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第134話 大丈夫。あなたもいつか必ず。



 話しかける。

「R、私がわかる?学校で見たことあるでしょ。あきらの母だよ。
あなたの苦しみが伝わってきたからお話をしにきたんだよ。」

「……あきらのおばさん?」

「そうだよ。私のことをわかってくれたのね。
うちね、親子で何でも話すから、あなたのこともあきらから聞いて知ってるの。
Rの想いがあきらに届かなくて、あなたが苦しんでること知ってるよ。」

 一体何度目の、Rに対する自己紹介になるだろう。闇を住み処とする思念体とは苦しい想いで一杯で、どうやらその苦しみのままで時が止まっているらしい。

「あなた達まだほんの十三歳だったでしょ?
あきらも未熟であなたを傷つけてしまったけど、いきなり感情をぶつけられて怖くなったあの子のこともわかってほしくて、それで私が話をしにきたの。
Rもあきらもお互いに、たくさん辛かったね。」

 そうして何度も光を送ると、その日は初めて、この子自身の深い闇が浮上した。
 共鳴している私もその間(かん)かったるく、飲まれないように保ちながらも注意深くRの意識を説得していった。途中から、両足がギュッと掴まれるように痛くなって、あきらが夜間湿布を必要とするのはこのことかと実感した。


 その日の夕方、学校からの帰り道。
「今日はたくさんRの浄化が進んだんだよ。」とあきらに伝えると、何か思い当たるのか、「それ何時頃のこと?」と聞き返された。

「ええと、お昼くらいかな。十二時頃から半くらいにかけて。」

「あー……、その時間だぁ。うん、それちょうどね、すごーく怠かった。
四時間目が地理だったんだけど、どうしようもなく駄目だーってなってて、そのあと昼休みの少し前から急に平気になったんだよ。」

「そうなの?それは……Rそっちから抜けてったんだ。うん、それはごめんね。」

「でも後からなら、ちょっと軽くなったのがわかるよ。ありがとう。」

 詳しく話してくれたことによると、私が浄化している最中ずっと、その時間のあきらは何故だか業腹(ごうはら)が収まらなかったということだった。授業中に突然すべてが嫌になってしまい、フツフツと怒りが湧いてくる。それから沈んで死にたくなって、気だるい眠気に襲われていると突如パチッと切り替わって、いきなり気分が良くなったとのこと。

 憑依体の浄化とはいえ、そもそもこれは、あきらという他人の憑き物。だからこそ、こちらの表面に浮かんできたタイミングで私がやればいいというものでもないかもしれない。それをやってしまうと、おそらく憑依されてる側本人の日常に支障をきたすことになる。
 どうしたら双方苦しくないか、妥協点を探る必要性が出てきた。

……

 その数日後、今度は家にあきらがいるタイミングでRの意識が上がってきていた。少し迷ったけど、敢えてあきらに浄化するとは伝えずに、ここでひとつの実験をしてみた。

「R、こんにちは。私、あきらの母だよ。」

「……あきらのおばさんなの?」

「そうなの。Rにわかってもらえて嬉しいよ。
あのね、あなたが辛い中にいること、私もあきらから聞いてるよ。
そこは暗くて冷たいと思うの。だからあなたがこっちに来られるようにしたいんだけど、あきらを通さず直接私のところにやって来られる?どうだろう……。」

「……はい。
おばさん、ありがとうございます。」

「あなたはこれからまだ何度でもやり直せるから、きっと必ず元気になるから大丈夫だよ。
あったかい光を当てるからね、明るいほうを目がけて直接こっちに上がってきてね。」

 それからまた少しの間、Rに光を当て続けると、ようやくこれはと思う手応えがあった。
 浄化の間ずっとくるくる回っていた手は一気に頭上まで持ち上がり、不思議な旋律が出続けていた喉の奥の歌も止み、それから私と一体化していた菩薩のような意識場が、目を閉じたままの私を通して自然と微笑んでいるのがわかった。


「あきらー、今、体調どうだったー?」

「え?何が?普通だけど。」

 扉をノックしあきらの部屋へと駆け込んだ。

「今ね、ずっと、Rの浄化してたんだよ。あきらの方を通過しないで直接こっちにおいでーって言ってやってみたの。まだ少し残ってるかもしれないけど、前よりだいぶ軽くなった筈だよ。」

「は?え?嘘。前と違って全然わからなかったよ。」


 どうやら今回のこの実験は、大成功と言っていいらしかった。精神世界は私にとって、白いパネルを見せられて「これは本当は赤です。」とか「青です。」と答えていかなければならないような、目で見た正解がわからない世界。だからこそ一つ一つを手探りで学び、理解していかなければなかった。


 それからさらに半年後。
高二になったあきらの健診は一次検査からすべて陰性で、二人でなぜだかハイタッチをしたのち「お疲れ様。」と言い合った。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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いつもお話を書きながら、まだ自分に未浄化なものが残っている場合、浄化しながら書くことになるんですね。
その確認のために小説書かされてる部分もあります。

日記でもなんでも、書くという行為自体に、「振り返り」で闇に光を当てる力があります。

Rは私の憑依ではないので、書いていてもおとなしいなと思っていたの。
仮にRの思念がまだあきらに残っていたとして、あとはあきらの分って言ったらおかしいけど、これ以上は不可侵、みたいな感じだから出てこないかなと思っていたの。

だけどおととい最後の最後に久しぶりに会って、「おばさんの子になりたかった。」って言われて、そういえば去年はたくさんそんな風に言ってもらえてたなぁって感慨深くなっちゃいました。
Rも本当は、学校にも言えなかったけどおうちで色々あったんだよね。(だから魂レベルの高いあきらに縋って憑依してたの。)
そしたらね、Rがハグしてくれたの。それから直後に見た窓の外に、ヤマボウシのハート型の赤い葉っぱがそれ一枚だけ陽を浴びててね、もう、なんて愛おしいんだろうね。

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→第135話 闇の子

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