が起こります。細胞は本来の機能を失い、水分や酵素の細胞内外の移動が自由になります。酵素が活発にはたらくことで甘味や旨味、香りなどの成分が作られます。

高濃度の塩分によって雑菌の繁殖が抑えられます。一方でたけのこにもともと存在していた乳酸菌が繁殖して、乳酸を作ります。乳酸によって酸性の環境になるとさらに他の菌の繁殖が抑えられ、乳酸菌がもっと増えることになります。

ここで疑問が出てきました。
アク抜き処理のためにたけのこを長時間ゆでても、乳酸菌は死んでしまわないのでしょうか?

今回はアク抜き処理のため1時間半ゆでました。米ぬかを加えたとはいえ100℃近くにはなっています。乳酸菌は60℃でも30分加熱すると死滅してしまうそうです。いはんや100℃をや。
ということは乳酸菌はもとより、たけのこに住んでいた微生物たちは全滅してしまったのでしょうか。

調べてみると、有胞子性乳酸菌というものが存在することがわかりました。
これは芽胞を作る乳酸菌だそうです。一部の細菌は、乾燥状態や高温状態などの繁殖に適さない環境におかれると分厚い膜で自分自身を包み込み、身を守ります。これを芽胞と言います。
環境条件が良くなると芽胞から発芽し、再び活動を始めます。芽胞の状態になると、100℃以上の高温や消毒用エタノールにも耐えるそうです。

常温で一晩寝かせたカレーやシチューで起こる食中毒は、芽胞を作る菌によって引き起こされます。調理の加熱に芽胞を作って耐えた菌が、冷めて温度が下がってから活動を再開して増殖、毒素を作り、それを人間が食べて食中毒になるというものです。

たけのこに存在する乳酸菌が芽胞を作るものかどうかは不明なのですが、1時間や2時間の加熱に耐えて、なおも繁殖しています。有胞子性乳酸菌という可能性はあるでしょう。

2.メンマができるわけ② 天日乾燥

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たけのこが乳酸発酵したら、天日乾燥させます。
乾燥によって「保存性の向上」「食感の変化」という効果を得られます。

乾燥して水分が少なくなった食品は長期間保存することができる、というのは感覚的に分かるかと思います。が、小難しく言い換えると、水分活性が低下することで保存性が高まると表現できます。

食品にはどんなものにも水分が含まれています。この水分は結合水自由水というものに分けられます。
結合水とは、食品中の成分(たんぱく質、でんぷん、糖など)と結合している水分です。一方そうでないもの、何者にも縛られていない水分のことを自由水と言います。加熱したり乾燥したりして蒸発するのは自由水で、結合水は食品成分と結びついているため食品中に留まっています。食品が腐ったりカビたりするときに、微生物に利用される水分も自由水です。

そのため食品中の自由水の割合が、食品の保存性に関わってきます。
食品に含まれる全ての水分のうち、自由水が占める割合のことを水分活性と言います。

水分活性が高い食品(自由水の割合が多い食品)は、微生物が利用できる水分が多いので、微生物が活発に増殖して腐敗・変質しやすく、水分活性が低い食品(自由水の割合が少ない食品)は腐敗・変質しにくいということになります。

水分活性の面白いところは、水分が多い=水分活性が高いとは言えないところにあります。

例を挙げると、ジャムはとろみがあって水分が多そうに見えますね。ジャムを作ったことがある方はお分かりになるかと思いますが、ジャムは見ているだけで高血糖になりそうな量の砂糖をじゃんじゃん加えて作ります。浸透圧により果物から出てきた水分は、砂糖と結合して結合水となります。従って、腐敗の元となる微生物が利用できる自由水の割合は少なくなります。だからジャムは長期保存が可能なのです。

乾燥に話を戻します。

乾燥によって蒸発する水分は自由水ですね。
食品を乾燥させると自由水が少なくなるので、水分活性が低下して保存性が高まるということが言えます。

食品を乾燥させると、食感の変化も起こります。
例えばするめ。乾燥前の生のスルメイカはぐにゃりとやわらかく、弾力があります。乾燥させると、なかなか噛み切ることができないくらい固くなりますね。

切り干し大根も食感が変化します。乾燥前の生の大根は固いです。乾燥させて切り干し大根になると、水に浸して再び水分を含ませても以前のように固くはならず、独特のパリッパリッとした歯応えが出てきます。

メンマに関して言えば、乾燥させることで長期保存が可能になり、メンマ特有のくったりやわらかい食感に変化するのだと考えられます。
現代は冷蔵庫や冷凍庫を使えば、私たちでも食品をある程度長い期間保存することが可能です。しかしそのような家電が存在しない時代、乾燥は食品を長期保存する簡便かつ重要な手段であり、メンマも保存食のひとつとして食べられていたのではないでしょうか。

3.自家製メンマの改善点

乳酸発酵と天日乾燥というメンマの製造原理を押さえた上で、今回のメンマ作りの反省点を考察します。

(1)発酵状態を確認する
工程②において納豆臭に怖気付き、次の工程に進んでしまいましたが、ここで乳酸発酵ができているかきちんと確認すべきでした。
どうやって確認するかというと、

食べてみる

しか現段階では思いつきません。
乳酸発酵できていれば、乳酸菌が作り出した乳酸によって酸っぱい味がするはずです。

たとえ納豆臭を発していても、勇気を出せば、

それを口にすることが、

私には、


…やっぱりできません。

(2)完全に乾燥させる
今回は陰干しを4日しか行っていませんでしたが、もっとしっかり乾燥させるべきだったと思います。

ある食品メーカーのサイトに掲載されていたメンマの製造工程を見てみると、するめのように縮まってカチンコチンになるまで乾燥させていました。そこまで乾燥させるとたけのこの繊維もさすがにやわらかくなり、食感の変化が期待できるでしょう。

そこまで乾燥させるのであれば、陰干しでは乾燥に時間がかかるため変質・腐敗のリスクが高くなります。しっかり天日に当ててできる限り短時間で乾燥させたほうが良いでしょう。

(3)成長したたけのこを使う。
山でたけのこを収穫する場合、地面からにょきっと生えているたけのこを見つけて採るようなイメージがなんとなくあります。
しかし実際はほとんど地面から見えていないような状態のたけのこを、足の裏の感覚で見つけて掘り起こして収穫します。
1ニョッキ2ニョッキと地面から立派に生えているようなたけのこはもう育ちすぎていて、アクが強く筋張って美味しく食べられません。

先程(2)で参照した食品メーカーのメンマ製造工程のページを見てみると、本格的なメンマに使われる麻竹は1ニョッキ2ニョッキもいいところ、120cmくらいに成長した麻竹を刈り取るそうです。
麻竹と孟宗竹という品種の違いはありますが、120cmにも成長していればそれなりに繊維が固く筋張っていると考えられます。その繊維がメンマの特徴的な食感を作っているのではないでしょうか。

日本で手に入る孟宗竹であっても、通常流通しているたけのこよりも、もう少し成長して繊維が固くなったようなたけのこの方がメンマに向くような気がします。
前回のメンマのお勉強で少し触れた、日本で放置竹林を整備・活用する目的で孟宗竹からメンマを作っている企業のサイトを見てみると、「人の背丈ほど伸びた竹の先端1mほどの部分がめんまの原料になります」とありました。やっぱり。

では実際に、そんなたけのこをどうやって入手するのか。
それはもう、たけのこが自生する山を所有している人とお友達になるしかありませんね!

4.自家製メンマを作って考えたこと。

こんなに手探りで自家製食品を作ったのは久しぶりでした。
納豆臭が発生したときにはどうなることかと思いましたが、最終的に期待したようなメンマにはならなかったものの、食材を無駄にすることなくきちんと食べられる状態に落ち着いたので、ひとまず安心しました。

自家製食品を作る際、想定外のことが起こったときに失敗だと思い込んで中止し、それを捨ててしまう人もいると思います。

例えば味噌作りで、味噌を発酵熟成していると発生するカビ。昔、味噌作りの最中にカビが発生したとき、私は「食べ物にカビが生えるなんてあり得ない!本当に大丈夫なの?」と不安でいっぱいでした。
でも発酵熟成中は、結構普通にカビが生えるんですよね。適切に処理すれば問題はないですし、味噌の状態が安定するとカビも生えなくなります。そういうことを知ったうえで味噌作りの経験も積めば、「何このカビ、おもしろ〜い♡」とカビを愛でる余裕も出てきます←先日の私。

今回のメンマに関しては私も見切り発車で、予備知識がほぼ無いままに作り始めてしまいました。
でも「これだけ高濃度の塩に漬けていればそうそう腐ることはないだろう」とか「臭いけれども見た目の状態は悪くなってはいない」とか「このまま陰干しを続けると中途半端に水分が残ってるからカビるかも」など、今まで様々なものを作ってきた知識や経験から判断することができました。

私はnoteで、食品の作り方だけでなく浸透圧だとか原形質分離だとか、食品の製造原理についても触れてきました。
正直、作り方だけを見れば作れます。でも原理の部分まで理解することができれば、食品加工の世界がぐっと広がるのではないでしょうか。成功か失敗か自分で判断ができるようになったり、別の食材を使ってアレンジができるようになったり、自分好みの味に調味料の配合を変えられるようになったり。
そういうふうに世界が広がると、作ることがもっと楽しくなります。

これは私が考える、食品加工のおもしろさのひとつです。
ほかにもまだまだあるのですが、それはまた別の機会に。

ではでは。

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