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第220話 循環


 ボーッとしていた。

 PTAの成人委員の最終日、島Tと最後に話した職員室で、私の姿を確認しつつもこちらへと来れなかったあの時のスサナル先生の葛藤。
 そのシーンを頭の中で何度もなぞっていた。

「彼はあの時、あの人なりにできる精一杯をしたんだね。本気で私のことを考えてくれたから、だから『来ない』という選択ができたんだね。」

 すると、自分の中の別の感情が押し出されるように喋り出す。内側に複数いる人格たちによる一人脳内会議。

「でも本当は私、先生に追いかけてきて欲しかったのに、来てくれなくて悲しかった。」

「酷いよ。私、待ってたのに。」

「……あの時の僕には、あなたを幸せにする自信がなかったんだ。だけどあなたを傷つけてしまって今はとても後悔してる。」

 途中から、横で聞いていた彼の意識が会話に入ってきた。そうして本音を伝えてくれると私のエゴが慰められる。

「そうだったの?後悔してるの?」

「それを知ることができて、私は嬉しい。」


 徐々に分かり合えたことでエゴセルフが安堵すると、思いつくままにこんな意図をしていった。
 巫女となり、体内には“その当時の悲しかった自分”、“納得していない自分”を入れる。次にスサナル先生に目の前まで来てもらうと、その二人を、時間軸を超えて統合させる。
 彼ら二人がとても愛し合い、ギュッとハグしているのがビジョンで伝わる。

 ところが、最初は当時の私と今の彼の魂を繋げるつもりでいたはずが、今現在の私が彼から抱きしめられている感覚になってきてしまい泣きそうになる。“自分のエゴと統合した私”がその愛情をまっすぐに受け取る。

 そのままさらに自分たちを一段深く融合させると、行けるところまで行ってしまおうとハイヤーセルフ経由でオーバーセルフまで上がっていく。

 『あの感覚』へとアクセスする。そうして彼の意識を私の隣に連れたまま、オーバーセルフその人へ向けて、こちらの私からの愛を伝えた。

「オーバーセルフ。いつも慈しみを持って私のことを導いてくれてありがとう。ええと、すべての私を肯定し、失敗も成功も分け隔てなく見守ってくれてありがとう。
……それをね、私から、ちゃんと自分の言葉で組み立ててあなたに伝えたかったの。
んー、言葉ってちょっと面倒くさいけどね。でもそのじれったいのも、それもこっちの次元ぽくていいかなって思ってね。」

 オーバーセルフからは、言葉なき言葉が“想い”として入ってくる。とても独特で、表現し難い全てを含んだあたたかさ。


 センタリングをしながらゆっくりとこちらへ戻ってくる途中で、ハイヤーセルフが驚いている。顕在意識の私が、まさかそんな“離れ技”に及ぶなどとは思ってもみないことだったらしい。
 しばらく手先がくるくる回り続けると、やがてそんな私に対して高次元から贈り物があることが伝わった。

「えっ、受け取れないよ。」

 今までの、自分に対する無価値感が奥から顔を出す。
すると私のハイヤーセルフと彼のハイヤーセルフが仲介役となり、「ちゃんと受け取るようにね。」と伝えてきた。

「うーん、わかった。ちょっと怖いけど、私もいつまでも大事な自分を無価値にしておきたくないから、だからちゃんと受け取るよ。」

 そうして広げた両手のひらには、帆船ではなく一隻の客船。

「おふねだー!おふねだー!」

 なんとリトが出てくると、本当に嬉しくて大喜びで派手に体を揺さぶった。今や全身で喜びを表現するこの子供の存在は、私が『今、ここ』を自分のものにする上での“学ぶ(まねぶ)べき”大事な師となっていた。

 その船の意識を、私と融合させていく。

「ああなんだ、meetooもまた私自身のことだったんだ!」

 船に乗り、且つ船となり、眼前の海原へと漕ぎ出していく。潮風が心地良かった。

……

 七歳の時のスサナル先生と喋っていると、時々切なくなってしまう。彼を苛んで(さいなんで)いたのはどうも実の母ではなくて継母のようだった。でもだからといって、それを免罪符にと看過できることではない。

「いつも僕ばかり怒られる。」
「いつも僕はひとりぼっち。」
「僕のおやつだけがない。」

 人が成長していく上で欠かせない、心の栄養となるものがある。愛情を注いでくれる大人からのコミュニケーションもさることながら、食事やおやつといったものも、子供の肉体の成長のみならずしっかりと魂を安定させてくれるものとなる。

 彼の場合、そのどちらもが欠落していた。スサナル先生を庇護下に置くべき者たちは、それらを与えず彼の自己肯定感を根こそぎ搾取することで、自分たちの“満たされなさ”を埋めようともがいていた。その行為が彼ら自身の首を絞める蟻地獄だとも気づけずに。


「ねぇ、“お母さん”今思いついたんだけど。
……これはお母さんの想像だけど、あなたはたぶん、お誕生日も祝ってもらったこともないんじゃないかな。
 だからお誕生日のお祝いをやりましょう。私と一緒にお祝いするの。」

 オーバーセルフから『受け取った』私が、今度は記憶の彼へと『与える』ことでエネルギーを循環させていく。
 想念で、生クリームたっぷりの苺のバースデーケーキを用意する。名前を書いたチョコのプレートに、ろうそくは七本。彼の本当の誕生日はまだもうちょっと先だけど、二人で歌を歌ってフーッと炎を吹き消した。

 少年時代のスサナル先生も、その彼のエゴセルフも泣いていて、それから彼のハイヤーセルフからも深い感謝と愛情を受け取った。

「あなたは存在していい子。生まれてきた価値のある子。私にとって、かけがえのない人なのよ。
 だからこれからは毎年、八歳も九歳も十歳もその先も、ずーっと一緒にお祝いしようね。」

「うん!」

 少しずつ笑顔を見せてくれるようになった彼を抱っこすると、過酷なこの世界に生まれてきてくれた彼の魂に心からの感謝をした。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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5年も10年も前の私の勘違い。
高次元て、『清浄』な世界だと思っていました。凛と澄み渡って不浄を許さず、どこまでも無色透明。
ところが実際には、その一見透明な中にあたたかみのある奥行き、含みがありました。

たとえば綺麗だといわれる冬の空気。でもこれだって、成分的には酸素、二酸化炭素以外にも色々な物で成り立っていますよね。
そして、枯れ葉や雑草を分解する微生物たちの営みで、北風の中であっても足元の温度は温かい。
それから世界でも絶景と言われるような、澄んだビーチ。その透明度の高い海水も、地球の滋養で溢れています。高次元って、そういったものに近い感じがしています。

そしてね。
彼とのやり取りも、段々とそういった、『言葉を超えた想い』でのコミュニケーションが増えてきます。あたりまえに『愛してる』も含んでるから、『愛してる』という感覚すら超越してるの。あるけどない。とても面白い感覚を味わっています。

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→第221話 私も必ず、現れるから。

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