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【澤田辰徳先生:インタビュー第2回】「現時点」の英語論文の読み方

世に氾濫する情報の取捨選択と学びの極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。4人目は,時代の移り変わりに対して鋭敏な感覚をもち,その時代に合った作業療法や教育を展開してきた東京工科大学 医療保健学部 リハビリテーション学科 作業療法学専攻 教授の澤田辰徳先生にお話を伺いました。
さまざまな技術が開発され情報収集や学習の環境が変わるなかで,若者に求められる姿とは何か。
全3回シリーズの第2回では,学習のコツと論文の読み方についてお話しいただきました。

学習のコツと論文の読み方

——学習のつなげ方のコツを教えてください。例えば,解剖学から運動学,運動学から各疾患の病態など,多くの情報をどのように関連付けながら学ぶと頭に入りやすいか,といったことです。

澤田:
学生や新人作業療法士などは,情報がブツ切りで,点で理解しているように思えます。
Brunnstrom stageを知っていますか?
Brunnstrom stageは,脳卒中後の全身の運動機能の回復過程を測定する評価指標で,基本的に6段階に分かれていますが,各段階がブツ切りであると理解している学生もいます。
例えば,stage Ⅲの患者がリハビリテーションを行った結果,突然ある瞬間からstage Ⅳになるということはなく,人類が4足歩行から2足歩行に徐々に進化するように順を追って回復していきます。
通り一遍に教科書を理解するだけでなく,目の前の対象者の方の現象から学ぶのが1番です。
このようにリハビリテーションは連続体なので,事例ベースで考えるといいかもしれません。
評価・介入・再評価までの結果を,一連の流れとして学ぶことが臨床的な学びにつながると思います。
またその患者の回復過程を自分の目でよくみて,検査結果と照らし合わせるとよいと思います。
特にうまくいった場合に,何が効果的だったのかを振り返るのも重要です。
失敗するとショックですので,失敗を振り返って行動変容に結び付ける人は多いですが,うまくいったことを振り返る人はあまりいない気がします。
「忙しいからうまくいったことはそのままでいいや」となりがちですが,うまくいったことこそ自分の血とし肉とすれば,リハ戦略が1つ増えるので,私は振り返ることをお勧めします。
1番生産性がないのは,失敗してただ落ち込むことです。
落ち込むのは最小限にして,学びにつなげることが重要だと思います。

——学生に英語論文の読み方を教えているかと思いますが,先生ご自身はどのように読み方を身に付けられましたか。

澤田:
まず基本的には,肩肘張らずにGoogle翻訳やDeepLを使えばよいと思います(笑)。
日本人は英語においてdisadvantageが強いので,共通言語が使えるという未来が来たら本当に強いと思いますよ。
それだけのポテンシャルがあると思います。
英訳に関しては,全訳しないことですね。
特に研究目的,resultは重要だと思います。
学生には,研究目的はだいたいintroの最後のパラグラフに書いてあると説明します。
resultはその研究のすべてです。
それ以上のこともそれ以下のこともいえません。
一方で,新しく始める分野であればどのような研究がなされてきたかというintroductionや,結果を先行研究と照らし合わせてどう解釈したのかというdiscussionも重要だと思います。
ただこれは日本語論文でもそうですが,考察で「効果があった」と書かれていても,結果をみるとそんなに効果が出ていないことがあります。
しっかりと自分の目で結果を解釈し,本質を見抜く必要性があるかと思いますね。
ただ,隅から隅まで全部を必ず読まないといけないという気で読むと疲れるので,個人的にはそのときの知りたい情報に合わせてポイントをとらえるようにしたらよいかと思います。
先ほど英語論文を読むとき,Google翻訳やDeepLを使ってもよいと言いましたが,その道を極める場合は,やはり英語は自分で訳せるようになったほうがよいと思います。
ある学生が,「アルゼ…アルゼ…アルゼイマーD」などとブツブツ言っていたのですが,それはAlzheimer's Disease(アルツハイマー病)のことでした。
このように,普段から機械翻訳ばかり使っていると疾患名もカタカナしか見ることがなくなるため,練習にならないですね。
現時点では●●●●●,さまざまなところで学びの支障となりますので,極めたい分野があれば実際に英語を読むことをお勧めします。

——「現時点では」というのは,どのような意味でしょうか。

澤田:
将来的には機械翻訳が進化し,英語を読む必要性は薄れていくという意味です。
でもそれでいいんじゃないですか?
話は変わりますが,自動運転と同じです。
自動運転が完璧になってくれれば,人間の苦労が1つ減りますからね。
まぁ私が死ぬまでには無理だと思いますけど。
なぜなら倫理的な問題などがあるからです。
左に曲がれば子どもを轢いてしまう,右に曲がれば老人を轢いてしまう,直進すれば自分が単独事故を起こすという局面で,何を選択するようにプログラミングしますか?
こう問いかけると,ある人は老人,別の人は自分と答えたりします。
このように倫理的な問題には答えがない場合が多いんですけど,答えのないものは人間の担当です。
答えのあるものはAIやロボットの担当だと思います。

第2回では,学習のコツと論文の読み方について伺うことができました。第3回では,答えのないものとは何か,また澤田先生の若者に対する想いについて伺います。

(第3回につづく)


【澤田辰徳先生プロフィール】

<略歴>
1975年生まれ。岐阜県出身。東京工科大学医療保健学部リハビリテーション学科作業療法学専攻 教授。管理運営・自動車運転・作業療法理論などを専門とし,2013年には日本臨床作業療法学会を立ち上げ,会長に就任した(現在は同学会理事)。Twitter(現X)においても精力的に活動中。
【経歴】
1999年 広島大学医学部保健学科作業療法学専攻 卒業
2001年 広島大学大学院医学部保健学科作業療法学専攻 卒業
2001年 グリーン病院(現 埼玉みさと総合リハビリテーション病院) 作業療法士
2006年 聖隷クリストファー大学リハビリテーション学部作業療法学専攻 講師
2009年 イムス板橋リハビリテーション病院リハビリテーション科 技士長
2016年 東京工科大学医療保健学部作業療法学科 准教授
2021年 東京工科大学医療保健学部作業療法学科教授 現在に至る
【主な著書】
作業で結ぶマネジメント(医学書院)
作業で語る事例報告 第2版(医学書院)
作業療法とドライブマネジメント(文光堂)

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