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【山田 実先生:インタビュー第3回】情報分析における視点・思考プロセス

情報が氾濫する時代に自己研鑽を積む極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。5人目は,老年学者として介護予防やサルコペニア・フレイル対策による健康長寿立国の実現に向けて尽力されている,筑波大学人間系教授の山田 実先生にお話を伺いました。
全4回シリーズの第3回では,臨床と研究の双方に役立つ情報を分析する際に必要な視点と考え方について,語っていただきました。

個別的視点と俯瞰的視点

——第2回で学生から学ぶことも多いとおっしゃっていましたが,学生と接しているなかで,どのような気付きや発見がありますか。

山田:
特に臨床に携わっている大学院生は,患者さんの情報や特徴に詳しいという印象があります。
目の前の患者さんに接しているので,例えば変形性膝関節症の患者さんはこういう訴えをすることが多い,こういう経過を辿ることが多い,という臨床現場で得た情報をたくさんもっています。
また,大学院生はさまざまな施設に所属しています。施設ごとの特徴があり,大学院生同士のディスカッションで,その特徴は一緒だけどここは全然違う,といった気付きがあるのは非常に勉強になりますね。

——先生がそのような認識をもっているのは意外な印象を受けました。メールマガジンに関する取り組み(第1回参照)についてお聞きしましたが,高齢者の方々や臨床現場に近い場面で,何か活動はされていますか。

山田:
メールマガジンを通じて寄せられる質問は,高齢者の方々が本当に困っていることに関するものなので,生の声を聞ける非常に貴重な機会だと思っています。
市民公開講座で,高齢者の方々を前に講演させていただくこともありますが,会場に足を運ばれる方は健康に対する意識が高く,質問される方も大勢の人の前でも発言できる方に限られてしまいます。そのため,専門的な内容をある程度理解されたうえでの質問が多い印象です。
ほかには,市役所の健康推進課などの方とかかわる機会が多くて,地域や担当者ごとの考え方を知ることができるのはおもしろいですね。
市民1人ひとりと向き合うことを重視する方もいれば,公衆衛生学的視点をもって地域としての市民の健康を重視する方もいます。
僕は個をみること・集団をみることの両方の視点が大事だと思っていて,研究的視点は俯瞰的に物事をとらえるうえでは強みになると感じています。

——具体的にはどのように両方の視点を活用していくべきなのでしょうか。

山田:
臨床での2,3例の経験を基に,それがあらゆる症例に適応できると考えるのは誤った認識になってしまうと思います。
書籍や論文を調べてみて,その経験が一般的にも正しいと言われているのか,照らし合わせて確認していくことが重要です。
書籍や文献などのエビデンスと臨床経験が結び付くのか,繰り返し確認していくことで,標準的な視点が培われていくのではないかと思います。

データの読み解き方と臨床への活用

——論文の情報を分析するうえで気を付けるべきことはありますか。

山田:
単純に結果だけを見て判断しないことが大事だと思います。
例えば,同じテーマや指標を用いた3本の論文があったとして,AとBはポジティブな結果,Cはネガティブな結果だとします。
その際,なぜ結果が異なるのかをしっかりと分析しないといけません。
A・BとCの論文を分析して,対象者の年齢や重症度が違うと,もちろん結果も大きく左右されます。
特に,研究対象やその包含基準は確認すべきですね。
このように考える習慣を身に付けることができれば,論文の考察を書く際にも役立ちます。

——確かに研究においては,仮説通りの結果になることもあれば,正反対の結果となることもあるので,そのような考え方を身に付けることは大事ですよね。

山田:
まさにその通りだと思います。
ほかにも,診断基準やカットオフ値などがどのような経緯でその基準になったのか,背景を知ることが重要となります。
数値というのは便利ですが,背景を知らないと数値そのものが目的となってしまいます。
この基準に当てはまる・当てはまらないだけでなく,その数値の意味を知ることが本当の意味で臨床につながっていくと思います。

——比較・分析するという研究者の視点が臨床にも役立つんですね。

山田:
おそらくそうだと思っています。
同じ疾患・障害の患者さんを何人もみていると,共通点や相違点がなんとなく掴めてきて,その人の経験則が形成されるんだと思います。
ただ,それを経験則に留めるのではなく,科学的普遍性のあるものか,確かめていく必要があると考えています。
僕は,オーソドックスな疾患・障害の患者さんほど症例報告をしたほうがよいと思っています。
経験則の部分をあらゆるセラピストに共有することができるので,臨床経験の浅い若手のセラピストでも患者さんの特徴を掴みやすくなると考えています。

——臨床で得られる実感・経験と研究で得られる思考・根拠の双方が重要になるのだと感じました。若手のセラピストにとっては,臨床で経験を積みながら自分で深く考えることが重要となりますか。

山田:
ぜひそのように取り組んでもらえたらと思っています。
一方で,僕が見直すべきだと感じているのは,なぜその方法を選ぶのかと聞いて,「誰かが言っていたから」という発想になる場合が多いことです。
特に近年では,さまざまな情報が簡単に手に入ります。咀嚼され簡潔にまとめられた情報は理解しやすい一方でミスリードにもつながりやすいです。
情報をそのまま受け入れるのではなく,自分なりに調べ考えることが大事です。
手に入れた情報に対して,適切にオリジナルとなる情報を吟味して,内容を自分なりに咀嚼していく必要があると思っています。

第3回では,臨床と研究の双方に役立つ情報分析の視点と考え方について伺うことができました。第4回では,自分に合った選択肢をどのように見つければよいのか伺います。

(第4回につづく)


【山田 実先生プロフィール】

〈略歴〉
2008年より京都大学大学院医学研究科助手,2010年より同大学院助教を務め,2014年より筑波大学人間系准教授として着任し,2019年より同大学教授に就任,現在に至る。専門分野は老年学で,主な研究テーマはサルコペニア・フレイル対策や介護・転倒予防。
公式サイト:https://www.yamada-lab.tokyo

【主な著書】
PT・OTのための臨床研究 はじめの一歩(羊土社)
イラストでわかる高齢者の生活機能向上支援(文光堂)
高齢者理学療法学(医歯薬出版)
メディカルスタッフのためのひと目で選ぶ統計手法(羊土社)
エピソードで学ぶ転倒予防78(文光堂)
理学療法実践レクチャー 栄養・嚥下理学療法(医歯薬出版)
イチからわかる!サルコペニアQ&A(医歯薬出版)
イチからわかる!フレイル・介護予防Q&A(医歯薬出版)
フレイル対策実践ガイド(新興医学出版社)
Crosslink basicリハビリテーションテキスト 栄養学・生化学(メジカルビュー社)

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