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製造系YouTuber ものづくり太郎さんに聞く〜 限界を超えるアイデア創出の秘訣と日本の製造業への警笛と未来について

今回のゲストはチャンネル登録者数22万人と、いま話題のビジネス系 YouTuber ものづくり太郎さんです!!
 
かつてジャパン・アズ・ア・ナンバーワンと言われた日本を支え牽引してきた製造業。席巻していた時代から比べると遅れを取り始めているのではないか? 生き残れるのか? とネガティブなワードが飛び交うことも少なくはない現在。日本の製造業の強さも弱さも知り尽くしたものづくり太郎さんに、製造業の現状と未来を聞きました。

【ゲストスピーカー】
ものづくり太郎 氏
株式会社製造業り上げ隊

 YouTube活動のためミスミを退社。日本では製造業に関わる人口が非常に多いが、YouTubeの投稿に製造業関連の動画が少ないことに着目。「これでは日本が誇る製造業が浮かばれない」と自身で製造業(ものづ<り)に関する情報を提供しようと決心し、活動を展開。ものづくり系YouTuberとしてさまざまな企業とコラボレーションを行っている。業界に関する講演や、PR動画制作等多数。

――世界から見た製造業のトレンドと日本の置かれた現状について、どのように思いますか?
 
太郎さん
4月にある企業から招待をいただき、ドイツのハノーファーで開催された展示会に参加してきました。会場にはH₂やCO₂などの国家戦略に関わるものからロボット、空圧、通信、制御、3Dプリンターなど、半導体や工作機械を除いたほぼすべての製造業が集まっていました。どれくらいの規模感かというと、東京ビッグサイトに行かれたことがある方はイメージしやすいと思うのですが、東1.2.3号館が20か所ほどあるような、世界最大規模の展示会です。そのなかで、一番盛り上がっていたのが「通信」「制御」のブースでした。

「INDUSTRIE 4.0」という取り組みがあります。これは、ドイツ政府が主導して進めている国家プロジェクトで、サイバーフィジカルシステムを使って第4次産業革命を起こそうというものです。この取り組みの怖さは毎年ブラッシュアップされていくところです。INDUSTRIE 4.0のブースで、はじめて耳にしたのが「Cofinity−X」というコンセプトでした。

Cofinity−Xは、iPhoneでいうところのAPPのようなもので、Cofinity−Xにアクセスすれば、製造業で使うソフトウェアをダウンロードできるという仕組みです。Cofinity−Xの出現によりなにが起こるかというと、営業活動が不要になります。ここにソフトウェアを公開してしまえば、自動的にダウンロードされます。みなさんもiPhoneでアプリをダウンロードするときに、企業のWEBサイトにわざわざアクセスしたりしませんよね。それと同じです。

ただし、いろいろな企業が個別にソフトウェアを製作してしまうと、要件定義がバラバラになり、ユーザーが自社で使用するべきソフトウェアを探すだけでも大変です。Cofinity−Xでは、あらかじめ要件定義を定め、定義を満たしているものだけが開示できるようなシステムになっています。 

Cofinity−Xには、どんなソフトウェアあるのかも気になりますよね。もちろんそれも見てきました。上の図は、ビジネスプロセス管理の分野で世界有数のソフトウェアメーカーであるSAPのものです。この扇形の図は、右側がOEM(委託者)左側がTier1・2…(請負者)となっています。この図が表しているのは、カーボンフットプリントです。

――つまり、このアプリを使えばカーボンニュートラルへの取り組みが管理できるということですか?

太郎さん
そうです。たとえば、「Tier1に、SAPがこういうソフトウェアを公開しているから、ダウンロードしてください」と伝え使用してもらえば、それだけで部品単位のCO₂排出量がひと目で認識可能です。

――すごく便利ですね。

太郎さん
さらに衝撃的なことがありました。SAPの担当者に「つなげられるのは、SAPのソフトウェアに限られますか?」と伺ったところ、答えは「NO」でした。必ずSAPのソフトウェアを使用する必要はないというのです。なぜなら、すでに要件定義を公開しており、要件定義に沿って開発したソフトウェアは、SAPのソフトウェアとも互換性を持ち、つなげられる仕様で作成されています。日本では共通の要件定義がないため、各社各様で開発しますが、その無駄も一切ありません。たとえば、三菱電機がCofinity−Xに参画して、ソフトウェアを公開すれば、欧州のプラットフォームに無料で掲載することができます。日本では、まだ数えるほどの企業しかこの存在に気づいていません。

――すごいですね。このようなプラットフォームがあることすら知らない。これが日本の置かれている現状ということでしょうか?

太郎さん
そうですね。日本で参画している企業はNTTdocomo、富士通、デンソーのみでした(4月現在)。欧州でCofinity−Xを展開していると、参画企業の増加に伴いサービスが洗練されます。そうなったら、東南アジアに公開すればいい。東南アジアの企業の立場で考えると、欧州で細部まで考えられ、既に使用されているソフトウェアなので、利便性が保証されます。日本の各社各様のソフトウェアと比較すると、どちらを採用したいでしょうか。各国での展開が容易でありサービス化しやすい、それがCofinity−Xの狙いです。

要件定義という点でもう一つ面白い話があります。これはフォルクスワーゲンの担当者に話を伺ったのですが、Cofinity−Xは大手企業十数社で要件定義を行ったのですが、既得権益化しないよう、最初に参画した大手企業はすでに解散し100社を超えるコンソーシアムに引き継いでいます。

――なるほど。それで、公平性を担保しているということですね。つまり、プラットフォームにのってほしい。取りに行く市場を広げたいということでしょうか。

太郎さん
その通りです。Cofinity−Xにはいろいろな企業に参画してほしいのです。Cofinity−Xを波に乗せるために、3年間で約300億円の予算がついています。めちゃくちゃしたたかでしょう。日本も、このしたたかさを利用したほうがよいのではないでしょうか。

――日本の製造業の“強さ”と“弱さ”についてはいかがでしょうか?

太郎さん
日本の製造業は、まだまだ強いと私は思います。どこが強いかというと現場です。ハノーファーメッセに招待いただいたドイツ企業の工場も見学してきたのですが、正直「この工場でも利益が出ているんだ」と思いました。たとえば、通常SMT(サーフェス・マウント・テクノロジー)のラインには、学校のような大きな時計があります。なにを見ているかというと、どれだけラインが停止していたかを計っています。こういった現場はきびきび動かざるを得ないのですが、そういった印象はまったくなく、情報も記録していませんでした。一部可視化していたこともあったので、担当者に「なんのために可視化しているのですか?」と伺うと、「よくわからない」という回答でした。

日本の企業の場合は違います。たとえば、パナソニックや三菱、ヤマハなどの工場に行くと、毎朝改善活動をしています。「昨日はこういう原因でラインが停止したので、今日は停止しないように改善策を考えよう」という話をしています。また、生産業者や設計者、製造リーダーなどが集まって現場改革について話し合う機会もあります。ドイツの工場では、日本の現場のような改善活動はまったく行われていないようでした。日本の企業はまだまだドイツを伍して戦っていける土壌を持っています。

――国産自動車産業の未来、EV時代に日本は輝けるのでしょうか?

太郎さん
結論からお伝えすると、まだなんとも言えません。ただ、EV車が一番進んでいるカリフォルニアの状況についての情報があります。先日、わたしのYouTubeを見た企業の方からメールをいただいたので、その内容をここで少し紹介します。

―――――――――
ものづくり太郎様
突然のメール送付申し訳ございません。
弊社は、日本と米国に拠点を置く企業で、わたしはアメリカ在住です。日本でもそうですが、アメリカでも実際に報道されていることと現実はまったく違います。カリフォルニアはEV車を優遇したために普及し、すでに2年先の計画に達しているそうです。しかしながら、EV車の販売数だけが到達しており、そのほかの目標はなに一つ計画通りには進んでおりません。たとえば、チャージステーションの普及が遅れており、いまだにレベル2を使用しています。そのため充電時間が長く、ショッピングモールやストアに設置されているものはまったく役に立っていない状況です。レベル3にアップグレードするには費用がかかることや労働者不足もあり、計画を立てても現実的ではありません。また、共同住宅用チャージステーションの設置もシステム開発が追いついていないようで、まだ見たことがありません。そのうえ、カリフォルニアは慢性的な電力不足のため、これ以上EV車に電力を奪われると深刻な電力不足に陥ります。CO₂ゼロを目指していますが、グリーンエネルギーだけではやっていけません。天然ガスを廃止する法案は通っているものの、天然ガスを使わないと経済が回りません。「環境も重要だが、もっと重要なのは経済ではないか?」と声を上げる人もいます。そのため、これ以上EV車を増やすのは無理があるのではないかという派閥と、利権でもうけようとしている派閥との対立になっています。
―――――――

太郎さん
EVを推進するのはよいのですが、我々が生活をし、経済を回していくうえで、EVの推進と経済活動の両立が可能かを問わなければなりません。しかし、国の政策としてEVを押し進めなければならないという自動車メーカー側のジレンマがあります。ここをしっかり認識したうえで自動車メーカーは、冷静に見極めなければなりません。ビジネスを俯瞰して見て、目先の勝ち負けではなく実を取るような冷静な議論が求められています。

――最後にものづくり太郎さんの夢を聞かせてください。

太郎さん
実はいま、工場立ち上げに向けて活動しています。切削加工のジョブショップを始めたいと思っています。日本の切削加工業をされているジョブショップで使用する工作機械は、1日10時間電源が入っているとして、実質何時間ぐらい切削作業をしていると思いますか?

――8時間ぐらいでしょうか?

太郎さん
現実は2時間以下です。それ以外の時間は、機械を動かすための準備や確認作業をしています。実際に生産性が上がる方法を弊社で試し、動画でオープンにしていきたいと思っています。もちろん、動画を公開すると「ノウハウをオープンにするな」と叩かれるかもしれません。ですが、そのぐらいしないと危機感を持ってもらえないと思います。「YouTuberができるぐらいなんだから、プロのみなさんがやれないはずはない」ということを見せていきたいのです。そうすると、切削の玄人が見る動画になり、コラボレーションしたい企業が出てきてくださるのでは?と予想しています。コラボレーションするメーカーはPRができるし、日本の生産性も上がっていくのではないでしょうか。

YouTubeで稼いだお金を全ツッコミして工場をつくります。だから応援してください! 日本の製造業をみんなで盛り上げていきましょう。

「本当にいいものをつくる」「クオリティーの高いものをつくる」という、ものづくりの根本にコミットしていく。やはりそれが、ものづくりニッポンの復活には欠かせないのではないでしょうか。「日本の現場は強い」というものづくり太郎さんの言葉から、「日本の製造業はまだまだこれからだ!」という元気をもらいました。


ライター コクブサトシ @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st

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「毎日をより楽しく、世界をより豊かにしよう!」と挑戦を続けるイノベーター達と語らう企画を用意しています。

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