見出し画像

【澤田辰徳先生:インタビュー第1回】情報収集とSNS

世に氾濫する情報の取捨選択と学びの極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。4人目は,時代の移り変わりに対して鋭敏な感覚をもち,その時代に合った作業療法や教育を展開してきた東京工科大学 医療保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授の澤田辰徳先生にお話を伺いました。
さまざまな技術が開発され情報収集や学習の環境が変わるなかで,若者に求められる姿とは何か。
全3回シリーズの第1回では,澤田先生がこれまで行ってきた情報収集の方法と現代の情報収集の難しさ,また現代におけるSNSの立ち位置などについてお話しいただきました。

若い頃は手当たり次第に

——先生は,これまでどのように医療関連の情報を得てこられたのでしょうか。

澤田:
私は,まずは目の前の患者さんのためになるよう,患者さんの困りごとの解決に役立つ情報を収集していました。
ただ当時は臨床勤務でしたので,病院にはそれほど多くの資料はなく,インターネットも満足に発展していませんでした。
どの情報が正しいかもわからなかったため,手当たり次第に調べたり,先輩に聞いたりしていました。
効率は悪かったかもしれませんが,ただ,若い頃はそれでよかったのではないかと思います。
まずはよくわからなくとも自分なりに調べてみるべきだと私は思います。
いずれはどの情報が正しいかわかってきたり,先輩の言っていることさえも,批判的な目でみることができるようになるのではないかと思います。

現代における情報選定の難しさとその対処法

——現代における情報選定の難しさとはどのようなものでしょうか。

澤田:
さまざまな技術の革新により,現代は昔に比べて情報量が多くなったと思います。
多くなるどころか多過ぎると感じることもあります。
容易に情報に触れることができる反面,検索して引っかかってきたものをそのまま信じないように学生には注意喚起しています。
マニアックな情報は,書籍や論文を調べてもなかなか見つからない場合があり,一方で個人のブログなどが検索に引っかかることがあります。
検索してもそのブログでしか答えが明らかにならなかった場合は,思わずそれを鵜呑みにして信じてしまいがちです。
そのほうが楽ですからね。
その誘惑というか,正しい情報へ辿り着くことが難しさの一つだと思います。
また生成AIなども,現段階ではまだ完全に信じるほど洗練されていないといえるでしょう。
ただ将来的には,自分で調べるよりも生成AIに任せたほうが正確に結果を求めることができるようになるかもしれませんね。
時代は変わっていきますから,そのときに合わせて自分も変化する必要があるのではと私は思います。

——正しい情報はどのようにして得ればよいのでしょうか。

澤田:
学術的にしっかりした情報は,基本的に論文に基づいて発信されています。
その情報が正しいかどうかは,誰が発信しているか,媒体は何か,出典は何かを確かめることでおおむね確認できます。
媒体としては,やはり学術論文やしっかりと書かれた書籍が信頼できますね。
ただ論文や書籍にもたまに情報の間違いがあるので,「しっかりと書かれた」というのが重要です。
また古い書籍には古い情報が載っていることもあるので,そこも注意が必要かと思います。
しかし書籍は基本的に,監修・編集・出版社の社員の方など,多重に内容がチェックされているため,誤りは少ない媒体かと思います。
個人で発信されているブログやYouTubeは,そういった校閲が入らないため内容の精査が必要です。
なかには疑わしい情報もあるので,注意が必要なのではないかと思います。

SNSの立ち位置

——SNSの長所と短所を教えてください。

澤田:
長所は,たくさんの情報を得られるところや,著名な先生をはじめ,さまざまな方が何をやっているかがわかり,身近に感じられるところでしょうかね。
短所はやはり,怪しい情報やよくない扇動に踊らされてしまうところでしょう。
実名のアカウントであれば,実名で根拠のないことを発信すれば自分自身が大変なことになるのがわかっていますから,ある程度節度をもって利用されている印象があります。
しかし素性のわからない匿名のアカウントには,攻撃的な扇動や炎上,トラブルも見受けられます。
私も反対意見やさまざまなご意見をいただくことがたまにありますが,それは修練の場と思うようにしています。
制限された文字数で相手に嫌な思いをさせずにどのように返信するかを考えることは,トラブルシューティングの学びになると思います。
感情的な意見の相違に基づくことを言われれば怒りの感情が湧くかもしれませんが,誠実な対応をしてご納得いただければ,そちらのほうがお互い気分がいいのではないかと思います。
場合によってはそのアカウントが,私の非難から応援に転じることもあります。
色々目に見えない関係性があるので,SNSの発信者は疲れるのではないかと思います。
私はよく疲れます(笑)。
ただSNSは,簡単に高度かつ最新の情報に触れることができたり発信することができるため,非常に利用価値があり,今後はこれまで以上に必須のツールとなってくると思います。
その長所・短所をどう活用するか,時代に合わせて自身をどう適応させ,使いこなせるかが重要だと私は思います。

——先生はSNSをどのように用いてきましたか。

澤田:
私は,昔は病院のブランディングや作業療法の啓発,仲間とのコミュニケーションのためにSNSを利用していました。
かなり昔に仲間からSNSを始めるように勧められましたが,私は自分で「失言男」だと自覚していましたので,SNSの利用を拒んできましたが,ついに始めることになりました。
ただ現在はさまざまなプラットフォームがあり,年齢と性格により複数を処理できません。
従って,今はほぼTwitter(現X)しか使っていません。
Facebookも使っていましたが,気づけば友達申請がたくさん来ていて,友達の友達だからよいだろうと思い,知らないアカウントをうっかり許可したことがありました。
するとそのアカウントから,ダイレクトメッセージで怪しい投資に勧誘されたり,商品の宣伝や拡散依頼をされることなども多々ありますので,注意しなければならないと思いました。
色々なことを拡散したい,宣伝したいお気持ちはよくかりますし,こちらも余裕があれば対応し切れるのですが,ここ10年以上かなり業務が詰まっていますので,正直そこまで対応しきれないということが実状です。
あまり何も考えずにSNSをやっていましたが,改めてなんのためにやっていたのかを考え直すと,作業療法の啓発と所属組織のブランディングという側面はあったと思います。
振り返ると,フォロワーが何を欲していて,自分が何を届けたいのかという需要と供給が合致してくれたのかなと思います。
現在であれば「東京工科大学はこんなことをやっているのか」と,現場の先生や学生の実習先の先生方などに知ってもらえれば,学生がその病院に行ったとき,「あの東京工科大学の学生か」と認識してもらえるので,学生に帰属意識が芽生えます。
そのように,学生が少しでも嬉しく感じてくれたらいいなあと願っています。

——SNS上で信頼できるインフルエンサーの先生は誰でしょうか。

澤田:
懇意にしている竹林 崇先生(大阪公立大学 大学院リハビリテーション学研究科 リハビリテーション学専攻 教授)ですかね。
OT界隈でのフォロワー数がNo.1と聞いたことがあります。
フォロワー数でなく,やはり緻密な医学情報を無償で提供していることには頭が下がります。
そのほかには,同僚で盟友ですが友利幸之介先生(東京工科大学 医療保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授),齋藤佑樹先生(仙台青葉学院短期大学 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授)などですかね。
彼らは正確な情報を発信し,安易な他者の批判もされないと思います。
私と違って(笑)。
一方SNSは,各人の人となりをとらえにくいというデメリットもあります。
著名な方でも,SNSで言っていることと実際の職場での姿との間でギャップがある方もいらっしゃる気がしますので,その点も情報に踊らされないように注意が必要かと思います。
そういう意味でも,オフラインでお会いしたり現場を訪問したりするのがよいのではないかと思います。

第1回では,澤田先生がこれまで行ってきた情報収集の方法と現代の情報収集の難しさ,また現代におけるSNSの立ち位置などについて伺うことができました。第2回では,学習のコツと論文の読み方について伺います。

(第2回につづく)


【澤田辰徳先生プロフィール】

<略歴>
1975年生まれ。岐阜県出身。東京工科大学医療保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 教授。管理運営・自動車運転・作業療法理論などを専門とし,2013年には日本臨床作業療法学会を立ち上げ,会長に就任した(現在は同学会理事)。Twitter(現X)においても精力的に活動中。
【経歴】
1999年 広島大学医学部保健学科作業療法学専攻 卒業
2001年 広島大学大学院医学部保健学科作業療法学専攻 卒業
2001年 グリーン病院(現 埼玉みさと総合リハビリテーション病院) 作業療法士
2006年 聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部作業療法学専攻 講師
2009年 イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科 技士長
2016年 東京工科大学医療保健学部作業療法学科 准教授
2021年 東京工科大学医療保健学部作業療法学科教授 現在に至る
【主な著書】
作業で結ぶマネジメント(医学書院)
作業で語る事例報告 第2版(医学書院)
作業療法とドライブマネジメント(文光堂)







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?