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第82話 子鶴のひと声


 簡単なトリックなのに、迷路のようだなと思った。
 同じような部屋がたくさん並んでいる裁判所のその階を、勾玉のように一方通行にぐるっと一周回ることによって、“相手方”と顔を合わせることなく担当調停委員の部屋へと辿り着くことができる仕組みになっている。そしてその途中にある申立人控え室では、約束通り、けーこが待っていてくれた。

 男女一組の二人から成る調停委員に対し、初めに申立人が対話をし、その退出と入れ替わりで相手方が入室する。
 あらかじめ私が提出しておいた陳述書に対する答えとして彼らから、旦那の署名が記載された『陳述書への返答』と書かれた用紙を手渡された。


 そこには私が挙げた十数件の、離婚を希望する事由ひとつひとつすべてに対して「申立人が書いている通りです。間違いありません。」との記述があった。
 それなのにもかかわらず一番下に堂々と、「これからは申立人の言うことをちゃんと聞きます。離婚ではなく円満解決を望みます。」と書かれていて、大の男の甘ったれぶりに気持ちの悪いものを感じた。

 調停委員というよりも仲人に見えてしまう二人から慰められ、平行線となってしまった第一回目の話し合いの結果に対し、私は控え室で待っていてくれたけーこに抱きつきわんわん泣いた。


 その夜、私は早くから寝室に避難していた。だけど旦那はその後の仕事を終えて帰宅するなりまっすぐ私の元へ来て、「これから変わるから、見ていてください!」と言い放った。思い切り掴まれた腕には痛みが走った。

「見ていてくれって何なんだよ!あんたのママじゃないんだよ。それから腕!痛いから。」

 自分のものじゃないみたいな太い声でそう叫ぶと、今後の展開に不利になると気づいたのか、急に腕を解放された。まだ赤くジンジンしている腕を摩りながら扉を閉めると、ベッドに潜って泣き喚いた。

 その後、少し冷静になってから、あきらに対して親として夫婦の問題に巻き込んでしまった謝罪のLINEだけひとまず入れると、いったん水分が必要だと思って階下へと降りた。廊下の扉を開けただけで、旦那の吸っている電子タバコの匂いが床に沈澱し、いつまでも重苦しく動かないで私の行く手を阻もうとしていた。
 慌てて窓を二か所開け、風の通り道を作ったのにもかかわらず、結局翌朝までその重たい空気は殆ど動かずに残ってしまっていた。


……


 本来なら七日ほどあった残りの登校は、卒業式を含めても、あとたった三回ほどになってしまった。
 午前中だけの短縮時程をこなし車へと戻ってきたあきらが、未だ重たく張り詰めている様子の私を見て突然何を思ったのか、
「あのさ、どうせ明日は学校ないし、今日は今からおばあちゃんちに一晩逃げよう。」と提案してくれた。

「え?今から?」

「そう、今から!
ひみきっと今日は、あの家に帰るよりいいと思うんだよね。まぁおばあちゃんも面倒臭い人だけど、父親が帰ってくる中にいるより全然いいと思うんだよ。はー、鶴のひと声鶴のひと声。」

 最初こそ、この子は唐突に何を言い出すんだろうと私のエゴが拒絶反応を示したが、ここまで現実を動かしてきたのだから、その提案に無抵抗に乗ってみるのもひとつかもしれないと腹を括った。

「あんたそれ、いいけど日本語の使い方間違ってるよ。」

 だけどようやくプッと吹き出して、それから二人であははと笑った。そして帰宅すると、今晩一泊のための帰省の準備をした。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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この時けーこから見た私は、ガチガチだったらしいんだ。控え室で泣いた時、私の体が固かったんだって。
で、けーこはその前から「ひみについてく。」って言ってくれてたんだけど、裁判所なんて念の渦巻いてる場所だし、「本当は行きたくねーな。」って思ってたって。
そしていざ来てみたら、私が調停室に行くたびにけーこは寝落ちして、戻る前には起きてしまう。
私が中で話し合ってる間に寝ることで、エネルギー体で私をフォローしに来てくれてたの。
だから終わってから、「ひみ、連れてってくれてありがとね。」ってけーこに言ってもらえたの。“あなたの助けに、ここに来られてよかった”って。

あきらもね、もちろんこの時、助け舟なんだよね。顕在意識のあきらには、「夜にドライブしたいし」っていう思惑もあったんだけど、エネルギーで見ると、ちゃんと私のことを助けてる。

特に統合に向かう人って、いろんな所からサポートが入ることになってるんだよね。

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→第83話はこちら


↓間違って違う写真一緒にアップしちゃったからそのまま貼っておきます笑

meetooメニューはちゃんと踏んでね!
そしてmeetooへと来てください。
「それもう知ってる、わかってるし。」っていうのが
一番危ないエゴの作用。
本当に今、大切な変化の途中なの。
って書いてもなかなかちゃんと伝わらない!
わかってるつもりになるからこそ、成長止めちゃってるってことに気づいてない。
目の前に繰り返し現れるサインってちゃんと、
必要だから現れる、シンクロニシティなんだよ!

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