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【竹林 崇先生:インタビュー第1回】勉強に役立つ情報収集の進め方・考え方

情報が氾濫する時代に自己研鑽を積む極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。6人目は,脳卒中リハビリテーションの専門家として,さまざまな媒体を通じてセラピストに有益な情報を発信されている,大阪公立大学大学院 教授の竹林 崇先生にお話を伺いました。
全4回シリーズの第1回では,自身の新人時代の勉強法,情報リテラシーの重要性について,語っていただきました。

試行錯誤しながら身に付けた論文の調べ方

——先生ご自身は新人・若手のころ,どのように勉強されていたのでしょうか。

竹林:
大学病院に勤務していたので,附属図書館で論文を調べて勉強していました。最初はキーワード検索を使っていましたが,なかなか目的の論文に辿り着けなかったので,キーワード検索から検索方法を変えました。
変更した文献の調べ方は,その分野の第一人者といわれていて信頼性の高い海外の研究者の著書やシステマティックレビューをまず探して,その引用文献を孫引きするという方法でした。
ほとんど論文経由で情報収集をしていたので,実は大学の教員になるまで,自分が執筆しているような医学書はほとんど読んだことがなかったんです。
今振り返ってみると,恵まれた環境にいたのだと思います。

——文献の調べ方は誰かに教わりましたか。

竹林:
私の場合は,教わることなく自分で試行錯誤して調べ方を身に付けました。
臨床1年目はいろいろな論文を読んでは行き詰まるという時期がありましたが,何本も論文を読んでいくうちに,頻繁に引用されていてよく名前を見る方がいることに気付いて,その方が業界を引っ張る方の一人なんだと理解できました。
その後,後輩と一緒に勉強をするようになってからは,互いに情報共有するようになりました。
後輩たちと協力して情報を共有することで,一人で文献を探すよりも明らかに情報を効率的に集められるようになりました。

有益な情報は還元していく

——学生やオンラインサロンの参加者には文献の調べ方についてアドバイスしていますか。

竹林:
学部生は,研究法の講義でPubMedや医中誌を用いたキーワード検索の方法論を学びますが,臨床的疑問がどのようなものか想像することが難しいので,より効率的な調べ方のアドバイスも難しい印象です。
ですから,まずは自分が何を知りたいのか? どういうことに興味があるのか? を明確にできるように対話をするところから始めています。
オンラインサロンに参加されている方のほとんどは臨床家であり,臨床を経験されているので,自分の臨床的疑問が何か,それであればどのようなキーワードや論文を元として検索するのがよいか,ディスカッションを経てアドバイスしています。

——先生のスタンスとして,積極的に役立つ情報を発信されている印象を受けますが,いかがでしょうか。

竹林:
これまでお話しした文献の調べ方は,時間をかければ誰でも身に付けられるかと思いますが,現在は働き方改革やワーク・ライフ・バランスなど,世の中の考え方や意識が変化してきていて,限られた時間のなかで効率よく身に付ける必要があります。
また,1人で勉強や研究をするのは大変ですし,施設の設備の制約もあると思います。
それであれば,調べるノウハウを持っている人がある程度伝えていくことで多くの人が情報収集をより効率よく行えると思っています。

SNSの情報を活用するために必要なルール付け

——情報発信の媒体として,先生はSNSを有効に活用されているかと思います。一方で,SNSには真偽不明の情報も多数あるかと思いますが,新人・若手はどのように活用すべきでしょうか。

竹林:
SNSというのは,情報へのリテラシーがあれば非常に便利ですし,有用な媒体だと思います。
ただ,リテラシーがない状態では,あらゆる情報を鵜呑みにしてしまう危険性があります。
特に医療にかかわる職業の方は,誤った情報が対象者の方の健康被害に直結する場合があるので,注意が必要だと思います。

——情報の真偽を見極めるためのリテラシーを身に付けるにはどうすればよいのでしょうか。

竹林:
判断できるための知識を身に付けるのが根本的な問題解決になると思いますが,そこまで勉強するのには時間がかかります。
従って,何かしらのルール付けが必要だと思っています。
投稿内容に対する引用の有無を確認する,引用元の内容を確認する,といったルールを設けたうえでSNSの情報を批判的に吟味するようになれば,情報を盲信することも少なくなり,真偽を判断できるようになってくると思います。

——SNSに真偽不明な情報が紛れ込んでしまうのはどのような要因があるのでしょうか。

竹林:
SNSというコミュニティ自体に,情報の真偽を確認し合う,いわゆる自浄作用が失われてきているのではないかと感じています。
他人が発信する情報や意見に対して,気になる点があれば自分から意見を述べるのは自然なことだと思います。その意見に批判や反論が含まれることもあると思います。
学術大会の場では,批判的な意見も含めて議論することで,より知見を深めていくことができると思います。
一方で現在のSNSでは,他人の意見に対して真っ当な批判であっても,その批判に対する誹謗中傷等のコメントが寄せられて炎上してしまうこともあります。
そもそも,SNSは議論をするような場ではないと思いますので,このようなコミュニティでは批判的な意見を述べる,議論することが難しく,真偽不明な情報であっても,それらしく拡散されてしまう可能性が高くなります。

——そのような環境ではなかなか情報の信憑性が担保されませんし,投稿の内容にも気を遣いますよね…。

竹林:
最近では,自分の投稿はなるべく一人称を用いることを意識しています。
「セラピストは〜」「医療従事者は〜」と主語を大きくして意見を述べることや他者に対して意見を述べることは,多くの方に誤解を生んでしまう可能性がありますし,誰かの気分を害してしまう可能性も少なくないので。

情報の「わかりやすさ」と「正確性」という性質

——編集者としては,書籍の情報の信憑性・信頼性も気になるところですが,いかがでしょうか。

竹林:
出版不況と言われるようになり,書籍の売上が低下していくなかで,出版社の皆さんは何とか売れる書籍を作ろうと工夫されているかと思います。
ただ,最近の医学書のなかには「売れている(人気がある)書籍が正確とは言い切れない」という側面があるんじゃないかと個人的には思います。
今は昔に比べると,一般書も含め,インフルエンサー等,出版実績があまりない方や執筆のトレーニングを行っていない方でも,世の中に対する影響力があれば,比較的誰でも執筆できる時代になっているのかなとも感じています。
これは,一般書だけでなく医学書にもその流れがあるような気がしています。

——確かに医学系の人気ブロガーやSNSのフォロワー数の多い方に出版社から医学書の執筆を依頼するケースは増えつつあると思います。

竹林:
あくまで個人的に感じることですが,SNS上で人気の方は,共感を誘うことがとてもお上手なのとわかりやすさを優先されるため,曖昧な表現を避け,「この症例の病態はこうで,このような経過を辿るでしょう。そして,こう治療することで効果があります」といったように断定的な言葉を用いることが多いように感じます。
一方で,アカデミックなトレーニングを受け,科学的な考え方を習得されている方は,この症例ではこう経過する可能性が高いです,こう治療すると効果がある可能性が高いです,という読者にとって歯切れの悪い,「確率的」な言葉を多用すると思います。
医療を科学的にとらえると後者がより的確ですが,読者が「共感やわかりやすさ」を求めていた場合,結果的にわかりやすいものの表現や内容が不正確な情報が書籍を通じて普及してしまうこともあるかと思います。

——インターネットの普及により,検索すれば答えが簡単に見つかる状況に慣れていることが読者のニーズにも影響しているかもしれませんね。

竹林:
その可能性はありますね。
ほかには,アカデミックな文章を書くこと・読むことには慣れが必要ですが,養成課程が医師や薬剤師は6年であるのに対し,セラピストは3〜4年と物理的に短いので,現状では科学的思考が身に付くまで,卒前教育において学び切ることは難しいとは思います。
従って,卒後教育の重要性が他領域に比べるとより高まっているかもしれません。

第1回では,竹林先生が新人時代に実践していた論文の検索法,SNSや書籍から得られる情報の特性について伺うことができました。第2回では,科学的思考とエビデンスのとらえ方についてお聞きします。

(第2回につづく)

【竹林 崇先生プロフィール】
〈略歴〉

大阪府生まれ。2003年川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科作業療法専攻卒業後,同年兵庫医科大学病院リハビリテーション部入職。2018年兵庫医科大学大学院医科学専攻高次神経制御系リハビリテーション科学修了後,博士(医学)を取得。同年大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科准教授として着任し,2020年4月より同大学院教授(2022年4月より大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科教授),現在に至る。専門分野は脳卒中後上肢麻痺に対するアプローチで,関連する論文・書籍を多数執筆。X(旧Twitter)をはじめ,YouTube,Instagram,noteなどのSNSやオンラインサロン,Webセミナーを通じてセラピストに情報提供を精力的に行っている。

【主な著書】
行動変容を導く!上肢機能回復アプローチ -脳卒中上肢麻痺に対する基本戦略(医学書院)
上肢運動障害の作業療法 -麻痺手に対する作業運動学と作業治療学の実際(文光堂)
作業で創るエビデンス -作業療法士のための研究法の学びかた(医学書院)
PT/OT/STのための臨床に活かすエビデンスと意思決定の考えかた(医学書院)
作業で紡ぐ上肢機能アプローチ -作業療法における行動変容を導く機能練習の考えかた(医学書院)
作業で語る事例報告 第2版 -作業療法レジメの書きかた・考えかた(医学書院)
PT・OT・STのための臨床5年目までに知っておきたい予後予測の考えかた(医学書院)
急性期・回復期でおさえておきたい脳卒中作業療法の心得(メジカルビュー社)

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