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年齢は妊娠にどのくらい影響するの?

卵子の数には限りがある?

女性の年齢は、妊娠率や流産率に最も影響する因子のひとつです。女性の卵巣には卵子のもとになる原始卵胞(卵子の入っている袋)が多数存在し、妊娠6カ月の胎児では800万個あります。
それが生まれてくるときには200万個になり、その後は年齢とともに減少し、思春期には5~10万個となります。35歳を超えると原子卵胞の減少率は加速し、閉経するときには卵子はほぼ無くなります。
女性が一生のうち排卵する卵子の数は約400個で、卵巣内の卵胞のほとんどは排卵もせずに消えていきます。また年齢以外にも卵巣予備能(卵巣の中の残っている卵子の数)へ影響する因子があり、一部の女性は、子宮内膜症が発症したり、卵巣腫瘍の手術を行ったり、がんが発症し抗がん剤の投与を行ったりすることで、卵巣がダメージを受け、予期せず卵巣予備能が低下することがあります(図1)。
基本として、一度低下した卵巣予備能が回復することはありません。

女性の年齢に伴う卵巣内の卵胞数の変化


「卵子の質」は流産に関連する

妊娠にとっては卵巣の中の卵子の数が重要ですが、「卵子の質」も非常に重要です。
卵子の質は主に加齢に伴い低下すると考えられています。卵子の質が低下すると、卵子の染色体異常が増加し、受精卵の発育障害が起こりやすくなり、妊娠してもその後の流産が起きやすくなります。1回の妊娠あたりの流産率は、30歳未満では約10%ですが、35歳を超えると急激に増加し、40歳で約35~40%、45歳を超えると70%以上になります(文献1)(図2)。

女性の年齢と流産率

染色体異常とは?

流産の多くは受精卵の染色体異常が原因です。染色体異常とは特に23対、46本ある染色体数が多かったり少なかったりする数的異常のことを指します。例えば、21番目の染色体が3本あるダウン症の発症率も流産率とほぼ同様のグラフの形になります(文献2) (図3)。

女性の年齢とダウン症発生率

子宮は「老化」しにくい?

一方で、女性の年齢は着床する子宮側にはあまり影響しません。卵巣から分泌される女性ホルモンの影響で、子宮内膜は肥厚した後に剥がれることを周期的に繰り返します。そのため子宮内膜は非常に再生能力が高く、年齢の影響を受けにくいのです。
アメリカにおける若年女性から提供された卵子を用いた体外受精のデータでも、閉経後の女性においても若年女性と比較してほとんど着床率は変わらないことがわかっています(文献3)(図4)。
ただし高齢女性では、子宮筋腫や子宮腺筋症などの子宮疾患の発症率が上昇するため、発症した場合には着床率が低下する可能性があります。
 

提供卵子を用いた体外受精の臨床妊娠率と流産率

男性の妊娠力は?

一方で、男性の妊娠力は年齢の影響を女性ほどは受けません。卵子と違って精子は毎日作られていますので、年齢の影響を受けにくいのです。ただまったく影響を受けないわけではなく図5で示すとおり、精子を造る機能は45歳を超えてくると徐々に低下します(文献4)

男性の年齢の伴う総運動精子数の変化

また、性機能障害である勃起障害(erectile dysfunction;ED)は、40歳を超えてくると急激に増えていきます(文献5)(図6)。これは精神的ストレスによる心因性EDや高血圧などの基礎疾患も影響する複合型EDが増えることがわかっています。


男性の年齢に伴う勃起不全(ED)の割合の変化

参考文献

1. Nybo Andersen AM, et al: Maternal age and fetal loss: population based register linkage study. BMJ 2000; 320: 1708-12.

2. Newberger DS: Down syndrome: Prenatal risk assessment and diagnosis. Am Fam Physician 2000;62:825-32.

3. Yeh JS, et al: Pregnancy rates in donor oocyte cycles compared to similar autologous in vitro fertilization cycles: an analysis of 26,457 fresh cycles from the Society for Assisted Reproductive Technology. Fertil Steril 2014; 102: 399-404.

4. Levitas E, et al: Relationship between age and semen parameters in men with normal sperm concentration: analysis of 6022 semen samples. Andrologia 2007; 39: 45-50.

5. Marumo K, et al: Age-related prevalence of erectile dysfunction in Japan: assessment by the International Index of Erectile Function. Int J Urol 2001; 8: 53-9.

(監修:黒田恵司)

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