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【後編】人生を変えるヴィクトリースーツの生みの親、勝友美社長に聞く「コンフォートゾーンを抜け、ビジネスで成功する方法」

袖を通すたびに、自らを奮い立たせる原動力となる。それを実感した利用者から、いつのまにか“ヴィクトリースーツ”と呼ばれるようになったスーツがあります。今回のゲストはヴィクトリースーツの生みの親、株式会社muse代表取締役の勝友美さんです。信念を貫き働くことの意義とは何か。本記事は、前編・後編の2部構成でお届けします。

前編はこちら

―― 事業を拡大していくにあたって、覚悟して実行したこと。たくさんあると思うのですが、特に印象に残っていることを教えてください。

勝さん
大阪で起業した2年後に東京進出を決めました。たった2年しか経っていなくて、しかも、言い出したのは起業に猛反対していた工場の社長だったのです。「東京に進出しよう。勝つためにおんぶに抱っこで俺は行く」と。それで、事業計画を作ってみたのですが、何度試算しても「倒産」という答えしか出ません。何度もシミュレーションしているときに、「あぁ、私は東京進出したいんだな」と自覚しました。東京のランニングコストを考えたときに、大阪店ともども倒産するかもしれない。すべてを失ったとしても、もう一度やり直す覚悟ができるのなら東京に行こうと思いました。経営者は自分の選択に腹をくくる必要があります。そのときに、周囲が納得する答えを出す必要はありません。なぜなら、自分が納得する答えを出し続けることでしか、自分を信じ続けることができないからです。

銀座店を出したときにコロナが来ました。テーラーはお客様との距離が近い。ほかのテーラーが軒並み営業を停止していく中、私は営業を続けました。そのとき、4月に入社した社員全員から、「このままお店を続けるのならば、私たちは退職します」と迫られたのです。私はそれでも営業を続けました。お店を閉めてしまったら、職人さんたちが失業してしまいます。私たちには続けるか、続けないかの選択肢がある。でも、職人さんたちにはそれがありません。選択肢がある側が先に白旗を挙げるなんて間違っている。工場が営業しないのであれば店を閉めてもいいけど、稼働日がゼロにならない限り絶対に取引先を守る。この答えに全員が納得しないことはわかっている。でも、私はこれからも自分が納得する答えを出し続ける。そんな話をしました。

数人が退職しましたが、私はそれでいいと思っています。本当に大変なときを一緒に乗り越えられない人とは仲間にはなれません。逆に、仲間になってほしいがために自分の答えを変えるような人には、何も成し遂げられないのではないでしょうか。

―― 銀座店の前に、六本木店を出店されていますね。

勝さん
六本木店を立ち上げたときのほうが大変でした。一等地のビルを一棟借りするという意味不明なことをしてしまって。しかも、六本木はクラブ街で外国人が多い街。オーダースーツ需要が少ない街なのに、なぜ六本木に店を出したのか。それは、どこにあっても行きたいと思ってもらえるようなブランドにしなければ、この先大した会社にはならないだろうなと考えたからです。業績のない会社によい条件の店舗が借りられるわけがありません。いま世の中で成功している経営者は、この悪条件を突破してきた方々です。ならば、私も乗り越えてみせると、決断しました。

そうして、オープン2週間が過ぎたころ、大雨で店舗が浸水したのです。商品が全部ダメになって、内装もやり直し。保険金を受け取るためには、原因追及のためにいったんお店を閉めなければならない。でも、私はお店を開けたかったので、保険金は受け取らず、復帰費用を自己負担することにしました。なぜなら、資金繰りがもたないからです。4フロアあるので社員も5・6人一気に雇っていましたから、ランニングコストが約7倍に膨れ上がっていました。いまだったら、絶対にこんな店舗の出し方はしないのですが、当時は未熟だったとしか言いようがありません。

こんな悲劇的な出店だったのですが、私が東京に行くことで、今度は大阪店の売り上げが立たなくなります。そのため、1カ月のうち1週間は大阪にいて、1カ月分の売り上げを立てる。東京に戻って残りの3週間で新規開拓、技術継承、経理をやる。一人で全部やっていました。そんなとき、「お客様が笑顔で帰っていない」と気づきます。そもそも、なぜオーダースーツ専門店を始めたのか。それは、お客様の未来をよりよくしたいからです。お客様が笑顔になっていないのであれば、この店を続ける意味がありません。受付の社員を残して解散し、一人でやる選択をしました。

毎日、夜中の3時ぐらいまで六本木店で仕事をして、帰るころには酔っ払いが叫び声を上げている。パトカーや救急車のサイレンの音が鳴り響く中、私は一人クタクタになって、お金がないから家まで歩いて帰る。いま振り返っても二度と経験したくありません。このとき「私を苦しめているものは何だろう」と、自分と向き合いました。お客さんがいない、借金を背負っている、いつ倒産するかわからない。そんな恐怖は創業期に味わい尽くしているので、それが原因ではない。ここで初めて信頼できる仲間がいないことに気がついたのです。

―― 現在の信頼できる仲間とは、どのように出会ったのでしょうか。

仲間の一人とは、知人の紹介で出会いました。その人も経営者で、お会いして1時間ほど話をうかがいました。そのときは私の話をする時間がなかったので、日をあらためてカフェで6時間話を聞いてもらいました。そこで、自分が悩んでいることや苦しんでいることを初めて人に打ち明けたのです。その人は話を聞いてくれたあと、「スーツを作ります」と言ってくれて。その後も事あるごとに助けてくれました。そして、「事業を手伝います」と言ってくれたのです。

だけど、私は手伝いで救われるような状態ではありませんでした。手伝いでかなえられるようなビジョンではないのです。だから、「片足だけなら突っ込まないでほしい。関わるなら両足を突っ込んでほしい」と言いました。これを伝えるのは勇気が必要でした。だって、喉から手が出るほど仲間がほしいのですから。でも、ノーを突きつけられることにおびえていたら前に進めません。すると、その人は1、2分フリーズしてしまって。そのあとに、「わかりました。バイアウトします」と言ってくれました。私は悩んでいるのだろうと思っていたのですが、その人は「どうやって事業を整理しようかと算段をつけていた」と言うのです。この人すごいなと思いましたね。それから、一緒にやることになって、胸ぐらをつかみ合う日々が始まりました。

―― それこそ、本当の仲間ですよね。

勝さん
経営スタイルが全然違っていました。その人は、どちらかというと社長を据えて、投資をしながら事業展開していくタイプで。私が「お金をもらったところで、うちの事業は発展しないので投資なんていらん」と言うと、「じゃぁ、ライブハウスで歌いたいのか、ドームで歌いたいのか、どっちやねん」と言うわけですよ。

「勝さんが見ている世界はドームでしょ?」

「いや、違う。ライブハウスのお客さんも一緒にドームに連れて行く」

「そんなことはできない」

「その世界を私と見られると思ったから、ここにおるんちゃうの」

こんな話を何度もしました。そこで結構やりあったので、株主はいまでも100%私です。最速で最善の経営判断をできるのは自分だという確信があるので、違う色を入れたくなかったのです。私は、ビジネスの正解を追及したいわけではありません。お客様のお子さんが成人式を迎えるときに、「いつかRe.museのスーツを着せてあげたい」と思ってもらえるようなブランドを育てたいのです。100億円企業や100店舗展開をめざしているわけではなく、1店舗でもいいから、来店することに価値があるお店をつくりたいのです。

―― 勝さんといえばSNSですが、最初はSNSを始めることに前向きではなかったそうですね。

勝さん
SNSはそんなに好きではありません。おそらく、この仕事をしていなければやっていないと思います。私は、みなさんにヴィクトリースーツを着るのか、着ないのかの選択を生きているうちにしてほしい。着なくてもいいんです。考えて結論を出してほしのです。でも、うちの会社のことを知っている人は1万人に一人ぐらいしかいません。だったら、SNSをやるべきだなと。経営者は、好き嫌いで仕事をするべきではありません。

ビジネスでも何でもそうですが、基本はギブ・アンド・ギブ。先に与えるから入ってくるのです。SNSを使って私が与えられるものって何だろう、自信を持って伝えられることって何だろうと考えたときに、「夢を持って生きることの素晴らしさ」だと思いました。だけど、当時の顧客は、経営者やトップセールスの30代から50代。一方で、私が夢を持って生きることの素晴らしさを語って、一言でも拾って帰ってもらえる層は20代です。20代をターゲットにした瞬間に、スーツを買えない層をターゲットにするという非合理なことが起こってしまいます。でも、私はスーツを買えない27歳をペルソナ設定しました。なぜなら、鉄則はまず先に役に立つことだからです。そうして、20代にわかりやすい言葉で、夢やロマンをSNSで語り続けました。すると、明らかに客層が変わってきたのです。新卒の方が1年間お金をためてきましたとか、Re.museのスーツを作るために毎月貯金をしていますとか、そんな現象が起こります。

もともと私たちは、経営者やトップセールスをターゲットにしていたわけではありません。Re.museが提供しているのは「自信」です。自信が必要な人とは、どんな人でしょうか。それは、否定されても、夢の炎が消えないように一生懸命守っている人です。だから、「未来に希望を持っている人」をターゲットに設定しました。そんな人たちの炎を大きくしていけるようなスーツを提供したいと考えていたので、現在のお客様が最初のペルソナ通りになりました。だけど、これは結果論でしかなくて、ギブ・アンド・ギブの鉄則を守り続けた結果こうなっただけなのです。

―― さらに、2023年には世界最高峰のファッションショー、パリ・コレクションへ出展し、業界初の快挙を成し遂げられました。

勝さん
パリコレは本当にトラブルが多くて大変でした。まず、担当者がショーの開催日を間違えて伝えていたことが発覚して、予定よりも1日早くなってしまったのです。コレクション用の衣装は、紛失防止のためにチーム全員が手荷物で運びます。飛行機には手荷物の個数にルールがあるため、それらを緻密に計算して航空券を手配していました。だから、絶対にその飛行機に乗らないといけなかったのです。そのため、現地入りを早めることができませんでした。

日本にいる間にオンラインでモデルオーディション行って、24体中18体のモデルを決めて現地に入りました。前日にウォーキングをテストし、フィッティングをして、服をモデルの体に合わせて直していく流れを想定していました。しかし、一部のモデルが時間になっても来ません。それでもうパニックになって。追加でモデルを用意して、朝までかけて服を直しました。ようやく準備ができたのが、ショー当日の午後3時。夕方6時半からが私たちの出番なので、残りの2時間半でリハーサルやヘアメイクといった準備をしなければいけません。

そこで突如担当者から「決まっていたモデルのうち、6名がピックアップできないかもしれない」と告げられます。そこで絶望的な気持ちになったのですが、絶対にやり切ることしか考えていなかったので、モデルを揃えて、衣装を直して、なんとか立て直しました。

いよいよ本番30分前になったとき、着られていない衣装がラックに掛かっているのを発見します。「何この衣装?」と思っていたら、間違えてモデルさんを一人帰してしまったと。代役のモデルをあてがわれたのですが、どうしても納得ができなくて。その服は183センチのダークスキンのモデルが着る衣装だったので、そんなモデルはなかなかいません。でも、ここで妥協してしまうと、いま取れる最高点が取れなくなってしまう。そこで、私たちのショーの前に出ていた、ランウェイを歩き終えたばかりのモデルをその場でオーディションしてピックアップ。なんとかやり遂げました。現地スタッフに「クレイジー!クレイジー!」と言われながらもやりました。

妥協するのは簡単です。そのほうが楽だし、ショーもできる。おそらく観客は誰も気づきません。でも、自分だけはしたくない決断をしたことを知っています。それをしてしまうと、私はこれから先Re.museを経営できないと思ったのです。これしきの山を越えられなければ、100年先まで愛されるブランドをつくるという高い山を越えられるわけがない。人が見ていないところでも、自分を貫くことができる。それが信念ではないでしょうか。たくさんの諦めたくなる理由があっても、たった一つ諦めきれない理由があったら、何度だって立ち上がれる。信念が貫く力になることをパリ・コレクションで学びました。

―― ありがとうございます。それでは最後に、起業家やこれから起業を考えている方にメッセージをお願いします。

勝さん
私は起業することが素晴らしいとも、経営者がすごいとも思いません。いまの時代、経営者は昔と違って山ほどいます。それよりも、自分がやると決めたことを続けている人のほうがよっぽど素晴らしい。なぜなら、続けられる人は自分のことを知っているからです。

人は、夢や目標を追いかけているときに最も幸せを感じるのではないでしょうか。そう考えると、私が28歳で起業していままでやってきたことは、幸せであることを貫いてきただけだと言えます。どれだけ大変なことがあっても、最後に幸せだと思えるかどうか。つまり、最後に幸せだと思えることでなければ、人は貫くことができないのです。だから、自分の幸せを見つけることが、自分らしい人生を生きることだと私は思います。みなさんにそういう人生を送っていただけたら嬉しいですし、私自身もそうあり続けたいですね。

自分の幸せとは何か。仕事を通して、その幸せを実現するにはどうしたらよいか。この問いに徹底的に向き合い、信念を持って行動し続けることが、成功の秘訣なのではないでしょうか。最後に幸せだと思えることでなければ、人は貫くことができない。勝さんの言葉に、継続の本質を考えさせられました。

ライター コクブサトシ @uraraka_sato
meetALIVE プロデューサー 森脇匡紀 @moriwaking
meetALIVE コミュニティマネージャー 小倉一葉 @osake1st
写真:集合写真家 武市真拓

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「毎日をより楽しく、世界をより豊かにしよう!」と挑戦を続けるイノベーター達と語らう企画を用意しています。

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