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第37話 春の風



 節分と立春を越えると一気にエネルギーが加速した。
 まおちゃんの一件以来、何においても沈みがちになっていた私の心もようやく軽くなってきた。

 この一か月は特に深い理由もなく、色々な面から、なんとなくダラダラと重く冷たい感情ばかりをさらっていた。頭もうまく働かず、特に意味もなくネットに無駄な時間を使って一日を終えてしまう。
……駄目人間。自分は社会不適合者だという強迫観念の負のループ。

 ため息ばかりだったのであきらには申し訳なかったが、冬の間、闇が私を庇っていてくれたのだ。動く気力すらない時に、闇は、あたたかい。理由もなく絶望的ですべてに呑まれて死にたいのに、「何もかも忘れていいよ」と言ってくれる。

 そんな感情に没入し、あらかたじっくり味わい尽くした頃、ぽつりぽつりと、心に灯りが戻ってきた。
 通りには木蓮のつぼみが確認できた。冬を残した鉛色の曇り空に浮かぶ、まだ殻にこもったハクモクレンの小さなつぼみは、優しい豆電球のようだった。


 学校のほうもバタバタと動き出した。
 あきらの小学校の卒業式の練習も始まり、授業参観と保護者会、お楽しみ会、六年間最後の給食はバイキングスタイル。中学校では制服採寸に物販、授業体験に部活動の体験、校舎見学なんかもあった。

 ネットで買った、あきらが選んだ卒業式のスーツには「Michael」(マイケル、ミカエル)という名前がついていて、思わず母子で笑った。

 悪夢の入院を経たあきらが生きて小学校を卒業できることは、私にとって奇跡だった。それなのに当の本人は今となってはのほほんとしたもので、失った身体の機能についても、むしろ前はあったことのほうが不思議で、最初からなかった気がすると言って笑っている。


 そして三月半ば。

 卒業式は快晴だった。
体育館の後ろの紅白幕の間から、六年前にはまだ小さかった馴染みの顔たちが、次々誇らしげに入場してくる。
 車椅子を体育館の外に置いて、覚束ない足取りながらあきらがゆっくり入ってくると、ありがたいことに会場の拍手が最大級に大きくなって、その段階ですでに私の涙腺は崩壊していた。

 私立に行く子たちとはお別れとはいえ、ほとんどの子は同じ中学校に入学する。それでもやはり、親として少し寂しい。我が子の成長は愛おしく嬉しく、繰り返すがちょっぴり寂しいものだ。
 そんなことを思いながら帰宅すると、インターホンが鳴った。

 けーこが立っていた。
あきらにと、大きな花束を持ってきてくれた。

「あのあきらが体育館歩いて卒業式だなんて、考えるだけで泣けるよね。」
 けーこもすでに泣きそうである。

 大人二人がそんな状態だというのに、あきらはさっさと部屋に戻って、LINEで友達と今日の写真を送り合っている。
 日々、変化してるんだか変化してないんだか。

 花束の中にあったストックとポピーが、春の匂いを運んできた。新しい生活が始まる。


written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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家のWi-Fiが、2〜3週間前から調子悪かったの。
私にはその原因を探るという頭がなくて、
長く使ってるから調子悪いなー、修理とかかったるいけどどうしようかなー、くらいにしか思ってなかった。

私と違ってネットで調べてみるタイプのあきら、
「ルーターの近くに金属置いちゃ駄目だって」って。

金属…?

缶にね…細かい化粧品入れて、サイズも場所も使いやすさもぴったりー♪って思ったのがちょうどその時期。

モンサンミッシェルの、ガレットの空き缶笑
スマホ遅せぇ遅せぇ言ってた原因、ミカエル……。
防衛力無双、ミカエル……。
どんな電波もがっちりガード、ミカエル……。
ごめん愛してるよ、ミカエル……。

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