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作りたい料理を作れるのは一握りのシェフ

海外で仕事をしていてもっとも実感するのは、人材不足です。(これはもちろん海外和食の現場という括りでお話ししていますが)現地で求人を出した場合、まず技術職の方がヒットする可能性は非常に低いです。私のように技術と経験を持っている人材を確保することは至極稀です。結果、新規店舗の立ち上げや、売上のV字回復を依頼されるケースが非常に多くなります。そしてそれぞれのケースにおいて結果を出してきました。コンサル業をしても良いのですが、私は現場至上主義なので、現場に立てるうちは自分で包丁を振るって直接そのお店の業績を上げる努力に直接関わりたいと思っています。

その上で、私が考えるメニュー作りの優先順位についてまとめておこうと思います。

まず最初にすることは、「オーナーの理想、目標、価値観のすり合わせ」をします。それぞれの理想や目標が異なっていていい結果を生み出すことはまずありません。それがどこまですり合わせできるか、よくよく考え、対話する機会を設けていただきます。新規店舗なのか、売り上げ回復を求められているのか、店のグレードアップを図るのか、その目標ひとつとっても着地点をどこに持ってくるのかをしっかり把握します。

次にすることは「その地域の顧客を想像する」ことです。その街の中でお店がどのポジションに位置しているのかを徹底的に想像します。何を求められているのか、何を期待されているのかを徹底的に想像します。海外の場合、和食店のニーズには大きな地域差が生まれます。商業が盛んな地域なのか、学生が多いのか、郊外なのか、コンサバティブな地域なのか、インバウンド商業地域(リゾート地域)なのか…など。そのための地域の情報を実際に足を運んでじっくり観察します。飲食店はもちろん、スーパーマーケットや青空市場を観察しながら、人々の様子も同様に観察し、話しかけてみます。コミュニケーションを取れるようなら、こちらの情報も提供し、様座な人々の生の声に耳を傾けます。とにかく聞き上手になって、現場の生の情報を少しでも多く取り入れ、その街の雰囲気を身近に感じれるようにします。まるでもう何年も住んでいるかのように。

「オーナーの理想、目標、価値観のすり合わせ」「その地域の顧客を想像する」この二つの準備がメニュー作りでの基盤になります。別段変わった作業ではありません。当たり前のことのように見えますが、このことを徹底的にやり、継続し、実行に移している人はそう多くありません。私のように雇われでこれを実践に用いる人は、自分で言うのもなんですが、稀です。

これらの擦り合わせと、想像力と、自らのモチベートを加味して、地元密着型の店舗を運営していく。それが最重要です。

結局なにが言いたいかと言うと、本当にただ作りたい料理が作れるシェフというのは、知名度のある(ブランド力のある)一握りのシェフだけだと言うことです。海外に出て料理をやっていると、マイノリティと言う立場から一介の料理人であっても特別視してもらえる経験を得ることがあります。チヤホヤされたりします。また店そのもののブランド力と、個人の実力を取り違えてしまう人が少なくありません。厳しい言い方かもしれませんが、それは現実として受け入れて欲しい。と言うのはそこで勘違いして、迷走し、消えていく仲間を見ていたからです。皆がそうとは限らないし、またその経験を生かして実力を発揮する人もいるでしょう。しかし甘い汁を吸うような経験に酔いしれてしまうことは誰しも起こりうるので、僕のこの言葉もどこか頭の隅に置いていただけると、もしかするとどこかに役に立つかもしれません。まぁ、ただの老婆心だと言われても仕方ないんですけど…。


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