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【町田志樹先生:インタビュー第3回】現代の若手はどうすべきか

世に氾濫する情報の取捨選択と学びの極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。3人目は,学生のためを想い,授業や本のわかりやすさを探求し続けてきた,了德寺大学 健康科学部 医学教育センター 講師の町田志樹先生にお話を伺いました。
さまざまな人の思惑が交錯するSNS,常にそれにさらされる若者が大切にすべきものとは何か。
全3回シリーズ最終回の今回は,セラピストが生きていくうえで,忘れてはいけないことについてお話しいただきました。

教育の在り方

——いつの時代でも「現代の若者は…」という声があるかと存じます。教育のなかで日々若者に接している町田先生はどう思われますか。

町田:
生まれた年代に応じて「◯◯世代」と呼んだり,ときに若者を揶揄することはいつの時代もあるものですよね。
近年の若者は,「能動性が低い」「向上心がない」「すぐあきらめる」などと批判されがちだと思います。
しかし実は,素直であったり,要領がよかったり,鋭い感性をもっていたりと,すばらしい面も多いのです。
また設定された環境のなかで行う作業には強いですし,デジタルネイティブでもあります。
教育は,そういった若者のすばらしい面を見出して,引き出していくものだと思います。

能動的にキャリアを形成するためのツール

——SNSの長所・短所を教えてください。

町田:
SNSの長所は,対外的に何かを求めるときに有用な点です。
新しいことをしたいときは母数が必要であり,その何かが見つかったときのためにSNSを運用します。
例えば仲間を集めたいときなどですかね。
現代において,非能動的ではキャリア形成は難しいです。
ただそのときは,やはり実名で運用する必要があります。
匿名ではほぼ意味がありません。
業界を罵ってみたり,個人的趣味の投稿ばかりを繰り返していても,生産性はないですよね。
SNSの短所は,ネットリテラシーの低い人にとっては騙されるリスクがあることです。
SNS上で見る医学に関する情報をすぐに臨床に落とし込むのではなく,まずは疑ってかかることです。
毎日のように先行優位性(新しいことをいち早く始めることで得られる優位性のこと)をとろうとする情報が流れていますが,そこに飛びついてはいけません。
ただこの間,「最近ふるさと納税を勧められて始めました。ただお金に関する手続きがあって,投資ではないか不安になってきました…」と若手の現職者に言われました。
私が怪しいビジネスにはまるなと教えたから,心配になったのでしょうね(笑)。
やはり,社会について勉強することは重要ですね。

——ふるさと納税は税金に関する制度ですから,投資ではありませんよね(笑)。それでは話は戻りますが,それぞれのSNSの特徴を教えてください。

町田:
まずInstagramは画像・動画投稿をメインとする情報蓄積型のSNSで,後から振り返りやすいのがよい点です。
ただ動画上の情報は内容が薄いため,実際に自分のものにするにはより深く学ばなければなりません。
見せ方が豊富なので,覚えやすくはあります。
私も以前に講義の予習にInstagramを活用した経験がありますが,視聴率が高かったです。
海外では学術的にもよく使われており,今後日本でもそういう用途で使われることが増えるかもしれません。
ただ,Instagramの情報だけで明日の臨床に挑む,国家試験に挑むといった使い方は適切ではないのでやめてください。
当然ながら,Instagramから得る学びには限度はあります。
次にX(旧Twitter)は拡散力は高いですが,その質は玉石混交の極みです。
何を言ってもよいという世界観であり,攻撃的な人も多いです。
私が若い理学療法士に1番おすすめするのは,Facebookです。
若者にとってはオワコン(終わっているコンテンツ)と思われがちですが,そう思っているのは日本の20代だけです。
世界で最もユーザー数が多いSNSであり,名刺交換的な要素があるため,ビジネス上で非常に有用です。
私自身もFacebookを通じ,さまざまな機会をいただいた経験があります。
また同業者の自己研鑽や学会参加・論文発表などから刺激を受けることができることも,使用するうえでのメリットかもしれません。
またそういった投稿を見ていると,しばらく会っていないのにいつも会っているような感覚もあり,自然に親交が深まっている気がしますよね。

セラピストが忘れてはいけないこと

——学習のコツや,先生が実践されていたことを教えてください

町田:
私は,学習のコツの3本柱というものを意識しています。
それは「適切な時期」「適切な方向性」「常軌を逸した量」です。
「適切な時期」とは,各年代でどう学習するかということです。
努力は必ず報われると言いたいところですが,各年代で求められるものは異なります。
養成校に入るための受験勉強を求められる時期,初歩の臨床の知識を求められる時期,ベテランとしての臨床の知識を求められる時期,組織の管理能力を求められる時期,色々ありますよね。
入職20年目なのに,初歩の臨床の知識を勉強しているのは問題です。
より早い時期に勉強を始めておかなければなりません。
特に基礎的な学問の知識の習得は20代と40代で比較すると,リターンが違うので早い時期から行うべきです。
学生に講義を行う際も,「適切な時期」を強調して伝えるようにしています。
次に「適切な方向性」とは,本来の労働や学習の意義を忘れないことです。
お金のために働くという解釈も必要ですが,あまりにそれが過剰になった結果,誤った方向に進んでしまう若手も数多く見てきました。
まずはエンドユーザーのことを最優先に考えることで,その他のものは後から付いてきます。
そして「常軌を逸した量」は言葉の通りです。
何事にも共通しますが,「質」は「量」の延長線上に生まれます。
私は己の能力の低さを自覚しているので,今でも朝の出勤前に1時間は勉強をしています。
また臨床勤務時代は,昼休みに30分勉強していました。
理学療法室にはベッドが置いてあるため,多くの理学療法士がそこで昼寝をするのですが,昼休みの30分を積み重ねれば1週間で2時間半,1カ月で10時間,1年で5日間もの学習時間が生まれます。
これが後のキャリアに反映されないわけがありません。

——最後に,このインタビューを通して伝えたいことをお願いします。

町田:
近年,PTは給料が上がらないから勉強をしても意味がないと言う若手が多いです。
そういったなかで,匿名のアカウントが声高に発信する信頼できない情報に乗っかったり,すぐにお金を稼げるという怪しげなビジネスにはまる若者を多く見てきました。
それを防ぐために学習において「量」をこなし,信頼性を見抜く目を養いましょう。
また社会についても勉強することで,道を踏みはずすリスクを減じることができます。
そして最も忘れてはいけないことは,クライアントを大切にすることです。

全3回のインタビューを通し町田先生には,SNSの特徴や危険性に加え,社会での生き抜き方や,セラピストが本当に大切にすべきものについてお話しいただきました。
「最も忘れてはいけないことは,クライアントを大切にすることである」という言葉の通り,町田先生の行動には,確かにその意志を感じ取ることができました。SNSの危険性など緊迫した内容についてお話しされながらも,言葉の端々に学生を大切にする心を感じ,どこかホッとしながらインタビューを進めることができました。

(了)



【町田志樹先生プロフィール】
<略歴>

新潟リハビリテーション専門学校(現 新潟リハビリテーション大学)卒業後,2010年より順天堂大学大学院医学研究科解剖学・生体構造科学講座で研究生として解剖学を学ぶ。2015年に同大学博士課程を修了し,博士(医学)を取得。現職者を対象とした教育講演・講習会を全国で250回以上開催し,『動画×書籍で学ぶ 解剖学・生理学 7日間で総復習できる本』(羊土社),『PT・OTビジュアルテキスト 専門基礎 解剖学』(羊土社)など著書も多数。
<主な著書>
町田志樹の聴いて覚える起始停止(三輪書店)
町田志樹の聴いて覚える解剖学 中枢・末梢神経編(三輪書店)
町田志樹の聴いて覚える解剖学 循環器・呼吸器+心電図編(三輪書店)
PT・OTビジュアルテキスト 専門基礎 解剖学(羊土社)
Stay's Anatomy神経・循環器編(羊土社)
Stay's Anatomy臓器編(羊土社)
Stay's Anatomy運動器編(羊土社)
動画×書籍で学ぶ 解剖学・生理学 7日間で総復習できる本(羊土社)


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