第176話 宇宙の因果のシナリオ
「わからない。ひみは一体、どこを見ているの?
あれから私とタケくんとは、『何があっても頑張るしかないね』ってお互い信じて続けていく約束をした。
それからひみは、私とは別の道を行くようだから、私のほうからひみに対して一時的な別れを告げてる。
それと、そんなことわかってるって思うかもしれないけど、ひみが見ているタケくんはひみ自身だよ。タケくんを盾にしてるけど、なんだか私に対して怒ってるよね。
ありがとうね、私を救おうとしてくれて。そして、辛い思いをさせてごめんなさい。」
反論の言葉なら、山のように用意してた。けーこが私の撒いた怒りに乗ってくれたのなら、全部、全部打ち返せたのに。
だけどこの返信を寄越されて、即座に私のエゴが真っ白になった。
……無い、無い、無い!言い返せる言葉など何も無い。噛みつく場所が、どこにも無い!
ガラガラと、私の全てが崩れ去った。送られた文章のどこをどう探しても、反論できる余地などなかった。
どんな言葉でやり込めてやろうかと待ち構えていた私の人格は、否定された訳でも攻撃された訳でもないのにその場にへたりこんで立てなくなってしまった。
完全に、完璧に、私の完敗だった。
ふふっ。ふふふっ。
エゴが降参した瞬間、不思議なことが起こり始めた。「そういうことだったんだ。」と気づくと同時に、涙の奥で別の私が笑っていた。
わからない世界って、最高に面白い!
魂とは、このちっぽけな肉体に収まってなどいないと改めて認識した。これほどの苦悩や苦痛ですらも、魂は味わい、それから楽しんでいる。
そして、その感情と隣り合っているまた別の私の魂は、これでやっと本当の感情が光へと出られると泣いていた。あっちも泣いて、こっちも泣いて、涙が溢れて止め処ない、いろんな人格がそれぞれの想いと気づきを表出していてどこまでもカオスな光景だった。
淋しかった、悲しかった。私、あなたに会いたかった。私はずっとここにいたんだよ。けーこに気づいてほしかったんだ。ずっと“けーこ”に会いたかった……。
「ああ、怒っていたのはあなただったのね。」と、今度はこちらの私が気づく。
私は人の学びは取らない。だから本当はけーこ自身がアカシックを開けるのを、冬からずっと黙って待っていた。そうして会いに来てくれるのを、自分勝手に期待して今か今かと待っていた。
だけど今は、ようやく出てきた“この子”のためにも種明かしをさせてもらおうと思った。一体誰がけーこに対し、これほどのねじれを抱いて(いだいて)いたのか。
もうこれ以上、強く見せなくていいんだ、弱いままでいいんだと、今度は攻撃のためではない言葉をたくさん選んでから、だけど大慌てでもう一度彼女にLINEを送った。はやる気持ちを、その温度のまま伝えたかった。
「ありがとう。
分離してるタケくんの怒り、本当は私だということわかってる。
私の感情は、私が……僕がもっと大きかったら、お母さんを一人で行かせなくて済んだのに!お母さんはおじいちゃんを助けに行かなくちゃならなかったから、それで僕を置いていくしかなかったんだって。僕がまだ小さすぎたから。
だから私は……リトは……僕は……今のけーこに五歳で別れた時以降の姿を勝手に投影してしまってる。
けーこ、私はあなたの子です。いつまでも頭があがらない。
前に編み物を勧めてくれたけど、シリウスのけーこもソファーで編み物してたんだよ。料理も得意だったんだよ。最近けーこが、苦手なおいもが食べられるようになったって言ってて、とても嬉しかったんだよ。僕はお母さんが大好きだった。あなたにずっと纏わりついていた。
あのね、何があってもお母さんを守りたかったから、だから十七歳で航海士になったんだよ。あなたは死んでしまったけど、それでも僕はあなたを守るってそう決めた。その歳で認められるって大変だったんだ。
それなのにあなたが、タケくんを拒絶して悲しかった。タケくんに勝ったと聞いた時、ものすごく裏切られた気がした。だからどうしようもないほどたくさんの怒りが出てきたの。だってタケくんもまた、僕のお父さんだったから。
ありがとう。あなたの名前はミト。地球で会えてよかった。」
それから間もなく、けーこから再び返信が届いた。
「ありがとう。そしてごめんなさい。読みながら涙ボロボロです。私もあなたを愛してる。本当に愛してる。
私、ひみとはいつでも一緒だと思ってる。
いつまでも一緒だと思ってる。」
written by ひみ
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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。
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←今までのお話はこちら
→第177話 花束
→宇宙の因果のシナリオ【けーこ目線のこぼれ話】はこちら
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