脱炭素DX革命 〜世界の動向と日本企業の挑み方〜
「カーボンニュートラル」って何?
近年さまざまなメディアで頻繁に見聞きする”脱炭素“、”カーボンニュートラル“という言葉。meetALIVEにも「テーマとして取り上げませんか?」という多くのリクエストをいただいておりました。そこで今回は、満を持して素晴らしいゲストをお招きしてトークセッションを開催!
今さら聞けないカーボンニュートラルの基礎、世界や日本の動向、ビジネスとの関係性や現状の課題まで話していただきました。
私たちが所属する企業、関わっている事業において、一体どんなビジネスチャンスがあるのか?一緒に探ってみましょう!
【ゲストスピーカー】
大場 紀章氏
エネルギーアナリスト
合同会社ポスト石油戦略研究所 代表
株式会社JDSC フェロー
京都大学理学研究科修士課程修了後、株式会社テクノバに入社。自動車産業の視点から化石燃料や電力などのエネルギー供給や、次世代自動車技術の調査研究に従事。ウプサラ大学、中国石油大学に短期留学。2014年に独立し、フリーランスのエネルギーアナリストを経て、2021年6月にポスト石油戦略研究所を設立。ポスト石油時代における日本のエネルギー安全保障や産業戦略について調査研究および提言を行っている。株式会社JDSC(Japan Data Science Consortium Co. Ltd.)フェロー。主な著書に『シェール革命―経済動向から開発・生産・石油化学』(共著、エヌ・ティー・エス)などがある。
藤田 研一氏
K-BRIC & Associates代表
ENECHANGE株式会社 取締役 / リプコン株式会社 上級顧問 / Red Yellow and Green株式会社 顧問
経済同友会環境資源エネルギー委員会 副委員長/同国際委員会 副委員長
社団法人国際投資情報財団 シニアフェロー
日系電機メーカー、金融系シンクタンク国際コンサルティング部長を経て、2006年よりSiemensに勤務。ドイツ本社勤務2回、日本法人社長2回、本社事業開発ダイレクター、日本法人エナジーセクターヘッド、シーメンス日本代表(代表取締役兼CEO)、同会長を経て2021年1月より現職。在独13年。
事業経験分野は、エナジー、産業機器、オートモーティブ、ヘルスケア、物流、ICT。
著書に『日本人が外資系企業で働くということ/グローバルビジネス重点戦略ノート』(ダイヤモンド社)、『戦略経営ハンドブック』(中央経済社)他がある。
【ファシリテーター】
福本 勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
株式会社コアコンセプト・テクノロジー アドバイザー
ウイングアーク1st株式会社 アドバイザー
1990年 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。同年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業やマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。
また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジー、国内トップシェアの帳票・BIソフトウェアベンダーであるウイングアーク1st株式会社のアドバイザーもつとめている。
主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』、『デジタルファースト・ソサエティ』(いずれも共著)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT(SBクリエイティブ)の『第4次産業革命のビジネス実務論』がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。
福本さん:
カーボンニュートラルとは、CO2を含む温室効果ガスを「いっさい出すな」というわけではなく「出したぶんだけ分離や回収をして、プラスマイナスゼロにしましょう」という取り組みです。
2021年に開催された『COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)』では、産業革命前と比較した気温の上昇を1.5℃までに抑えるべきなのか、2.0℃まででよいのかという議論がありました。
こうした中で求められている「地球にやさしい事業」とは具体的にどういうことだと思いますか?
藤田さん:
ひとつの考え方として、カーボンニュートラルの実施によってビジネスの糧とするということがあると思います。温室効果ガス削減を意識するのはもちろん、自社の製品が排出するCO2をどのようにコントロールしていくかという発想が「地球にやさしい」ということにつながるのではないでしょうか。
大場さん:
数年前までは「少しでも減らそう」でしたが、カーボンニュートラル、つまり「ゼロにしよう」と言われるようになったのは最近のことなんですよね。
そのきっかけは、まさに先ほどの「1.5℃か2.0℃か」という話で。2018年にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が発表した『1.5℃特別報告書』では、将来の地球環境に与える影響について、その0.5℃の差がかなり大きいと評価されています。
1.5℃までの上昇に抑えるという目標を達成するには、2050年までには温室効果ガス排出をゼロにする必要があるというシミュレーションもありました。そうした背景があり、ここ数年でカーボンニュートラルが大きく推進されたのです。
福本さん:
日本では2020年10月の臨時国会で当時の菅総理が「2050年カーボンニュートラル」を宣言していました。また、2021年4月のサミットでは「2030年には温室効果ガス排出46%減を達成します(2013年比)」と。これは京都議定書やパリ協定の頃と比べると、かなりハードルを上げてきていますね。
大場さん:
そうですね、京都議定書の頃は6%減などと言っていましたから。確かに「2050年にはゼロ」から逆算するとそれくらいは必要だと思いますが、2030年ってあと8年しかありません。その短期間で46%減とは、産業的にかなりインパクトが大きいと感じています。
福本さん:
日本におけるカーボンニュートラルの課題は何でしょう?
大場さん:
温室効果ガスの削減目標って、以前はもっと政治的なトピックだったんですよね。しかし今は、どんどんビジネス的なトピックに変わっています。欧州の企業がカーボンニュートラルに本気で取り組んでおり「そうではない企業とは取引をしない」ということまで言い始めているのが現状です。こうした変化をしっかり理解していない日本の企業がまだまだ多いことが、課題のひとつだと思っています。
福本さん:
そうした状況を踏まえて、日本もカーボンニュートラルに取り組んでいかなければなりませんね。meetALIVEを主催するMIJSコンソーシアムは多くのIT企業で構成されていますが、デジタルテクノロジーのカーボンニュートラルへの貢献について大事なポイントを教えていただきたいです。
藤田さん:
2点あります。1つ目は、デジタルを目的とするのではなく手段として活用することです。例えば、カーボンニュートラル実現のために自社ビルのエネルギー効率向上に取り組むミッションを立てたとして、その手段として初めてデジタルが必要とされるという順序が正しいということです。デジタルありきで何をするかではなくて、ですね。
2つ目は、企業のカーボンニュートラルへの取り組み姿勢や考え方を、すべての従業員へ浸透させることです。フランスのインシアード(欧州経営大学院)によるグローバル経営者を対象とした統計では「気候変動問題が自社にとってリスクだと思いますか?」に対して75%がYESと答えています。ところが、現場の一般社員に「あなたの会社は明確にCO2削減目標を持っていますか?」と問うとYESは4割しかいません。つまり、経営者の意識と現場の認識にギャップがあるということです。このような状態では、いざデジタルテクノロジーを導入してカーボンニュートラルへの取り組みを加速させようという時に、うまく進まない可能性があります。
藤田さん:
カーボンニュートラルを意識した経営に関しては、どうしてもお話したいことがありまして。
国や地域としては「2050年カーボンニュートラル」を目標としていますが、グローバル企業は軒並み「2030年」を見据えているんですよね。欧州のグリーンディールがターゲットとしているのも基本的に2030年です。そうした中で大事になってくるのがライフサイクルアセスメントという考え方。自社製品そのものだけでなく、生産における資源採取や原料生産、流通、廃棄やリサイクルまですべてひっくるめて環境負荷を定量的に評価しようというものです。「うちの製品はもう対応しているから大丈夫」では済まなくなってくるかもしれません。
また、製品を使っていただく顧客に対してテクノロジーをどう活用するかというのもポイントです。シーメンスでも2030年カーボンニュートラルをめざして推進しているのですが、自社と比べて顧客企業のCO2排出量は42倍なんです。ここに着目しまして、例えば先ほど例に挙げた自社ビルの脱炭素化をテクノロジーで効率化するようなことを行い、自社での実績をつくります。その上で営業をかけて、顧客の脱炭素をサポートしようというわけです。その事例を世界中に広めて、また新しい顧客を獲得する……こうなると、カーボンニュートラルがひとつのビジネスコンテンツになりますよね。そういう意識で顧客の問題解決のためのテクノロジーを開発することが、企業がこれから進むべき道のひとつだと思います。
大場さん:
そういう意味では、必ずしもテクノロジードリブンでもないなというのが私の考えです。キーテクノロジーよりもビジネスモデルのほうが重要な時代になっているという。
藤田さん:
その通りですね。もっというと、資金調達の分野にもカーボンニュートラルの存在が見えてきています。例えばカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)はESG投資を強く意識していますし、世界最大の資産運用会社ブラックロックも環境問題を踏まえて投資することを2年程前から明言しています。今後、さまざまな企業が「環境にやさしくない企業には投資や融資をしない」という態度を取ることも十分ありえるわけです。
実際、スタンダード・アンド・プアーズによる指標を見ても、過去5年間のグローバルエネルギー系の企業の株価(平均インデックス)はマイナス4%ですが、グリーンエナジー企業はプラス24%なんですよ。そういった意味でも、企業がサステナブルになりたければカーボンニュートラルを意識せざるを得ない時代に変わってきていることを、我々は理解すべきだと思います。
大場さん:
今まさにウクライナで大変な問題が起きており、原油価格が高騰している状況ですが、石油会社では非常に大きな利益が出ているんです。株価としては低い評価をされていますが、企業としての収益率はとても高いという。実はブラックロックも、石油ガス会社への投資は今後も辞めない旨を宣言しています。ESGと言っている一方で石油会社で儲けているという事実もあることは、ひとこと言っておきたいと思います。
実際、アメリカのいくつかの州では、ESGに偏りすぎてエネルギーの安定供給に反することをしている金融機関とは州政府として取引をしないといった「逆の動き」も、昨年末くらいから出てきています。半年ほど前はすべての政府がグリーン一辺倒でしたが、エネルギーの価格が上がってきた今、少し見直しの気運が出てきています。そういった政治的な変化も、カーボンニュートラルを考える上で大事なポイントだと思っています。
藤田さん:
そうですね。感情論一辺倒のターゲットセッティングだと無理が生じてきたというのもありますし、やはり再生可能エネルギーだけではとても需要を補いきれないことがわかってきた。カーボンニュートラルを実現しながらも産業界を健全な状態に持って行くための妥協策を出してきているということですね。これはある意味「現実的になってきた」と言えるのではないしょうか。
大場さん:
はい、日本の政策もそうですね。「第6次エネルギー基本計画」において昨年4月に表明された46%減という目標を達成するためにちょっと無理やり作ったようなところがありますが、今はそれをどうやって現実にするかという議論になっています。非常にチャレンジングではありますが、難しいけれどもどう挑戦するかというフェーズに移行しているように感じています。
福本さん:
カーボンニュートラルの取り組みは、対象範囲が非常に幅広いです。ですが、それらを細かく分解したときに、一つひとつの手法が確立しているかといったら、まだまだと言えます。皆さんが持っている技術やノウハウを提供し合って、各自が出来ることを組み合わせていけば、少しずつでも前進できるはずです。そうした取り組みを皆さんにも進めていただきたいと思います。
カーボンニュートラルについて理解を深め、身近なトピックとして捉えていただけたでしょうか?
私たちの生活にもビジネスにも今後ますます深く入り込んでくるであろうこの問題。人任せにせず、自分ごととして何ができるか考え、そしてビジネスチャンスに変えていきましょう!
…
ライター 北村朱里 @kitamuraakari
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st
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開催日時:2022/3/22 (火) 18:00 - 19:15
開催形式:オンライン開催
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