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生活者はマーケティングにおいてAIをどのくらい受け入れるか?についての米国でのレポートより〜シミュラークル化する社会における広告とマーケティングの話ってこと?

先日、東京ビックサイトで開催されたマーケティングWeek及び併催イベントにおいても、生成AI流行りだった。

SEOやコンテンツマーケティング向けのテキストコンテンツを生成AIで作成する、広告コピーを生成AIで多数生み出す、動画を生成AIで作成する、ヴァーチャルタレントを生成AIで生み出すなどなど、主にクリエイティブの領域での生成AI活用が目立つが、営業系、マーケティングオートメーション系、人材系においても ChatGPT を中心とした生成AIを利用しているものが多く見られた。

さて、マーケティングというのはB2CであれB2Bであれ、“人”と接触する部分がある経済活動である。そのため生成AIの活用においても、それがマーケティングのどの部分に影響し、そしてその活動はどのように評価される可能性があるかについても認識をしておく必要があるだろう。

例えば、昨年、伊藤園がCMに生成AIで生み出したヴァーチャルタレントを起用した話があった。タレントのスケジュール調整や不祥事といったリスクを回避できる、撮影に関するコストが低くなるなど、作り側や送り手側にとってのメリットは大きい。

しかしながら一方で、広告やマーケティングというのは「企業側の嘘」や「企業側の言い分」だと思われ、ネガティブに捉えられやすいこともある。つまり、ただでさえ「言いことしか言っていない」と考えられるCMにおいて、authenticity という、誠実性、真実性、透明性といったニュアンスを孕む言葉を担保できるように、生成AIを活用する際は考えておく必要があるということだ。嘘や欺瞞を混ぜることは可能な分。

そこで参考がてら、米国で生活者(消費者・オーディエンス)に対して行われた生成AIのマーケティング・広告利用に関する調査をあげてみたい。

まずはヴァーチャルタレント、ヴァーチャルインフルエンサーに関するものから。

上記調査を要約すると、

  • ブランドがAIを活用することによって、人間らしさ( human touch )を失うことが最大の欠点(reported by Attest)

  • 消費者の約6割が、ブランドによるAI技術の導入が人間らしさの喪失につながると考えている。

  • 過半数(約55%)が、(ブランドとのやり取りにおいて)ホンモノの人間と話す機会がなくなる未来を予想。

  • 米国、カナダ、メキシコ、オーストラリア、英国、ドイツ、フランス、オランダの労働年齢層9,500人対象の調査によると、生成AIのヴァーチャル・インフルエンサーをフォローする可能性があると答えたのは約18.6%。インフルエンサー・キャンペーンの主なターゲットであるZ世代でも、それより少し高い22.5%のみ。

  • The Influencer Marketing Factoryの調査によると、多くのアメリカ人が少なくとも1人のヴァーチャル・インフルエンサーをフォローしているが、購買経験は少ない。

  • Attestの最新調査では、約半数の回答者がAI生成のモデルを広告で見たくないと回答。その理由として、仕事が奪われる(70%)、非本物感 inauthencit(53%)、非現実的な美の基準 unrealistic beauty standards につながる可能性(44%)があるから、が挙げられている。

  • マーケティングにおいては、デジタル加工されていないモデル見たいとする意見は、25-34歳で71.5%、45-54歳で67.2%と、年齢層に関係なく挙がっている。

次にマーケティング活動全般に関する調査。

リサーチ会社である YouGov による生成AIに関する上記二本の消費者調査によると:

Proportion of consumers by market
who are uncomfortable with AI-generated advertising
 
YouGovの同調査のページより。
  • マーケティングや広告における生成AIの主要な使用例では、不快感を感じる傾向が強いことがわかっている。

  • ヴァーチャル・ブランド・アンバサダーに関して:17か国(*日本が入っていない)の回答者の約半数(51%)が、ブランドが有名人の代わりにAIで生成したバーチャル・アンバサダーを使うことに不快感を抱いている。逆に不快感は抱かず快適さを感じるというのは、3分の1(34%)。ヴァーチャル・ブランド・アンバサダーやヴァーチャル・インフルエンサーにはあまり指示が得られていない(少なくとも現時点では)。

  • 生成AIによって作成された製品イメージに関して:製品画像をグラフィック・デザイナーの代わりにAIを用いて編集することについては、不快48%、快適39%であり、実際の商品写真の代わりに製品画像を生成することいついては、不快47%、快適39%であり、現時点では不快感のほうが上回っている。

  • キャッチコピーなどを生成AIで作成することに関して:商品の説明文やキャッチをコピーライターの代わりにAIが生成することについては、意見がほぼ均等(不快42%、快適43%)。

  • どこに広告を出すかのメディアプランに生成AIを使うことに関して:その筋のプロがどこに広告を出すのかを決める代わりにAIが決定することについては、意見が二分(不快41%、快適42%)。

先のヴァーチャル・タレント/インフルエンサーの調査も踏まえると、人間や商品そのものなど視覚領域に関するものは不快感が大きいらしい。一方で、テキストと視覚的でない部分での生成AI活用については意見がわかれている。

昨年の米国での上記調査によると、ブランド側はAIをどこに使っているのかを開示すべきであるという意見に広く同意が得られている。特に、ヴァーチャル・アンバサダー、ヴァーチャル・タレントについて大きな支持が集まっている。もう実在の人間か否かがわからなくなるレベルの技術進歩だから、これは懸念事項として上位にあがるのもよくわかる。

一方で、生成AIのように存在しないタレントの場合と、実在のタレントをデジタル生成したものや、実在の人物のデジタルクローンの場合とで、いったい開示される表記がどのように変わってくるのだろうか?というのも検討されるべき事項だろう。

※生成AIかどうかの開示の話って、ネイティブ広告において起きていた議論に似ているように思う。

広告やマーケティングではないが、大きくコミュニケーションの分野と考えれば、「AIゆりこ」などもその一つ。

個々の人間が物理的に一つの存在であり、有限の時間と場所にしか存在できないことを考えると、デジタル複製された存在というのは、藤子不二雄の『パーマン』のコピーロボット以上に“使いやすい”(文句も言わないし)。なので普及はしていくのだろう。

しかしながらその“使いやすさ”とは逆に、例えば deep fake として作られたものかどうかの判断が生活者(消費者・オーディエンス)には技術的に難しくもなってきており、使いやすさや開示するしないだけで解決しない問題まで来てしまっている。もし、ブランド側がその autheticity の一環として、生み出したヴァーチャルな人物に「これはAIです」と開示をしたとしても、悪意をもった第三者が同様のものを生み出して、怪しい発言や行為をデジタル上で行い、動画で拡散されてしまえば、何がホンモノなのかがわからなくなってしまう。

ヴァーチャルな人物の存在や商品画像のAI生成は、ボードリヤール的に言えば「シミュラークル」の氾濫といったことになろうか。何がリアルで何がそうでないかが不明瞭な時代が訪れるのだとしたら、企業の広告やマーケティングに対する生活者の不信感はますます増してしまうのかもしれない。


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