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第173話 三次元からの奴隷解放


 鹿の夢を視ていた。

 ひときわ大きな立派な角を生やした雄鹿が一頭佇んでいる。ところが皮肉なことに、彼はその角のせいで雁字搦めになっていた。寒々しい冬の藤棚のような、空一帯に張り巡らされた古枝と角とが癒着して、またその角自体にもゴミやら布やら余計なものまで引っかかっていて全く身動きが取れていない。天を覆うその木の枝は、遥か彼方まで続いていた。

 鹿自身、前にも後ろにも一歩も進めずにいるのにもかかわらず、一体誰に見せびらかして威張るためにそれほど発達させているのだろうか。どこからが枝で、どこまでが角なのか同化してしまいまるでわからない。いや、そもそも枝ではなくて、おそらく全て、他の雄鹿たちの角なのだろう。

 なるべく痛くないように、やさしく手入れをするように。
 鹿の胴体に跨った私は木製の小刀を使ってカンカンカンカン、角を短く剪定していく。やがて絡まった古枝から切り離されたおかげで、鹿はようやくその場所から動けるようになった。どこの誰よりも立派だった角は、今は雌鹿と見紛う(みまごう)ほどに短いものへとなっていた。

 するとそこへ、鹿を奴隷としか考えてない飼い主のおじさんが現れる。

 ああこの人は、いつもの男性原理主義の顕現だ……。

 自分の所有物にとんでもないことをしてくれたと喚き散らしている彼に対し、激しい口調で詰め寄った。

「あなたは魂の自由を奪い、命を命と思っていない。人の命は奴隷ではない。」

 その隙に、身動きの取れるようになった鹿に対して高次元の助けが入る。何人かのガイドたちが、解放された“スサナル先生”という雄鹿を連れ出しその場から遠く離れていく。
 そのことに気づいて慌てた男性原理は、下支えする女性意識である“奥さん”と共に車に乗り込もうとしているが、その車の発進を塞ぐように次々と大量の車が目の前の道路を横切って妨害している。隙間なく、途切れることなく。

 そのおかげでもう、古い男性原理はあの鹿には追いつけない。集合意識から切り離された“彼”は、新天地へと向かってようやく歩きだしたのだ。

 高次元のシンクロが先生の逃亡を手助けしてくれたことに感謝しつつ、私は男性原理に向かって“悪行”がどれほど愚かで叶わないものなのか、“善行”がどれほど天から後押しされているものなのかを伝えると、彼は苦虫を噛み潰したような表情になった。そうして二度と三次元に戻ることのない鹿の向かった方向を、いつまでも未練がましく睨み続けていた。


 夏に出会った、タイムキーパーの見せてくれた世界とは近未来のことだった。今からとうとう、先生の現実崩壊が始まる。トリガーは私。
 雄鹿の立派な角は、あの人自身が権威を欲して築いてきた象徴そのもの。今まで彼は男性原理システムに盲信的に飼い慣らされ、その狭い世界で成り上がることを良しとして生きてきた。大きく発展、発達させることこそが重要なのだと作り上げた角により、自分が囚われの身になっていることにすら気づけずに、システムから抜け出せなくて苦しんでいた。
 古いシステムの方もまた、そんな奴隷を自らの生命エネルギーの供給源としていて、「お前の角は立派だ、立派だ。」と唆すことで、家畜として使い捨てにしていたのだった。
 おぞましい、負の無限ループが存在していた。

 私は自分の手でもって、先生の“立派なハリボテ”を短くし、そして三次元システムから脱出させた。スサナル先生に始まる現実崩壊。

 大丈夫。
何があっても私はあなたの味方だから。どれほど地獄に思えても、暗いトンネルのその先で、あなたをちゃんと待っているから。



written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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この、男性原理の奥さんという存在。女性性の負の集合意識。
この夢の中では奥さんという立ち位置で出てきましたが、また別の内観中に発見したのは、『犯罪を犯した息子を庇う母親』みたいな存在。
「息子に悪気はないんです。この子は悪くないんです。」
……下支えしてるってことがわかるでしょ?よりより男性は暴君となり、よりより女性は下僕となるかんじ。
この集合意識もまた多くの女性の中に見られるし、そうでなければ反動で、角を生やした雌鹿と化す笑
いや、笑い事じゃないけど、三次元劇場の茶番でしかない。
男性も女性も、家畜から抜け出して自立すると決めたのならそれなりに痛みはありますよ。飴も鞭ももらえなくなるのだから。精神世界の本を何十冊読もうと関係ありません。その痛みを選択できるかどうか。結局はそこです。話はそこからです。

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