見出し画像

人間と感染症の闘い(進化医学の観点から)

こんばんは,物書きになりたかった医学生あさひです。

まもなくコロナのワクチンを接種することになりました。副作用がどうなるだろうとか,本当に効果があるだろうかとかいろんなことが頭をよぎるけれど,現代の医学のパラダイムではワクチンを接種するほうがメリットが大きいとされているので,当然受けてきます。ワクチン推進派,反対派に分かれての議論があるのも知っていますが,まだそこに参加できるほどの知識や経験はないのでパス。デリケートな話題ですしね。

人間と感染症というのは長い間持ちつ持たれつの関係でここまで来ました。というのは歴史をマクロな視点から見てみた時の話で,個々に見ていくとそれは悲惨な歴史が繰り返されています。世界史で習うようなことと言えば,スペイン風邪の大流行とかコレラの蔓延とか。近年でも,エボラ出血熱の流行とか,言わずもがなCOVID19のパンデミック。話はそれますが,2019年からこんな世界になっているのですね。時の流れるのが早く感じます。

様々な論があると思いますが,以下が今回僕が書きたいことの前提の考え方です。「ミクロで見ると,感染症を引き起こす病原体と,ヒトの免疫系の闘いでそのヒトの生き死にが決定する。マクロで見ると,ある感染症が流行してたくさんの人が死んだとしても,その感染症に強いタイプのヒトは生存し,また子孫を残していく(いわゆるnatural selection:自然淘汰)。」

病原体が体の中に侵入してくると,異物を認識するシステムがそれを検知し,様々な細胞たちをそこへ送り込みます。世界にはたくさんのウイルスや細菌たちがいて,常時体の中に侵入してきますが,このシステム(免疫系)のおかげで感染症を発症するには至りません。感染症の専門家でも,医師でもないのでこのような話をしたいわけではなくで,「進化の観点から見て,感染症はどのような影響をヒトに及ぼしてきたか。また,これからヒトはどうなるのか。」ということについて,ある程度の(自分なりの)ことを述べてみようと思います。

1.進化医学とは何か?

なぜ,病気は起こるのでしょうか?こういうメカニズムでこうなるから~と確かに教科書で仕組みは習いますが,それは「How:どのようにして」という問いに答えてはいても「Why:なぜ」には答えていません。この「Why」に答えようとするのが進化医学という学問です。もちろん,何か真理のような答えがあるわけではありません。進化医学というのは,「こう考えると妥当だろう」というフレームワークのコンセンサスを作るものです。これを考え続けるということに意味があります。なぜなら,これから我々は病気をどう対処していくべきか,という問いに対する示唆を与えてくれる可能性があるからです。

2.感染症とは何か?

感染症とは,病原体に感染し,その個体の恒常性維持(人間なら日常生活)に支障が出るような状態になることを指します。病原体からすると,ぬくぬくと自分のコピーをたくさん作れる場所を得ることができるわけです。では,なぜ症状が出るのでしょうか?病原体にある程度体を貸してあげて,仲良く生活できないものでしょうか?それがそうはいかないみたいです。体は,とにかく異物を排除してしまうように働きます。熱を上げて,ぐったりさせることで強制的に休養させる。痰や鼻水などで物理的に追い出す。咳や皮疹で周りの人に感染状態であることを明示する(集団を守るため?)。これが「Why」の考え方です。他にも,かゆみは寄生虫が皮膚に入ったときにひっかきで搔き出すためとか,冬にうつっぽくなるのは寒い時期にエネルギーをたくさん消費させないようにしているからとか,いろんなことに説明がつきます。

感染症の存在は,ヒトの免疫系を自然淘汰を使って鍛え上げてきたと理解できます。免疫系が強くなれば病原体もまたそれを回避するように進化します。生命のサイクルは病原体のほうが短く,進化のスピードが圧倒的に速いため,ヒトは周期的にパンデミックに襲われてしまうことになります。このように,マクロでみると病原体とヒトは共生してきたと言えます。しかし,病原体にとって誤算だったのは,抗菌薬の発見とワクチンの普及です。これによって,感染症で亡くなる人はずいぶんと減ったことだと思います。

3.代謝と免疫が密に配置されているのはなぜか?

もう一つ面白いことに,とあるヒトの体の仕組みにも感染症と闘いが刻まれています。それは「代謝と免疫」です。進化的に,あなたのお腹にもついている(かもしれない)脂肪組織・いろんなものを代謝できる肝臓・病原体と戦う白血球やリンパ球を作れる造血幹細胞というのは,同じ祖先でした。ヒトでは,脂肪組織は脂肪の貯蔵を,肝臓は栄養の代謝を,造血幹細胞は免疫を担当しています。肝臓だけをピックアップしましょう。実は,胎生期では,肝臓が血の成分を作っています。また,肝臓には免疫担当細胞たちがたくさんいます。このように,結局肝臓は代謝も免疫もこなしている臓器になるわけです。では,なぜ代謝と免疫を密に配置することが進化上有利だったのでしょうか?それは,生物が病原菌と戦う際に,免疫・炎症反応が増大しているときのエネルギー資源の再分配に有利だからなのです。感染症になっているときに,食べたごはんの栄養を体作りなど他のことに使っていては大変です。筋肉や骨を大きくする前に,病原体を追い出して恒常性を取り戻さないといけません。感染が起こって,免疫細胞たちがそこへ集まる炎症が起きると,それを素早く検知して栄養の再分配を行わないといけません。いわば家計のやりくりのようなものです。月収が20万円のときに家賃が20万円だったら死んでしまいます。しかし,このシステムには大きな欠陥があり,これこそが進化医学の考え方の真骨頂ともいえるものです。代謝と免疫が近くにいると,免疫のシグナル→代謝の調節という方向性だけでなく,その逆もシグナルが働いてしまうのです。つまり,代謝がおかしくなっていると免疫に異常をきたしうるということです。このことについては,COVID19についての報道でよく耳にする内容と密接に関係しています。それは,「糖尿病を基礎疾患で持つ患者さんは感染しやすい」という事実です。糖尿病は,COVID19に関わらずあらゆる感染症にかかりやすくなることで有名ですが,このことは進化医学の観点から考えると,「代謝と免疫が密に配置されていることの副産物」として考えられます。もちろん他にも病態は研究されていますが。世の中には免疫力UP!をうたう様々な商品や方法論などが溢れています。よくわからないものもありますが,ご飯を栄養バランスに気を付けてしっかり食べる=代謝を整えるということは,進化医学の観点から考えると間違いなく免疫システムを正常に保つためには必要そうだなと考えています。本当のところはわかりませんが。

4.これから感染症との関係はどうなるのか?

詳しい知識があるわけではないのですが,やがて抗菌薬が負けてしまう世の中が来るのではないかという話はよくされています。これは非常に恐ろしいことで,いまでもすでに耐性菌というのはどんどん増加しています。

また,パンデミックが起こっても医療の進歩により救命できるので,自然淘汰が起こらなくなっています。これでは免疫系のスキルアップはこれ以上見込めないのかもしれません。これからは,抗菌薬vs細菌の闘いが上塗りされ続けていくでしょうか。まだよくわかっていないのでいろいろと勉強してみようと思います。

なかなか長くなりましたが,進化医学はとても面白い学問です。まだかじった程度なので,これからさらに深めてみようと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?