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第90話 静寂なるシリウスの叫び



 今まで信じて疑わなかったあるべき未来が目の前から全てなくなってしまい、目覚めと共に無気力感が襲ってくる。

 ……これはあれだ、あきらが搬送されて、いつも隣にあった寝顔が突然奪われたあの時によく似てる。鉛のような、曇天のような……。

 一晩ずっと輾転反側して目の下はうっすらと青みを帯びている。起き上がっても怠さだけが取れずに残っていた。

 こんな事になったのに、自分でも往生際が悪いと思った。
 昼間訪ねてきたけーこと一緒に入場制限されたスーパーへと向かうと、喧騒の中で胸に造花をつけた真新しい制服達と、着飾った保護者の姿もちらほらと見える。もうそこは、すでに私の居場所ではないのに、いい加減あの人への嫉妬心が消えない。

 前日振られたばかりだというのに、昨日の今日で今更ながらスマホに“ツインレイ”と入力なんかしてしまう。ここに来て、スサナル先生が離れていった理由を『ツインレイ』という方便のせいにして縋りたい(すがりたい)なんて、我ながら呆れてしまうよねと自嘲した。


 およそ三年ぶりにネットの上で検索してみて驚いたのは、このたった三年で、以前とは比較にならないくらい情報が増えたということ。それなのに心を通して眺めてみると、まとめサイトなどに多いエゴまみれのツインレイ記事か、あるいは確かに再会してはいても統合どころか反発し合っていて、これからが本格的な学びを迎えるカップル達の記事なのだとわかってしまう。

 もうこれ以上、参考になる人なんて出てこないのかもしれない。三年前にたくさんお世話になったサイトも今や中身は削除されていて、タイトルだけを残して姿を消してしまっていた。


 うん。私には、あの人との縁はなかった。違う道を行くしかないのだと、すべてを諦めようとした。もう忘れて、割り切って生きていこうとそう思った。


……やめないで……

 微かな声が聞こえた気がした。

……やめないで。僕のことをやめないで。

 そして二度目ははっきりと、切実な声が聞こえてきた。

 今さらそんなこと言われても!そっちが私から離れていったんじゃない。

 思考が“解”を求めて割り切ったばかりだというのに、思い切り心を掻き乱されている。未練と恨み、愛着と淋しさ。心の中がぐるぐると渦巻いて止まらない。
 自分がズルズルと飲まれていたことにそれからようやく思い至って、重たい頭でハイヤーセルフを意識する。頼りないながらも、細い一本の“冷静さ”という名の芯が立つ。

 画面の落ちたスマホをもう一度だけつけてみると、「これは」と思うサイトに直感した。
 心臓の奥がキュッと反応して「この人の記事なら大丈夫」と思った。夜の海原(うなばら)で沈みそうになっていたところに届いた灯台の明かり。温かい紅茶を淹れ直すと、カップを包んで両手をあっためながらそれらの記事を読みはじまった。


 それからそう間を空けず、ガシャンガシャンと音が響いた。二階であきらが何かを倒し、困っている様子が伝わってくる。
 一旦読むのを中断すると、その手助けに階段をあがっていき軽くノックして扉を開けた。目の前にはたくさんのフィギュアが転がっていた。

「棚の奥の資料を取ろうとして、横着したらやっちゃったよね。」

 パラパラと細かいパーツのいくつかは、ベッドの下まで確認できる。

「あららー派手に散らばっちゃって。」

そう言いながらも一緒になって、パーツ集めから組み立て直しから手伝っていった。
 BGMは、あきらのパソコンから流れ続ける動画サイトの音楽たち。ついでだからと濡らした雑巾まで持ってきて、パーツの埃を払いながらあーでもないこーでもないと、なんだかんだ部屋に入り浸ってかなりの時間拭き掃除に気を紛らわせていった。

 作業の途中でパッとモニターが目に入ると、私は息を飲んでしまった。

 去年の夏、統合するより前に、体の奥まで熱くなる体験をした。空っぽの私の左手とは対照的に、その時のスサナル先生の右手の中には、丸と菱形の連なった不思議な指輪が収まっていた。

 今目の前で、それとまったく同じものを見ている。放置していた動画サイトが気まぐれに歌い始めたMVのセットには、ビジョンで見た指輪と同じ丸と四角が暗闇の中たくさん光り、無数の宇宙船が飛んでいた。
 冬の夜空に青く輝く一等星を冠した歌が、私の心に飛び込んできた。鏡の前の私の双子が遥かな夜空に道しるべを灯した。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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で、指輪が出てきたのはこの時のお話。
→第65話 発火

ファンの方なら今回の曲はわかると思うんですが、
そうです、BUMP OF CHICKENの『♪シリウス』です。
彼らの曲のほとんどはツインレイのことだったりを歌っていて、それだけでミラクル。
タイトルから、♪RAYとか♪カルマはわかりやすいけど、
たぶん皆さんが思っている以上にこのシリウスという曲も、かなりツインレイ全開です。
そしてなんと、ストーリー上ではさらなる伏線もまだ残っています。
明日のアメブロにて、
『ハイヤーマインドで読み解くシリウスという曲の意味』を解説していきます。
え?思った以上にすごいよ!

せっかくなので、ご自分でもハイヤーマインドになったつもりで先に予習して聞いてみてください。
明日のアメブロはその答え合わせだと思ってもらえると、より楽しんでいただけると思います。


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←今までのお話はこちら

→第91話はこちら

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