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第186話 天翔ける龍


(あまかけるりゅう)


 横浜横須賀道路から、三浦縦貫道路へと入る。
料金所を過ぎたあたりからずっと、前を走るトラックがハザードランプを点けっぱなしにしている。それにさっきの“横横”では、割って入ってきた車の背面にデカデカとした灯台のイラストと共に、『beacon』(ビーコン。灯台、目印)の文字のステッカーがこれ見よがしの主張をしていた。滅多に乗らない道路の景色に二人でずっとご機嫌だった。

「昨日、迎えを寄越すって言われてたよね。」

「このハザードが道案内か。ご苦労様でーす。」

「ご苦労様でーす。」

 昨夜けーこと電話をしていて、三浦半島に出かけたいという話の流れになった。電波のあっちとこっちで地図アプリを開くと、彼女の直感により、とある海岸沿いの祠(ほこら)の画像が転送されてくる。
 すると、その写真を見た途端に私と“何か”の意識とが繋がって、上の方からの圧倒的な光量に包まれる。
「お前たちを待っている。迎えを寄越すから来るように。」と、おそらくは龍神からであろうそんなメッセージが降りてきた。
 それを受け、さらにけーこがカードリーディングをすると、続けてこんな答えが待っていた。

「覚悟はいいか。お前たち遅すぎる。これから飛ばすぞ。」

……

「待って、ひみちゃん早い、危ないから。
もぉー、転んで怪我でもしたらどうするの。海に落ちたらどうするの。本当さっきから心配でならないんだけど。」

 ゴツゴツした岩場を嬉しくなって越えていくと、背後からけーこの声がする。ミカエルも、それにスサノオも地球の海との縁(ゆかり)が深く、その魂の血を継いでいる私自身も海を前にしたこのテンションには抗えない。波の音も潮風も、ひとつたりとも逃したくなくて、次の足場を見定める。

 綺麗目おしゃれスカートにしたわりにスニーカーだけど、やっぱよかった。靴、正解だったな。

 内陸側を歩きたがるけーことは対照的に、敢えて波飛沫(なみしぶき)のかかりそうな場所を選んで歓喜している私に対し、さっきから彼女がハラハラしていておかしくなってしまう。

 まったくもう。“子供”じゃないのに。

 舗装路から岸壁伝いの階段を降り、岩棚やら砂地やらを越えて行くこと十分近く。波の高い海岸沿いの小高い崖上の開けた場所に、目的の祠を発見した。それは畳何枚分かのちょっとした穴の中にあって、風によるものなのか、隅の方を中心に砂が少しだけ堆積している。
 それから二人で挨拶をして、丁寧に手を合わせていった。


 それにしても、この波風が気持ちいい。
ひとまず役目を終えたところでさっきの祠よりももう少しだけ奥へと進んで、そこで改めて海を見渡す。それなりに風も強かったけど、この青空と青い海。岩に砕ける波は心地よく、永遠にここにいられそうだと思った。

 すると、その岩場の先端に立ち、自然と祈りを込めたくなった。高次元に繋がると、いつものように手のひらが独特の動きを開始してから右手がくるくると動き出す。遥か水平線を臨むロケーションに、地球と一体化するような、ある種の恍惚感を感じていた。


「……さて、そろそろ戻ろうか。来た時結構距離あったよね。また帰り道、今度はちょっと上がっていかなきゃならないね。」

 そんなけーこに無慈悲を感じ、「ほんのちょだけだから。」と言って最後にもう一度だけ、浅瀬となっている場所でチャプチャプと指先だけ海水と戯れさせてもらった。充分満足とはいかなかったけど、この辺にしないと自分でもきりがないこともわかっていた。
 途中、戻り道でもう一度、さっきの祠を通り過ぎる時にも念のため手を合わせたけど、なんだか気持ちが入らなかった。後ろで待っている人たちもいたのですぐにその場所を譲ると、後ろ髪を引かれつつ、ようやく大好きな海をあとにした。

……

「ぷっ!」

 駐車場に戻りがてら、隣を歩くけーこが吹き出す。

「なに?何がおかしかったの?」

「いやあのね、さっきのほら穴のところでね、そこにいた龍をガイドに連れて帰ってきてるんだけど、私この人好きだわぁ。
 今ってあそこ空っぽじゃん?うちらもさっき最後に手を合わせたし、あとにも人がいたけどさ。それに対してこの人、『今、手なんか合わせても俺の糞しかねぇぞ。』だって。いい、いい!こういう人いい!」

 それを聞いて笑ってしまうと同時に、“昨日私が繋がった、威厳のありそうな方と同じ龍神なんだよなぁ”と思うとちょっとだけ混乱した。まぁ、龍神だろうとレイヤーはあって当然なのだけど。

「でも代わりの龍を一体置いてきてるから、今は空っぽだけどそのうち祠に収まるでしょう。そいつとはしばらくお別れだ。」


 そうして夕方帰宅すると、さっそく新しい龍神との物理的、肉体的現象として調整が始まっているけーこのみならず、普段あまり体感としてはわからない私も、今回は微細な何かを感覚的に拾っていることに気がついた。

 おやっ?と思って辿っていくと、あの海岸の一体どこを飛んでいたのか、なんと私のところにも一柱(ひとはしら)の龍神が来ていた。そういえば海沿いからの階段を上がってから、しばらく気分が悪かったのはそういうことだったのか。

 その後のけーこのリーディングにより、この龍が私の元に来てくれた目的が「バランス、成長、基盤、愛情」などだということがわかってきた。

 愛情……。

 私の中でもこの“彼”に対して限りない愛情を感じていた。その鱗の首に纏わりつくと、彼は私を愛おしそうに見つめて甘えさせてくれる。だけどその分悲しみも生まれた。
 この淡いブルーグレーの美しい彼に、私は自分の全てで応えられない。何故なら私にはスサナル先生という人がいるからで、スサナル先生を差し置いてまで、この龍とひとつ意識を共にすることはできなかった。
 与えてくれる愛情のその分、心の奥がほんのちょっとだけ悲しみを感じて痛くなった。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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海水のさわれる距離にひみを置いてはいけません。散歩から帰りたがらないワンコと同じになってしまいます笑

そして、けーこをレストランの壁際に座らせてはいけません。出入りする人を瞬時にすべて見ています。
三浦といえばけーこによると、“カフェにいた店員の、ワンコ系イケメンお兄さん”。「三浦のお兄さーん!」だそうです笑

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→第187話 大蛇の臍の緒

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