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【京極 真先生:インタビュー第2回】情報収集の難しさへの対処法,SNSの長所・短所と発信者の意図

世に氾濫する情報の取捨選択と学びの極意について,リハビリテーション分野のエキスパートにインタビューする本企画。2人目は,作業療法の本質やコンフリクトについて探求し続けている,吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 学科長および同大学大学院 保健科学研究科 研究科長の京極 真 教授にお話を伺いました。
全3回シリーズの第2回は,情報収集の難しさへの対処法やSNSの長所・短所などについて伺います。

科学的思考と哲学的思考

——自分が実践している医療に自信がない若手のセラピストが「これをやればすぐ治ります!」「これで何万人治しました!」といった「強い言葉」に踊らされないためには,どうすればよいのでしょうか(第1回参照)。

京極:
そのような「強い言葉」に踊らされないためには,科学的思考と哲学的思考を身に付けるとよいのではないかと思っています。
科学的思考とは,自ら立てた仮説に対して実験や検証を行うプロセスです。
これは,手探りで仮説を立ててそれを検証する思考ですが,「強い言葉」を仮説に位置付けて確認すればよいのです。
他方哲学的思考とは,批判的に物事を考えて納得できる本質と原理をつかみ出すことです。
これには,自分の確信が成立する条件を内省し,深く考察することが含まれます。
「強い言葉」の文脈でいえば,そう言い得る条件を検討するために内省するわけです。
ただ,これは簡単ではありません。
不安を抱えながらなんとか生きていて,科学的に,あるいは哲学的に思考しようとしていても,「強い言葉」を浴びせられればそれにとり憑かれるかもしれません。
知らず知らずのうちにハマっていても気付かない可能性もあります。
とはいえ,科学的思考と哲学的思考の組み合わせが,不確実性のなかで均衡した判断を下すための鍵であるといえるでしょう。
これによって,セラピストは「強い言葉」に翻弄されず,地に足をつけて実践することができるだろうと思っています。

——科学的思考や哲学的思考は,どのように身に付ければよいのでしょうか。本を読んだり,信頼できる先生の話を聞いたりするのでしょうか。

京極:
本を読むのはよいですね。
科学的思考や哲学的思考の型をつかむために,本を内省しながら読むことを推奨します。
僕も本から多くのことを学んできました。
しかし,信頼できる先生の話を聞くというのは,少し慎重になったほうがよいかもしれません。
というのも,信頼できる先生の話を聞くというのは,不安なときに何かにすがり付く行動とあまり変わらない場合があると考えているからです。
「信頼できる」と言っている時点で,なんらかの確信にとり憑かれていますから,それを批判的に検証したり,そこからさらに遡って根底から考えたり,といった営みが暗黙のうちに制限されてしまいますからね。
ではどうしたらいいかというと,科学的思考を身に付けるには,自分が知らないことや疑問に思うことを積極的に探求する姿勢をもつとよいかと思っています。
科学は常に進化していますから,今日正しいとされていることも明日否定される可能性があります。
なので,自分の知識や信念に固執せず,新しい事実や証拠に基づいて見直したり修正したりする柔軟な姿勢をもつように意識することが大切です。
次に哲学的思考を身に付けるには,自分や他者が素朴に確信していることを深く問いかける姿勢をもつ必要があると考えています。
哲学的思考は科学的思考とは違って,僕らの感覚や認識から独立して存在する客観世界を,ナイーブに仮定していません。
それも含めて,それが成立すると確信するのは一体なぜなのか,ということを考えるという特徴があります。
そのように,普段から思い立ったときに,素朴な前提をすべていったん脇において,僕らが確信している事柄を根底から考える姿勢をもてているかと意識するとよいかと思っています。

——非常に高度に思えます。特に新人や若手にとっては難しそうですね。

京極:
そうですね。言うは易し…です。
ただね,それは新人や若手に限った話ではないと思っていて,もしかしたら年配の人のほうがちょっと怪しいかもしれません(笑)。
僕も立派な中年なので自分自身も反省しながら言わせていただくと,年配の人というのは,長年にわたって自分の専門分野や職業に携わってきた人たちのことですね。
彼らは自分の知識や経験,実績に自信をもっています。
それはもちろんすばらしいことですが,同時にそれが思考を固定化したり,盲目化したりする危険性もあります。
もちろん大部分の方はそんなことないでしょうが,それでも一部のご年配の方は,自分の知識や経験,実績が正しいと信じ込んでおり,それを批判的に検証したり,そこからさらに遡って根底から考えたりすることを怠ってしまう場合があると感じています。
それは科学的思考や哲学的思考に反することですね。
だから,新人や若手にとって難しいという話ではないと思っています。

SNSの影響力

——SNSの長所と短所は何でしょうか。

京極:
まず長所は,昔と異なる経路で影響力をもつことができるところと,普段出会えない人と出会えるところでしょうか。
昔は業績を積んで周りから評価されないと影響力をもつことができませんでしたが,SNSをうまく使えば若い人でも影響力をもつことができる。
つまり,選択肢が増えたともいえます。
また僕自身もSNSで発信していますが,作業療法とまったく関係のない領域の人々とやり取りしたりもしています。

短所は,どのような情報でも発信できるということです。
これは,SNSが誰でも自由に意見を発信できるというメリットの裏返しでもあります。
例えば,コロナウイルスに関する誤った情報やヘイトスピーチなども,SNS上で広まったものですよね。
SNSでは発信者の属性や信頼性を確認できないですから,真偽不明の情報や偏った見解が拡散されることがあります。
これは,社会的な混乱や個人的なトラブルの原因になることがあります。

——SNS上にはやはりさまざまな質の情報があるのですね。情報の真偽を判断するのは難しいと感じます。

京極:
さっきお話しした科学的思考や哲学的思考は役立つかと思いますが,それが難しければ,しっかり情報のソースを貼っているかを確認すること,また発信者の意図を推測することもよい方法ではないかと思っています。
情報のソースというのは,その情報がどこから来たのか,どのような根拠があるのか,ということです。
例えば論文とか学術書は,情報のソースとしてある程度確かな場合があるかもしれません。
もちろん,論文や学術書の質はピンキリですけどもね。
しかし,ウィキペディアや適当に書かれたブログよりも情報のソースとしてはマシかもしれません。
こういった具合で,発信者がどのような情報のソースを元に発信しているのかを確認することは,比較的簡単にできます。
次に発信者の意図ですが,これは情報を発信する人が何を目的としているのかということです。
発信者の意図によって,その情報の確からしさが変わってくることがあります。
例えば,自分が有利に物事を進めるために情報を発信している人は,それに役立つ情報を選択的に提示したり,競合する相手に関する悪いことや不利なことだけを強調したりする可能性があります。
その場合,発信された情報は客観的でもなんでもなく,誇張されたり歪められたりしている可能性がありますね。
ですので,発信者の意図を読み解くことは,情報の真偽を判断するうえで役立ちます。
色々とややこしいですが,SNS上にある情報はすべて信じるべきではありません。
自分で情報を吟味する能力を身に付けることが大切ですね。

SNSの特徴と情報整理

——先生はそれぞれのSNSの特徴をどのように分析されていますか。

京極:
SNSと一言でいっても色々あるので難しいのですが,僕はSNSを情報を発信する媒体として利用しているので,その立場でとりあえずTwitterとYouTubeの違いに着目すると,情報を蓄積できるかできないかという点があります。
Twitterでは自分自身がフォローしている人のつぶやきがタイムライン上に表示されますが,基本的にそれはすぐに流れていってしまいます。
それに対してYouTubeでは,好きなYouTuberのページにアクセスすれば,そこに蓄積されている動画を何度でも閲覧することができます。
Twitterでも同様に,ある人のつぶやきを何度でも閲覧することはできるのですが,文字数制限もあり端的な内容にならざるを得ませんので,そのように利用する人はあまりいないのではないでしょうか。
少なくとも僕は,YouTubeを蓄積型のSNSとして使っており,しっかりと発信を始めるならば,自分の発信を成果として保存しやすいYouTubeがおすすめです。
FacebookというSNSもありますが,Google検索でうまく引っかかってこないので,やはりYouTubeのほうがおすすめではないかと思います。
もちろんYouTubeにも欠点はあります。
動画を作るのは時間や労力がかかりますし,機材や技術も必要です。
またYouTubeは広告収入やチャンネル登録者数などに影響されやすく,クリック数を稼ぐために過激な内容や誇張したタイトルを付ける人もいます。
これらは情報の質や信頼性を低下させる要因です。
そのためYouTubeを使う場合は,自分の発信したい内容や目的を明確にし,視聴者に対して誠実であることが大切だと思っています。

——蓄積に関連して,先生は論文で得た情報をどのように整理されていますか。

京極:
僕はレビューマトリクスやマインドマップで整理しています。
レビューマトリクスは,エクセルファイルに著者,タイトル,目的,方法,結果,考察といった項目に沿って文献の内容をまとめる方法です。
マインドマップは,文献のキーワードや概念を図式化して関連付ける方法です。
例えば,僕はコンフリクトマネジメントの論文をよく調べます。
このテーマに関する文献を読んでレビューマトリクスにまとめると,どんな目的や方法があるか,どんな結果や考察が出ているかが一目でわかります。
またマインドマップを作ると,コンフリクトマネジメントに関連する概念や要素がどうつながっているかが視覚的に理解できます。
これらは情報整理の基本的なスキルだと思っています。
情報を整理することで,自分の知識の範囲や欠けている部分が明確になりますし,新しい発見や仮説を導くこともできます。
私はこのようにして自分の研究領域に関する情報を蓄積していますが,もちろんすべてを覚えているわけではありません。
時々忘れてしまうこともありますし,新しい情報が入ってくることもあります。
だからこそ,情報整理のスキルが重要だと思っています。
情報整理のスキルがあれば,忘れたり更新されたりした情報もすぐに確認できますし,自分の知識を再構成することもできます。
私は情報整理のスキルを身に付けることで,研究者として成長できたと感じています。

(第3回につづく)

第2回では,情報収集の難しさへの対処法,SNSの長所・短所などについて伺うことができました。第3回では,SNSが主流の時代に本を読む価値などについて伺います。


【京極 真先生プロフィール】

<略歴>
1976年,大阪府大阪市生まれ。作業療法士,博士(作業療法学)。2001年に滋賀医療技術専門学校作業療法学科を卒業し,湊川病院で作業療法士として勤務する。その後,専門学校教員を務めるかたわら大学院に進学し,2009年に首都大学東京大学院人間健康科学研究科博士課程を修了し,2010年に吉備国際大学および同大学大学院に准教授として着任する。2019年同大学および大学院教授,2020年同大学作業療法学科長,2022年同大学院保健科学研究科長に就任し,現在に至る。専門は作業療法,哲学(構造構成主義),信念対立解明アプローチ,研究方法論。オンライン教育プラットフォームThriver Projectを拠点に,ブログ,YouTube,Twitterなどの多様な媒体で情報を発信している。
公式サイト:https://www.thriver.one/
<主な著書>
構造構成主義の展開-21世紀の思想のあり方(至文堂)
エマージェンス人間科学-理論・方法・実践とその間から(北大路書房)
現代思想のレボリューション(北大路書房)
信念対立の克服をどう考えるか(北大路書房)
なぜいま医療でメタ理論なのか(北大路書房)
臨床実習ガイドブック(誠信書房)
精神障害領域の作業療法 第2版(中央法規出版)
作業療法士のための非構成的評価トレーニングブック(誠信書房)
医療関係者のための信念対立解明アプローチ(誠信書房)
医療関係者のためのトラブル対応術(誠信書房)
信念対立解明アプローチ入門(中央法規出版)
作業で創るエビデンス(医学書院)
5W1Hでわかりやすく学べる 作業療法理論の教科書(メジカルビュー社)
5つの臨床推論で整理して学ぶ 作業療法リーズニングの教科書(メジカルビュー社)
など

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