第9話 イカヅチの歌
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穏やかな海をバックに穏やかな表情の青年が立っている。
片方の手には炎。もう片方の手には、鞘におさめた稲妻模様の剣。その隣では、首から翡翠の勾玉を提げて凛とした佇まいの神鹿がこちらを見ている。
彼の名前はタケミカヅチノミコト。こうして切り絵の中に安堵した表情が見られる日が来るとは、二か月前の出会いの時には想像すらできなかった。
ある明け方、私は夢を見ていた。
上着は臙脂、下は生成りで髪を角子(みずら)に結った古代人が、振りかざした剣を肩に担いで厳つく歩きながら高笑いをしている。そしてその背後では、様々なものが燃え上がっている。
朝目が覚めて忘れないようにスケッチをしながらも、私はなんだか解せなかった。
この、眉毛の太っとい古代人は、どうして何もかも燃やしながらもあんなに笑っていられるんだろう。多分おそらくタケミカヅチだと思うんだけど、東征で敵に火を放ったとかなんとかで高笑いしているの?
まったく、なんて心のない奴だ。どういう理由で夢に出てきたのかは知らないけど、後ろが燃えているのにふんぞり返って笑ってるなんてずいぶんと粗野な神さまだこと。噂の通りの荒くれ者ね…
武人としては一流だった。イザナギに命じられて葦原中国を東へ東へ、ヤマトの国土を平定する際この剣神の一振りは他のどんな威力にも勝っていた。
出雲のオオクニヌシに国譲りを打診した時には地面に剣を逆さに刺して、なんとその尖った切先に胡座をかいて返答を迫ったし、その息子タケミナカタが勝負を挑めば剣術と相撲とでねじ伏せた。
さすが剣から滴る血から産まれただけのことはある。
スケッチに悶々としながらも、私はこの方をしばらくの間放置していた。神話はかっこいいけれど、あの火を見ては好きになれない。
ところがある日、お風呂でボーッとしているときに彼の意識とつながった。なるほど、あれは精算だったんだ…
剣神タケミカヅチ。
一般的には、地震を起こすオオナマズを封じている神様といえば伝わりやすいだろうか。
イザナミがホトを焼いて死んだ時、悲しみに暮れたイザナギは怒りに任せて火の神カグツチを斬り殺し、その滴るカグツチの血からタケミカヅチは産まれている。
そして、父カグツチを殺したイザナギその人の領土拡大のために彼は戦を繰り広げる。
父の顔も知らずに育ったタケミカヅチが、東征の正義を刷り込まれては剣を掲げて地をならす。
誰よりも屈強な性質を持つ軍神、剣神が求められる場所とは、いつだって常に戦場だったのだ。
時に罪なきを多く葬ってきたタケミカヅチは、自分の過去の精算を私の切り絵に望んでいる。
あれは、下卑た高笑いなんかではなく清々しくも豪快な心の解放だったのだ。
「ありがとう。理解してくれて」
誤解していたこと、ちゃんと知ろうとしなかったこと。私はタケミカヅチにお詫びをして、切り絵を作らせていただいた。
完成までは苦労した。最後の最後で頬に余計なテープが入り込んでしまい、一か所大きな歪みがでた。だけどそのままにしたくなかった。
彼の想いに私ももらい泣きしていた。だからきちんと仕上げたくて、結局一から作り直してようやくの完成となった。
長かった。
「鹿島においで」
軽くなった声にお誘いを受けた。
嬉しい、行こう!
心が通じた喜びとともに、切り絵完成の報告もしたかった。
旅の支度をしよう。
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
神や天使へのアクセスは、その人その人のフィルターを介しているので個人個人で答えはまったく違います。そのどれもがある意味正しい答えであり、どれかひとつが絶対的正解ではないことをご承知おきくださいね。
神話の世界も矛盾がいっぱい。
でもおおらかに、楽しみましょう⭐︎
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