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第140話 鏡に映った自縄自縛


(かがみにうつったじじょうじばく)



「……でね、『嫉妬ちゃん』のガムテープが剥がれたんだけど、そしたら本当はその下には、牙が生えてたんだよね。」

「おおマジか。……でもなんか牙っての、それわかる気がする。」


 ここのところ、私が一体何を視て何を浄化しているかを逐一あきらに報告することが、なんとなく日課になっていた。この子に話を聞いてもらえることで保っている部分もあった。
 スサナル先生に長いこと会えていない、まして精神の消耗が激しい今、あきらは私を陰で支えていてくれた。

「最初の方こそ“母の妄言”を話半分で聞いていた」とは本人の弁。だけど実際に浄化をする姿を絶えず隣で見続けて、その都度私が苦しみながら“膿出し”をしているその様子から、段々とあきら自身が、この広大な見えない世界のことを信じざるを得ないと思ったらしい。

 それに何より、Rの憑依を共有できたのが大きかったのかもしれない。実際私の足にRがしがみついた時、「ギューッと掴まれた痛みで、痺れて立ち上がれなかった」と伝えると、自分の体感と一緒だと、そんな感想を教えてくれた。

「ひみも、ヤツからの嫉妬はなんか、ヤバそうだったもんね。」

「ヤツってヤマタ先生?
うん。本当そうだねー。今でもいっぱい出てくるけどね、本当もう、大変だよ。

そういえば、ヤマタ先生といえばさぁ。あの人の香水の匂い、あれ明らかにつけすぎだったよね。
あなたも香料苦手じゃない。エレベーターとか一緒の時、気分悪くなったりしなかったの?」

「……?」

「ん?」

「え?」

「あの先生の香水。」

「アレが香水?ごめん全然知らない。
あの人“雰囲気だけイケメン”って裏で呼ばれてたぐらいだから、誰かが気づいてれば絶対ネタになってたと思う。
だけど香水キツいってクレーム、誰からも聞いたことないよ。」

 あきらからその話を聞かされて、改めて人の執念の強さに引いてしまった。憶測だけど、あの学校の中では殆ど唯一私だけが、あの香水に参っていたのかもしれない。
 あのころのあの先生の香料は、瞬時に喉の痛みを引き起こすほど私の周りに纏わりつき、寄ってきては尾を引き、そしていつまでも重たく残っていた。
 つまりそれは、離婚直前に廊下に残った旦那の電子タバコの匂いと同じようなものだったんだと今さらながらに理解した。

 重たい空気が現実世界において換気によって無くなるというなら、例えばお墓のような場所の気だっていつ誰が行ってもクリーンなはずだ。だけどそうではないということは“念”がこもっているからで、換気“ごとき”でどうこうならない。どうこうならないからこそ、お風呂のカビの根っこみたいなしつこい憑依となるのだろう。
 そんなことを思うと、ヤマタ先生の匂いが私を目がけてきたことも、「そりゃあそうか。」と一人で納得した。


 口の端(くちのは)にのぼってきたのが“浄化時”。その晩はまた久しぶりに、ヤマタ先生の浄化を進めていくことにした。

……

「スサナルに負けた気がする。」

 その日、彼の口から出てきたのはそんな言葉だった。

「スサナルに負けた。」
「敵わなかった。」
「自分のほうが劣っている。」……

 なんだろう。聞いていくうちに、「私にもその気持ちわかるなぁ。」と妙なところで共感してしまった。

「けーこに負けた。」
「敵わなかった。」
「自分のほうが劣っている。」……

 だけどそれは、相手がけーこに限ったことじゃない。学生の時も社会に出てからも、母親になってからも色々あった。私の周りには、常に様々な『比較』があって『牽制』があって、その度に“勝った負けた”と一喜一憂してきた。ヤマタ先生にこれ以上、自分から何も言えないなと思ってしまった。

 そうして私が言葉に詰まり、成り行き上自然と“私”を明け渡した時、心の奥から“私の魂の声”が聞こえた。

「この世にいらない魂なんてない。どれも尊い。」

 それを聞いて、反射的に「おおー。」と一度は感動し、そのあとゆっくりその言葉を受け止めると、今回慰めを得たのはもしかしたら私の方かもしれないなと思った。

 今の私を“私”に励ましてもらったことでちょっとだけ元気になると、そんな言葉を芯に持つ、純化した私こそが尊い存在だと思った。自分の本当の魂の声に、エゴの私が掬われた。本当は私は私のことが、心の底から大好きなんだ。

 ちょっとだけ心にゆとりが生まれた。
ヤマタ先生の憑依とは、無理せず気長に付き合っていこうと思えた。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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「この世にいらない魂なんてない。どれも尊い。」

私は台所の一角に、心に刻みたい言葉を書いて貼っておく場所を設けているんですが、この言葉も綺麗な紙に書き出して今でも貼ってあります。

「魂の声」と書きましたが、エゴセルフ以上ハイヤーセルフ未満のあたりの声だと思われます。(どこ?笑)

エゴもね、ちゃんとケアして想ってあげれば、実は強い味方です。
ちょっと考えてみてほしいんですけど、自分に限りなく近い潜在意識のあたりにいるのがエゴセルフですよね。
そのエゴが自分に協力的か、非協力的かによって、物事って大きく変わると思いませんか?

どれも尊い。エゴセルフも尊い!

そして、もしエゴに協力してほしいなら、高圧的に排除しようとしたりしないことです。

私、自分のエゴセルフに「大好きだよ」って言ったら、ハートチャクラがほわわーんってあったかくなって、エゴちゃんの嬉し泣きを感じたことがありますよ。

(その話をけーこにしたら、けーこも、横で聞いてたけーこのエゴも二人して「え?ないない。うちらの場合はバチバチだよね。」って、バトルモードの構えになってましたっけ。
その時点で息ぴったりで、仲良しなのが伝わります笑)

あ、そうそう。
香水、好きな方は好きにつけてくださいね笑
クリスタルチルドレンのあきらや浄化潔癖、空気清浄主義の私は体質的に合わないけど、それこそつけると気分がよくなる方に、つけないでとは言いませんよ笑

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→第141話 ウニヒピリ

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