見出し画像

【町田志樹先生:インタビュー第2回】社会で生き抜く方法

世に氾濫する情報の取捨選択と学びの極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。3人目は,学生のためを想い,授業や本のわかりやすさを探求し続けてきた,了德寺大学 健康科学部 医学教育センター 講師の町田志樹先生にお話を伺いました。
さまざまな人の思惑が交錯するSNS,常にそれにさらされる若者が大切にすべきものとは何か。
全3回シリーズの第2回では,社会で生き抜く方法についてお話しいただきました。

社会で生きていく力

——なぜ信頼・尊敬できるX(旧Twitter)ユーザーに,実業家の方々を挙げていただいたのでしょうか(第1回参照)。

町田:
私はこのインタビュー記事を読んでいる人たちに,医療の業界内だけではなく,社会のなかで生きていく力を身に付けてほしいからです。
私は,学生や若手が,匿名のアカウントのグループや,怪しげなビジネスにはまっていく様子を数多く見てきました。
社会を広く知れば道を踏み外すリスクも回避しやすくなるはずですし,ステップアップできる可能性を高めることができます。
現在は新型コロナウイルス感染症の流行やロシアのウクライナ侵攻,物価高騰など,予測できない流動的な世界になっています。
日本においては,終身雇用制度が破綻しています。
必ずしも実業家になる必要はありませんが,労働者の誰もが個人事業主的観点で生きるべきだと思います。
読む本についても,医療関連のものだけでなく社会について学ぶことができるものを読みましょう。
私は最近『幸福の「資本」論』(ダイヤモンド社)という本を読みましたが,おすすめです。
本を読めば,社会について学べるだけでなく,語彙が増えるため表現力も豊かになります。
SNSで安易な言葉で業界を批判するような投稿をし,語彙力の低さを露呈してしまう方々も残念ながらよくみかけますよね。
ただ私の経験上,読書を推奨しても実際に読む人は100人に1人です。
だからこそ,本を読む意義があると思います。

——先を見通しにくい流動的な世の中で,PTの仕事の安定性についてはいかがでしょうか。

町田:
現状としては安定しています。
「安定」の意味は,プラスの変動もマイナスの変動も少ないということです。
さらに踏み込んで言うと,若い人がよく気にされる「給料」は増えづらいかもしれません。
これは当然のことですが,その背景を理解していないセラピストが文句を言ってしまうのではないでしょうか。
しかし最近はPTの活躍の幅も広がっており,給料を増やしやすくなったと思います。
先に述べた実業家になることだけでなく,病院ではなく一般企業に雇用されること,講演を行うこと,本を書くことなど,昔よりも選択肢には恵まれています。
副院長など要職に就かれているPTもいらっしゃいます。
PTの給料は増えにくいと聞くとやる気を失う人がいるかもしれませんが,社会について勉強することで,活躍の幅を広げようという気構えが必要ではないでしょうか。

クライアントを大切に思う

——なかなか踏み込みにくい「給料」についてお話しいただき,読者にとっても有意義かと思います。

町田:
私は現金な人間だと思われてしまったかもしれませんね。
ただ実は,仕事をするうえで私が何よりも大切にしているのは,クライアントです。
クライアントを大切に思うからこそ,クライアントが必要としているものを知ることができ,それに対して効果的なプロダクトを打ち出すことができるのだと思います。
教員である私にとって最も大切なクライアントは学生です。
意識しているのは,クライアントが求めているものを推測だけで判断しないことです。
推測だけで仕事を進めると,必ずどこかで歪みが生じます。
私は国試対策の指導に入ると,学生と週1回面談します。
そこで弱点を明らかにし,その学生に最も合った勉強の方針を提案します。
難解な本,難解な授業もよいですが,私は常にクライアントのレベルに合わせたものを提供しています。
学生のなかには,学力がそれほど高くない人もいます。
そのレベルの層に合わせた教育は,甘やかした教育と思われがちですが,レベルが高い層に合わせることだけが教育ではないと思っています。
企業などから依頼される講演でも,そのようなボリュームゾーンの学生を対象としたものが主ですが,受講者アンケートで「講演が簡単すぎてつまらない」と回答した方は,これまで数千名の中で1〜2名しかいません。
ボリュームゾーンに向けて講演しているとはいえハイレベルな学生も多く参加してきたと思いますので,この数に抑えられているのは,どんなレベルの者にとってもわかりやすい講演にすることの重要性を示していると思います。
私のボリュームゾーンの学生向けの講演を「簡単すぎてつまらない」と言うのは,「チェーン店で高級店の味と違う」と言っているのと同じですよ。
つまり私は,初めからハイレベルで崇高な講演を提供しているわけではなく,ボリュームゾーンのクライアントが最も求めているものを選んで提供することを心掛けています。

(第3回につづく)

第2回では,社会で生き抜く方法について伺うことができました。第3回では,セラピストが生きていくうえで,忘れてはいけないことについて伺います。


【町田志樹先生プロフィール】
<略歴>

新潟リハビリテーション専門学校(現 新潟リハビリテーション大学)卒業後,2010年より順天堂大学大学院医学研究科解剖学・生体構造科学講座で研究生として解剖学を学ぶ。2015年に同大学博士課程を修了し,博士(医学)を取得。現職者を対象とした教育講演・講習会を全国で250回以上開催し,『動画×書籍で学ぶ 解剖学・生理学 7日間で総復習できる本』(羊土社),『PT・OTビジュアルテキスト 専門基礎 解剖学』(羊土社)など著書も多数。
<主な著書>
町田志樹の聴いて覚える起始停止(三輪書店)
町田志樹の聴いて覚える解剖学 中枢・末梢神経編(三輪書店)
町田志樹の聴いて覚える解剖学 循環器・呼吸器+心電図編(三輪書店)
PT・OTビジュアルテキスト 専門基礎 解剖学(羊土社)
Stay's Anatomy神経・循環器編(羊土社)
Stay's Anatomy臓器編(羊土社)
Stay's Anatomy運動器編(羊土社)
動画×書籍で学ぶ 解剖学・生理学 7日間で総復習できる本(羊土社)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?