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10人インタビュー企画 ⑧須田貴志(権右衛門)〜組織で動き、次の世代へ農業を繋げる〜

株式会社権右衛門 代表取締役 須田 貴志(すだ たかし)さん

にかほ市で「農業生産法人権右衛門」を設立し、農産物の生産に取り組む須田さん。農業を法人で行うことの意味や、須田さんの生い立ち、にかほ市の農業の実態などについてお伺いしてきました。

メディアラボによる「10人インタビュー企画」
〜地方で働く・活動する人々の想いや理由を探る〜  都心では、地方で働くことの良さを知る機会が少ない。でも、「かっこいい」「おもしろい」取り組みは、場所を問わず人を巻き込める魅力がある。
商業施設の少なさや交通の便が悪いことなどを上回る、地方ならではの魅力とは一体何なのか?メディアラボメンバーが、にかほ市で活躍する10人のインタビューを通して探り、深堀り、記事で伝えるインタビュー企画です。 

2/25開催!「ニカっ!とにかほしフェスティバル」https://nikattonikahoshifestival2023.peatix.com

 

Q: どんな学生時代でしたか?

自分は農家の長男だという思い

農業の長男で生まれて、小学生くらいまで農作業が忙しい時期は必然的に手伝いをしていました。自分が手伝いをしている中で同級生が遊んでいるのを見るのが嫌で、高校を出たら東京に行きたい、田舎は嫌だと考えていました。

元々ご両親が農業をやられていたのですね。そんな中で、にかほに戻ろうと思ったきっかけはなんだったのですか?

東京で就職してから3年ほど経った時に、実家の農地はいつか誰かが継がないと荒れてしまう、自分は農家の長男であるという思いが芽生えてきました。その時にちょうど父親などから「農業を大きく展開するので一緒にやらないか」と声をかけられたこともあり、にかほに帰ろうと思いました。

須田さん

Q:にかほに戻ってからはどうされたのですか。

昨年に権右衛門をスタート。グループ会社と連携し生産から販売までを対応

自分の家の農業を手伝いながら、生産した米を販売する「なるほど舎」でもスタッフとして販売業務を担当する、という体制を35歳頃までやっていました。その後父親も歳をとってきたので、自分は農作業の方がメインになり、農業経営を承継しました。
2021年に自分の家を法人化して「権右衛門」をスタートさせました。

グループ会社もあるのですね。棲み分けはどうなっているのですか?

現在は、生産は「権右衛門」、販売はグループ会社の「なるほど舎」と分けることで生産から販売までを対応しています。
権右衛門で生産したお米は全てなるほど舎に出荷していまして、うちのお米が欲しいと言ってもらえるところには首都圏をはじめさまざまな場所へ、大手から個人のお客様にまでお届けしています。

Q:権右衛門さんでの具体的な業務内容を教えてください。

法人化することで次の世代へ繋げていく

お米をはじめ、ネギやそばを作っています。

取材時にネギの収穫をメディアラボメンバーも体験しました。ネギを収穫するための機械に乗らせていただいたり、皮むきや根を切り落とす作業を教えていただきました。

 

また、農業をやめようか考えている農家の方達の相談も受けています。農業をやめる理由を聞き、場合によっては機械の貸し出しやできない部分を私たちが出向いて行うことで栽培を一緒にやりませんかと提案しています。
農業コンサル、といえば聞こえは良いですが、相談でのお金は農家の方からはいただいておりません。ただ、最終的に全てこちらにお任せしたいとお願いされることも多いので、そうした場合はこちらで引き受けることで権右衛門の農地を増やしています。
また、新規就農に興味を持ってくださる方に対して農地の情報をお伝えしたりしています。農地を紹介し、横浜から移住して今年新規就農者となった方もいます。その際にも機械などをうちの方で貸し出したりしています。

権右衛門さんに協力いただき、機械を動かしてネギの収穫を体験するメディアラボ松田

ありがとうございます。単純な疑問なのですが、個人の農家として農業を行うことと、法人で行うことに違いはあるのですか。

個人の農家だと、基本、自分の田んぼのことだけ考えれば良いので、自由に自分の好きなようにできるメリットがあります。ただ、ケガや病気、天気で思うように作業が進まないなど、どこかで行き詰まることがあると自分の代わりがいない事態になるんですよ。

一方で、法人にすることで若い方たちが興味を持ってくれたり、そこからまた何か新しい展開が生まれたりできます。不測の事態が起こったときに一人だとめげてしまいますが、組織でやっていると案を出して問題を解決していけます。これからは会社・組織で農業が動く時代だと思います。
(取材に)同席しているのは甥ですが、高校を卒業してうちに入ってくれました。私一人で終わらせてしまうのではなく、会社にすることで次に繋げていく。にかほ市の農業にはそれが足りないと思います。

実は昔は、2.3軒の農家の親戚が集まり、田植えなどの作業を協力してやっていました。田植えなどが終わるとみんなでお祝いする風習もありましたので、10人くらいの組織になって動いていました。今は機械化が進んだことにより、農業の個人化が進んでしまっています。法人化して農業をすることは、ある意味、昔ながらの農業に近い形なのかもしれません。

 

Q:農業を行う面白さを教えてください。

にかほ市全体が職場である

私は25歳からやっているので、面白さと言われると難しい部分もありますが…笑でも、私にとって農業は特技でもあり趣味です。
農業を仕事にしていると、にかほ市全体が職場になります。権右衛門として、にかほ市の9エリア・400を超える圃場を管理していますので、にかほ市中の地形を把握しなければならないのが、大変ですがやりがいです。うちは生産から販売まで一貫しているため、出荷先の顔がわかっています。そのため、タネの時点からより気持ちを込めて生産することができています。農業は天気によってやり方が変わってきます。難しいですが面白いです。こうしたやり方は暗黙知でなかなか伝えづらいですが、面白そうだなと思ってもらえる人を増やしたいと考えています。

また、昨年だけでにかほ市で22人が農業をやめると権右衛門に相談にきましたが、離農される方にとって農地は財産であり、生きているうちに自分達の農地を荒らされたくない、守りたいという思いがあります。そこで私たちが引き受けますよと言うと、涙され本当に喜んでもらえます。
その時には、この仕事をやっていて良かったなと思います。

もし私のような若者が農業をやりたいと思ったら、簡単にはじめられるのでしょうか。

農業に限らず、何も身についていない状態からいきなり新しい職業に就くのは難しいですよね。農業の場合は、補助金を出して「来年から未経験でもすぐやれますよ」と募集をされていることを危惧しています。お金だけもらっても何をすればいいのかはわからないですよね。私は新規就農者になるには、どこかで数年間経験を積んで一通りできるようになってからが良いと思っています。そこでまずは組織として受け入れる場所を増やすことで、一人前になって暖簾分けのように独立していく。権右衛門としてそのような仕組みを作って広げていきたいと考えています。

Q:今後の展望を教えてください。

にかほ市は田んぼが多いですが、やめてしまう人も多いです。そのため、今ある農地を守り、それを発信することで次に残せていけたらいいなと考えています。また、スマート農業などにも取り組んでいけたらと考えています。

Q:にかほ市の魅力はなんですか?

何もないのがかえって一番いい

にかほ市は東京から来るのに最も不便な地域の一つだと思います。だからこそ、農業が主役になれるんですよね。何もないのが、かえって一番良いと思います。

Q:読者・来場してくれた人に伝えたいこと

観光ではなく、農業をしにぜひ一度、にかほ市に来てください。私たちがサポートをします!

権右衛門の阿部さん、須田さん、佐々木さん、阿部さん
メディアラボ木村、松田

インタビューしてみた感想

普段私たちは当たり前にお米や野菜を食べていますが、それらはどうやって作られているのか、都心部に住んでいるとなかなか農業の実態を掴みづらいですよね。権右衛門さんは、自分達の事業を大きくするだけでなく、にかほ市での農業をより良くしようと活動されているのがとても印象的でした。農業体験の際も初心者の私たちに丁寧に農作業のやり方を教えてくださるなど、今回で権右衛門さんのことが大好きになりました。今回のインタビューで権右衛門さんのことが気になった方がいらっしゃいましたら、なるほど舎のサイトからお米が買えますので、ぜひ一度ご覧になってください!

執筆者:メディアラボインターン 木村未来

関連情報
株式会社権右衛門
有限会社なるほど舎
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