五分咲きの春。 #旅する日本語
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「君が羨ましいよ」と最後にあの人は言った。
見知らぬ土地に1人旅立つ、少し心細い私を見抜いたのだろうか。
その言葉はそのときの私の背中をまた少しだけ押した。
まだ見知らぬ京都で1人見上げるまだ五分咲きの桜は、昨日降った雨の露を含ませてこれからの新生活への希望とほんの少しの不安を語っていた。
私は、あの人が昔叶えられなかったこの場所で、自分の夢を叶えるために来た。
あの人が背中を押してくれたから、今の私はここにいる。
あの人の希望も背負って、これからここで過ごしていく。
私を見守るように催花雨が降り始める。
これは悲しみの雨ではない。
これは不安の雨ではない。
これはこれからの私の恵みの雨なのだ。
そうして私はまた、一歩先の未来の自分に会いに行く。
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「催花雨」(さいかう)・・・春、花の咲くのを促すように降る雨。
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