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第137話 烈火



 ひとつの闇が昇華されていくと、そのつかえが取れた分だけ次の闇が湧き出でくる。
 セッション翌日、『淋しい』に並行するように引っ張られながら、内側から止め処なくあがってきたのは『怒り』の感情だった。

 ただ、この怒りは私のツインレイの相手に向けられたものではなく、主にヤマタ先生に対して出てきたものだとの自覚があった。

 あの時期あんなに怒り狂ったのに、それでもこんなに溜め込んでいたんだ……。

 ハイヤーセルフに繋がって、何度か『怒り』の姿を捉えてみようと挑戦する。なのに見せてもらったのは、画面いっぱいの手だけだった。私に対して烈火の勢いで怒りつつ、バン、バンと両手のひらを強調して見せられる。

「『淋しいちゃん』はもつれた糸のようなシルエットだったけど、あなたの姿は“手”そのものなの?」

 ウーウー低く、唸り声をあげている。

「見てよこれ!」

 大きく手のひらのビジョンを向けられ、そんな風に言っていることだけは伝わった。

 “こちら”がどれほど謝って、それに対して私に怒っても恨んでも、それでも“彼女”の怒りがちょっとやそっとで解消されることはなかった。
 とんでもない量の闇感情は、絶えずお腹の底からゴキュンゴキュンと大きな音を立てていて、呼気だけではとてもじゃないけど排出が間に合わない。
 その日、お風呂の時には浴槽を足でダンダン蹴って鳴らし、拳は水面をバンバンと叩いた。悔しくて、猛り狂って、どれだけ強く怒ってみても、ヤマタ先生への憎悪感情が私の中で止むことはなかった。

 ようやく布団に潜り込むと、いつもより短い睡眠の間だけは唯一大人しくしてくれたけど、明け方五時前、寝返りの時に意識がちょっとだけ起きてしまったのを機にさっそく私への攻撃が始まってしまった。

 ああ、嘘ー。まだ寝たかったけど、これきっともう駄目だよね。

 意識の世界に時間の概念はない。覚醒と同時に容赦なくその闇は、光目がけて上がってきた。

 体を横にしたままだと、呼気にしてもそうだけど、頭頂のチャクラを利用した排出そのものも上手く機能してくれない。この時間からの二度寝は諦め、上体を起こして枕元のお水を飲んだ。

 すると、私の視界を通してプスプスと、頭から煙が上がっているのが見えてきた。よく怒りを炎に例えるのは的を得ていて、その闇感情が排出されている間、私の体内は内側から発火をし、そしておでこからは黒煙が上がっていた。


 見えると同時に申し訳なさでいっぱいになってしまった。小学校高学年くらいの女の子が自らの発火で身を焦がし、その火傷により皮膚が赤黒くただれていた。そしてその火傷は顔全体にまで及んでいて、真っ黒く煤けた皮膚の中からは眼光炯々(けいけい)、ギラついた目で睨まれた。
 初めに手だけを見せてくれたと思ったのは、体中で焼けてない綺麗な場所が、手のひらくらいしか残っていなかったからだとわかった。

 のちに『烈火』と名づけた。

 ごめんね、烈火。本当にごめんなさい。私が怒りを仕舞い込むたび、代わりにあなたをこんな姿にしてしまっていたんだね。
 こんなに苦しい思いをさせてしまってごめんね。あなたに背負わせてしまったこと、本当にごめんなさい。

 うん、いいよ。などといった、幼な子の喧嘩の後のお約束のような返事はまず期待できなかった。ひとつの感情体は単純な“感情体”でしかなく、司る感情に関しても大雑把に無か有(統合か分離)の二種類に近いようだった。

 烈火の『怒り』がようやく少し引いたのは、昼も夜もフォーカスして本気で光を当て続け、まるまる一週間ほどが経ってからだった。それまでは、例え車の運転中であっても視界がチカチカと狭まるほどに、こちらの状況にかかわらず絶えず相手をしなければならなかった。
 そうして当てられる光の量が強くなるたびに、その分出てくる怒りに対してその都度『烈火』を抱きしめていった。

……

 とある穏やかなその後日、私が自分の内側の子供たちをザーッと眺めていた時に、こんな声が聞こえてきていた。

「烈火。」……「烈火。」……

 小さな女の子が、名づけられた自分の名前を何度も呟き反芻していて、その愛くるしさに思わず悶絶しそうになった。

 そして今、「私の怒りの感情ちゃん。」とからかって呼びかけると、「烈火!」と口をとがらせて訂正される。
 その皮膚も姿も見違えて、年齢ももっと小さな子供となり、明るくうっすら緑みがかったカフェオレのような髪色とそれによく合う緑色の子供ドレスを着て笑っている。

 私に肉体がある限り、この子たちも一緒に生きている。だから今でも、深く仕舞い込んでいた記憶などと共に、『淋しいちゃん』や『烈火ちゃん』の蓋を開いて泣かせてしまうこともある。

 だけどそのたび正しくケアしてあげれば、決してこの子たちは以前のように、私に牙をむくことはない。
 あれほど“手を焼いた”怒りの感情だったからこそ、『烈火』は今、私の愛おしい、大切な娘のうちの一人なのである。



※一般的なエーテル体やアストラル体の概念からではなく、私独自の感覚により“感情体”という使い方をしています。ただ、内容をお読みいただければ、その表現がしっくり来ることを理解していただけると思っています。ご了承ください。


written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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この感情体たちは、肉体を持つ私たちとは全く違う生き方をしています。

これほどの火傷を負ってしまうと肉体の私たちなら死んでしまいますが、この子たちの場合はどれだけ傷ついても死による解放などなく、どうやらキャパを超えて傷が深くなってくると年齢が上がりキャパを広げ、それでも収まりきらないと、潜在意識からはみ出してきて猛威を振るいはじめるようです。また同時に、集合意識と癒着していきます。
その体は子供だと思っても、ある意味強靭、途轍もなくタフです。ですが自分で救わない限り、無間地獄に永遠にいます。『淋しい』なら永遠に淋しい地獄。『烈火』なら永遠に怒り続けなければならない地獄。

以前どこかに書いたと思いますが、人はデフォルトで多重人格だというのは、私たちはこれらの感情体の複合でできているからです。

そして、実際の現実世界においても別人格が出てきてしまうのは、おそらく私でいう烈火がさらに「大人サイズ」になってしまい、エゴセルフ化してしまったような状態なのではないかと思っています。

『烈火』はね、個別に感情を見ていった中では、ダントツで大変な子でした。だからこそ、他の子にはない特別な名前も持っています。そしてその分愛おしい!!
今でも時々、「あ、ここにも怒りが残ってた♪」ってことがもちろんありますが、出てきた分だけ昇華、統合させていくだけです。
どんな感情も本当に全部、かわいくて仕方がなくなる日が来ますよ!

(参考)アメブロ『オーバーセルフの統合意識』↓



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←今までのお話はこちら

→第138話 自分を葬るということ





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