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第205話 笹の葉さらさら天の川さらさら


 駅の構内を一旦出ると、自動販売機を探す。

「カフェっぽいのならあるけどどうする?ペットボトルは売ってないかな。」

 何歩か進んで目を凝らすと、やっぱり駅に戻ろうと降りてきたばかりの階段を上がる。
 コンビニで塩分入りのジュースを買うと、開封しながら汗を拭いた。

「なんかうちら、軽く呆れられてるんだけど酷くない?『お前らさっきからウロウロウロウロ、なーにやってんだー』だって。」と、まだ鳥居を潜ってすらいないうちからけーこが拾って教えてくれた。


 原宿駅の西口は、初詣の参拝者数第一位を誇る明治神宮に直結している。
 東京ドーム何個分というおなじみの単位で言われても、それがどのくらいなのか正直よくわからない。だからそれより、駅を出てすぐの鳥居から拝殿までの参道が軽く一キロを超えていると、そう言われたほうが私としては理解ができる。

 その参道も角を曲がって進行方向が切り替わると、「ちょっと失礼させてくださいね。」と神社の意識にお断りしつつ、遠慮なく日傘を差すことにする。いくらここが広大な神域の中であっても、七夕という日の夏の陽射しは生身の人間にはこたえる。

 再び角を曲がって三の鳥居が近づくにつれ、自然と笑顔が出てきてしまった。どなたなのかは分からないけど、やたらと歓迎してくれているそのエネルギーに嬉しくなる。

「おお!なんかよく知ってると思ったら、なんだ、オオクニヌシが待ってたよ。」

 ああ、オオクニヌシさまか……。

 けーこによってその正体がはっきりすると色々な意味で納得がいく。国土を創った国津神の、出雲大社に坐す彼が裏に鎮座していることで、この都心の杜(もり)に毎年これだけの人を集めていたのも納得だった。


 特に願い事がある訳ではない。縁を繋いでいただいたので、だから来て、ただご挨拶をする。私たちとは駒であり、それ以上の必要な用事はむしろ上が勝手に整えてくれる。
 女神の声に「ゆっくりして行ってください。」と言われると、境内をのんびりと散策する。だけどその間、けーことオオクニヌシがずっと笑いのマウントを取り合っていて、一つ一つその内容を教わるたびに一緒に大笑いさせてもらった。

「まったくお前らだけだぞー。」

 隣で又聞きしながら笑っていただけの私が「なんか今それだけは聞こえた。」と言うと、「そんなん、直接私に言ったら逆に言い返されるのわかってるからひみに伝えてきたんでしょ。」と、無双けーこが顔を出す。
 確かに天下の明治神宮においてこんな付き合いができる人間は、私たちくらいなものである。
 そしてこの日、オオクニヌシがけーこのガイドとして付くと、世の中における七夕という日を心待ちにしていたのは何も、人間だけに限ったことではないと後々になって知ることになった。

……

「おいちょっと。私の背中のあたりで、この二人で見つめ合ってイチャイチャしてるんだけど。
ねぇ腹立たん?そのための“私”?ねぇこれどゆこと……?」


 神々も、後世の人間が知る由もない、神話を超えた世界を現在であっても生きている。
 当たり前の話として、私たちだって転生を繰り返すことで様々な学びを得ているというのに、“神様だから”と編纂当時の飛鳥時代を今もそのまま生きているというほうが本来おかしな話というもの。

 あの当時において、天孫ニニギの妻として世に知られた美貌のサクヤヒメと、あの当時であっても“八千矛(やちほこ)”の異名まで付くほど浮き名を流したオオクニヌシ。そんな二人は現代において、けーこの守護に付きながら、そのお互いの想いを添い遂げようとしていたのだ。

 大山からさくらさんをお連れしたその日、けーこはオオヤマヅミから愛娘に対してこんなことを頼まれていた。

「色んな景色を見せてやってほしい。」


 詰まるところ、神であっで人であっても『経験』によって成長する。故に自分として生まれたのなら、自分にしかできない経験をすることで魂とは成長していく。

 それまでの私になかった概念として、神々においても多くの経験……新たな恋愛であってもそれによる学びが成長そのものであることに気づかせてもらうと同時に、これほどのエネルギー体が地球上で動いたという意味を改めて意識する。 

 神世(かみよ)とはまた人の世の倣いとなるもの。一段上の次元を行く二柱の神は、すでに自分たちの意志によりその一歩を踏み出した。そしてまた人類も肉体を持つ世界の中で、人として、その人なりの経験の道を取るか取らないかの選択の地へと近づいてきていた。

 こうして七夕での逢瀬も迎え、その後は天の川に架かる橋も再び閉じられるという時に、私たち一人一人の人間も、行く末のどちらに舵を切ることを選ぶのか。

 地球は静かに“人知れず”、激動の夏を迎えていた。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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私、ものすごく蚊に食われる体質なんですね。それこそ未浄化霊とかの供養かってくらい、神社なんかで食われた虫刺されの通常よりも痒いこと!
「私の血によってお前の御霊の無念を代わりに晴らせるなら、痒みくらい何てことない。」……って、私の魂はそれでよくても実際痒いのこっちだわ!「私、尊い♪」じゃないわ!笑

そしたら神宮の蓮池の周りとか、明らか蚊がいそうな場所でも一か所くらいしか食われなかったんですけどね。

この時のけーこによると、「大国主がさっきからうちらの周りでパン!パン!って蚊を払ってる」だそうで、なんとありがたいこと。

なんていうかね、神々の世界と私たちの世界って、そのどちらもが大切なんです。神は人を必要としていて、人も神を必要としています。なので色んなところでお互い支え合っているんですが、振り返ってもらえれば、ウニヒピリとかだってそうでしょう?
ウニは私を必要としていて、私もウニを必要としています。

全部、全部フラクタルです。
自と他も勾玉のように反転します。自は自、他は他なのが、自は他、他は自へと切り替わります。
そしてそれは同義です。

難しい話になっちゃったけど、目の前を大事にしてくださいってことです。

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←今までのお話はこちら

→第206話 スパイラルの光線を紡ぎ、その菩提樹を冠に

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