第174話 順風満帆・逆風満帆
春分のすぐ後、あきらの高校は春休みを迎えた。
朝夕の送り迎えから解放されるとその分集中して内観をすることができるのだが、それに伴ってもう一つ、厄介ごとがくっついているのがわかってしまった。
あの日以来、タケくんのビジョンがしょっちゅう頻繁に現れる。あろうことかなんと、けーこのツインレイに憑依されてしまっていた。
ヤマタ先生にしても今までクリアにしてきた他の男性たちにしても、気持ちをわかってほしい憑依体は、特に私がスサナル先生の闇に光を当てようとする時に“自分も助けてほしい”のだと割り込んでくることが多かった。
「アイツのことは放っといていい。」
現状を訴える私に対してけーこはそうは言うけれど、既に憑依されているものに対して放置していて視ない限りはこちらの生命エネルギーだって奪われ続けることになる。だからといって、闇を抱えたツインレイ男性を一から浄化するとなると、この先何か月かかってしまうのかわからない。
スサナル先生の浄化だって本格的に始まって……ああ!もう五か月近くにもなる。それでも終わりが見えないっていうのに、どうしてタケくんの分まで私が浄化しなくちゃいけないの!そのせいで先生との再会が、一体どれほど遠のいてしまうの!
それに彼女はいつまで経ってもアカシックを開く気配すらない。いっときほんの少しその兆しがあったのに、結局そこから内観に発展することもなく私は酷くがっかりしていた。
タケくんというツインがいるのにもかかわらず、昨日も暇つぶしの電話がかかってきたと思ったら「イケメン落っこってないかな。」って、彼の意識が会話を聞いていることだって彼女ならわかっているはずなのに。
それこそ鎖縁みたいなけーこだけど、さすがにいい加減、これ以上関わりあいたくなどなかった。電話口でも冷たい返事を返すと、それからけーこのことは、これからは適当に流しながら付き合っていこうとそんな風に固く誓った。
タケくんの意識がやってくる。
「どうして僕の相手はあなたじゃないの?
僕はあの人よりも、あなたのほうがいいのに。」
けーこ、そんな悲しいことを、彼に言わせちゃ駄目だよ……。
……
あきらが階下に降りてくる。
「ねぇひみ、あのさぁ。明後日って空いてる?」
理由を聞くと、演奏会のチケットが余ってしまったから代わりにどうかと友人に聞かれたとのことだった。
中学校の時から時々遊びに来る元吹奏楽部のその子のことは私もよく知っていたけど、あろうことか軽度の怪我で自宅安静となってしまい、急なのでコンサートに行ける人が見つからないとの話だった。
おやつの入ったカゴを漁りながら、続けてあきらが説明してくれる。
「時間は夕方からで、場所はえっとね……。」
川崎駅前。例の、船の音楽ホールだった。
図らずも、けーこと共にアンカリングし、けーこと共に抜錨(ばつびょう)した船内に、あきらと乗船することになった。
今までの怒りが鬱積していた私は当然彼女に演奏会の存在を知らせることもなく、ざまみろと思いながら窓口にチケットを出した。
初めて入るホールの中もどことなく船のようで、今日、やはりここには高次元によって導かれたのだと強く思った。
春休み中の演奏会とあって、最近の流行曲など高校生にも楽しめる嬉しいプログラムだった。そしてこの日はもうひとつの、あり得ない“特別”が待っていた。最後の演奏が始まる。
『見よ、勇者は帰る』
卒業証書の授与式で流れる有名な楽曲が、ホール全体に響き渡った。
宇宙が私一人だけに、卒業のサインの祝福を寄越した。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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まさに昨日になって思い出したことがあるんですけど、スサナル級の教室にも、船の舵のモチーフがありました。黒板横の通常の時計のほかに、先生用の机のところに毎年舵(舵輪)の時計があったんですよね。
タケくんもけーこに船を見せていて、本当に私たち四人、船を共通にしています。
……なんだろ?
最後の曲は伝わりますかね。
「卒業証書、授与」でもあるけど、「ひょーしょーじょー」って言えばわかります?
あきらが中学生やってた時は、それこそ吹部さんの演奏で体育祭やらで聴いてたけど、高校入っちゃうと体育祭も子供だけだし、大人になるにつれて生演奏で聴く機会の減る曲だなと思いました。
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