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英単語を覚えられない人、必見----「カタカナ外来語」を活用しよう

 「電話帳を暗記することを想像してみなさい」
 私が高校生だった頃、ある先生が授業中に、そう言ったことがあります。
 電話帳を初めから覚えるような、無意味な記憶力競争は、無味乾燥で、空しく、苦しいに違いないが、受験勉強というのはそんなものではない。おそらく先生は、そう言いたかったのでしょう。私も、その考えには反対しません。受験勉強は無意味な記憶力競争などではなく、そんなつもりで取り組むべきものでもありません。
 けれども、この先生の言葉には何か引っかかるところがありました。だからこそ、今でも覚えているのでしょう。

 確かに受験勉強は、電話帳をひたすら覚え込むようなこととは違います。なぜなら意味のある内容だから。でも、問題は、その意味が感じられるかどうかです。「意味を感じる」というのはあいまいな言い方ですが、勉強しているときに「これは意味がある」という感覚がなければ、結局は電話帳を暗記するのと変わらないのではないでしょうか。
 私は、今でこそこんな仕事をしていますが、高校生の頃は英単語が覚えられなくて困っていました。ところが国語は得意で、新しい言葉も難なく覚えられました。漢語であれば一つ一つの文字だけではなくて、文字を構成する部品のようなものにすら意味があります。だから知らない言葉でも、どんな意味になるかある程度推測できるからです。ところが英語の場合は全くそんな手がかりはなく、雲をつかむようなもので、無意味な音の配列にしか思えなかったからです。
 今から思えば単なる無知であったわけですが、事実として、当時の私にとって英単語を覚えることは、電話帳を暗記するようなものでした。生物の授業でアミノ酸や、ホルモンの名前を覚えさせられたときも同じような印象がありました。

 あれから長い年月が過ぎ、今では私も、漢語のように、あるいは漢語以上に、英単語を見て、それを構成する要素から意味を推測したり、背景を想像したりすることが出来るようになっています。こういうやり方があるということを、高校時代の自分に教えて上げたいくらいですね。
 そして長らく予備校講師を務め、受験生を指導するうちに、高校生の頃に聞かされた「電話帳の暗記」の問題に対して、自分なりの解決策を見出せるようになっていったのです。

 それは例えば、こういうことです。
 確かに、電話帳は、単なる名前と電話番号、住所などの羅列に過ぎないと思えば「意味がない」ものかも知れません。
 しかし例えば、もし、そこに偶然、知人と同じ名前を見出したとしたらどうでしょうか。
 これは彼なのだろうか。彼だとすれば、その前後にある同じ苗字の人たちは彼の家族か、あるいは親戚だろうか。その地名は、ひょっとして彼の郷里だろうか。それとも引っ越ししたのか・・・などというように、それまで「無意味」と思われたものの中に突如として「意味」が出現し、物語めいた連想が生まれていくのではないでしょうか。
 そして、そういう連想が働いた後であれば、もし電話帳からその部分を暗記しなさいと言われたとしても、連想が働く以前に比べればずっと楽に覚えられるに違いありません。
 これはどういうことかというと、要するに人間にとって、「意味がある」とか「意味を感じる」ということは「自分ごとである」ということであって、何かを「自分ごと」と感じた瞬間に、そこに意味が生まれ、その内容が頭の中に残りやすくなるのです。
 私たちが日本語の未知の単語、それまで聞いたことのなかった漢語などを比較的難なく覚えられるのも、それがある意味で「自分ごと」だからです。あるいは自分と直接に結び付かないとしても、それまで自分が見たり聞いたり話したりしていて「自分ごと」になっていた言葉との連想が働くからでしょう。
 例えば私が「骨粗鬆症」という日本語を初めて聞いたのはいつのことか覚えていませんが、それまで「鬆」という漢字を見たことがなくても、「骨」「粗」「症」という漢字は慣れ親しんだもので、いわば「自分ごと」です。だから意味の推測もできるし、一度聞いたら二度と忘れない。
 しかし、これが同じ意味の英語

 osteroporosis

だったらどうでしょう。パッと覚えられる人は珍しいのではないでしょうか。医療系の受験講師である今の私にとっては、そんなに難しい単語とは感じられませんが、もし高校生の頃であれば、無意味な文字列としか思えなかったに違いありません。

 ここから得た教訓は、たとえ受験勉強の内容が本質的に無意味なものではないとしても、生徒さんにとっては、まるで電話帳を暗記しろと言われているようなものかも知れない、だから教師は、覚えるべき内容を、できるだけ生徒さんが「自分ごと」と思えるような、ある種の「物語」として仕立て上げる工夫が必要だ、ということです。「勉強は電話帳の暗記とは違う」と説教を垂れているだけでは不十分なのです。
 このことが典型的に当てはまるのが英単語の記憶でしょう。英単語の暗記のような、ふつう無味乾燥だと思われている内容こそ、意味のある「物語」にするべきなのです。

 そもそも、なぜ英単語は覚えにくいのでしょうか。
 当たり前ですが、英単語は日本語ではないからです。
 ではなぜ、日本語でないものは覚えにくいのでしょうか。
 それは、日ごろから慣れ親しんでいて、「自分ごと」として使っている言葉との関連が付けにくいからです。
 では、何とかしてその関連を付けるための方法はないでしょうか。
 実は、秘策があります。
 その秘策が、「カタカナ外来語」なのです。
 英語由来の「カタカナ外来語」が日本語に入って来たのは今に始まったことではありませんが、最近はとくに増加する傾向があります。映画のタイトルだって昔は翻訳されていたものが、今では多くが英語をそのままカタカナにしています。経済がグローバル化するにつれて、ビジネス関連のカタカナ語もどんどん増えています。
 その中には、受験生にとって馴染みのあるものも馴染みのないものもあるでしょうが、いずれにしても大事なのは、たとえ英語由来のカタカナ語であっても、どれも日本語の文脈で使われていて、その方面の専門家でなくても日常的に接する機会があるということです。だから、それだけ「自分ごと」に近くて、連想が働きやすいと考えられます。
 そういうカタカナ語には、ふだんから何気なく使っている語であるにもかかわらず、意外と由来が知られていないものもあります。その由来を尋ねると、受験で覚えるべき単語と関連のあるものがあり、そこから語源など用いて関連語をたぐっていくと、芋づる式に単語を増やしていくことができるでしょう。これを使わないのは余りにもったいないと思います。

 例を挙げると、買い物などで支払いを済ませたときに「レシート」をもらいます。バレーボールやテニスなどで球を受け返すことを「レシーブ」といい、無線の電波や信号などを受信する装置を「レシーバー」といいます。
 これらは外来語として中学生でも知っている言葉だと思いますが、使用される場面が異なっているので、関連のある言葉だとは気が付きにくいでしょう。けれども、よく考えてみると、いずれも「受け取る」という意味が共通しています。「レシーブ」から想像がつくように、「受け取る」という意味の動詞 receive が基になっているのです。「レシート」 receipt (受領書、領収書)、「レシーバー」 receiver (受信機、受信者、受取人)は、そこから派生したものです。(ただし、英語の receive は動詞なので、日本語の「レシーブ」とは用法に違いがあります。このようにカタカナ外来語には注意すべき点もあります。)
 このほかの関連語には、reception があります。日本語で「レセプション」といえば歓迎パーティーなどのことですが、これは receive に「迎える」という意味があるからです。また、「受付」も reception といいます。

 receive や reception は re-ceive や re-cept-ion のように分けることが出来ます。この -ceive や -cept- には「取る」という意味があります。そこで、-ceive や -cept- などを含んだ単語をいくつか見てみましょう。
 まず、conceive は「思い付く」という意味ですが、そうなるのは、「(考えを)つかみ取る」からです。この単語の名詞形 concept は「概念」という意味で、「コンセプト」として外来語としてもよく用いられています。
 また、perceive (知覚する)は「感覚を通して受け取る」ということですし、deceive (欺く、騙す)は、もともと「罠にかける」という意味がありました。罠を用いて「だまし取る」わけです。

 意外なところでは、except (・・・以外)がありますが、これも「・・・を取り除いて」と考えると「取る」と関係があるとわかります。名詞形は exception (例外)、さらに形容詞形は exceptional (例外的な)です。
 もう一つ、非常に重要な単語に accept があります。これは、「受け入れる、受諾する」という意味ですから receive と似ていますが、receive が単に「受け取る」であるのに対して、「(十分と認めて)受け入れる」ということです。つまり、受け取る側の考えが入っている点で receive と異なります。名詞形は acceptance です。また、-able を付けると「(品質などが十分で)受け入れられる」という意味の形容詞 acceptable となります。

 どうでしょうか。さすがに「昔々あるところに・・・」という物語にはなっていませんが、ちようど漢語がいくつかの漢字からできていて、さらに漢字には部首があるように、英単語もいくつかの「意味のかたまり」からできていることがわかると思います。
 こういう語源からのアプローチで英単語を覚える方法は、昔はあまり知られていませんでしたが、最近は本などもいろいろ出ています。ただ、私が提案したいのは、その出発点として「カタカナ外来語」を取り上げることです。いきなり、「-cept- =取る」とか言われても「何だそりゃ??」ですが、すでに日本語の文脈で馴染みのある言葉から入ると「ああ、そうだったのか」となります。この「ああ」の積み重ねが勉強では大事なのです。

 ただし、このアプローチだと、英語を覚えるために、まず関連のカタカナ外来語を探さなくてはなりません。すぐに見つかるものもあれば、なかなか見つからないものもあります。しかも大学受験レベルの必須英単語を網羅するとなると、それに対応するカタカナ外来語を一つ一つ探し出すことは不可能に近いような気もしてきます。
 実はそれを成し遂げたのが、この本です。私も参加しています。
 
 『カタカナ外来語と語源で学ぶ英単語 Vol. 1』
https://www.amazon.co.jp/dp/B07LCL73KZ/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&linkCode=ll1&tag=cstransbiz-22&linkId=582effacb45b2d83bc45893b8540dde1

『カタカナ外来語と語源で学ぶ英単語 Vol. 2』
https://www.amazon.co.jp/dp/B07L9C2HQB/ref=as_li_ss_tl?ie=UTF8&linkCode=ll1&tag=cstransbiz-22&linkId=8582bde0de58932e7b10f83c47e738ff

 ここには実に様々な単語を取り上げたのですが、個人的には、consider (配慮する、考慮する)が元々は占星術と関連のある言葉だったというのが印象に残っています。もちろん、この consider も大学受験必須英単語です。

 それから、こういう本もあります。

 『カタカナ外来語と語源で学ぶ英単語  理系英語篇 Vol.1: 医歯薬・医療系学部入試、海外医学部受験対応』
https://www.amazon.co.jp/dp/B09Y334NGJ?&linkCode=ll1&tag=cstransbiz-22&linkId=9079084e17986a60e449acd33a0352b2&language=ja_JP&ref_=as_li_ss_tl

 医療系英語講師としては無視できない話題ですが、最近、医学部受験生の間で海外、とくにヨーロッパの医学部への留学が小さなブームになっています。それというのも、日本の医学部受験では避けて通れない面接、小論文、数学などが不要で、何より費用が格安だからです。

 けれども英語で受験する必要があるため、科学や医学の英語に慣れておかなくてはなりません。初めに例に挙げた osteroporosis (骨粗鬆症)みたいな単語ですね。この本は、そのための入門書という面がありますが、やはりカタカナ外来語を手がかりにして「物語」を展開しているところが画期的だと思います。
 科学や医学の英語については、また稿を改めて述べたいと考えています。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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