猫とすれ違った
階段で、猫とすれ違った。
私は登りで彼は下り。
こちらを見向きもせず、一心に階下に降りて行った。
ふと気づく。こんな感じですれ違ったこと、あんまりないんじゃないかな。
彼はいつも、後ろからついてきたり、追い抜かして行くことが多い。
それが、目の前から向かってきた。さらに、一点を見つめてこちらを気にもしなかった。
何だか、嫉妬のような気持ちが芽生えた。
彼を、こちらを見向きもしないほど、夢中にさせたものは何だったんだろう。
何を思ってあんな真面目な顔で降りて行ったのだろう。
その眼差しの先にあったのは、期待していたものは、何だったんだろう。
彼の思考を知ることは一生できない。
その事実に、性懲りも無く打ちのめされる。それはもう、何度も。
どんな思考回路で、何を思い、どれだけ幸せで、どれだけ嫌なことがあるのか。
正確なところは絶対にわからない。
どんなに愛しても、一方通行で、永遠の片想い。
どうしたって悲しい。
誰か、猫の思考を理解する術を発明してください。彼がこの世からいなくなる前に。
切実に、願っています。
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