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ヒノトリはダヴィンチより日本人向き-手術ロボットの違いの話①-

2020年にメディカロイド社が発売した初の国産手術支援ロボット、hinotori(ヒノトリ)。2024年現在、日本ではダヴィンチに次ぐシェアを獲得しています。
待望の国産ロボットとあって非常に有名ですので、ニュースなどで名前を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。ただヒノトリの名前は知っていても、具体的にダヴィンチと何が違うのか気になりますよね。

大雑把に言うと、ヒノトリは日本市場向けに最適化されています。

この記事ではヒノトリとダヴィンチの違いにフォーカスしてみたいと思います。


手術ロボットhinotori(ヒノトリ)とは?

ヒノトリは、ダヴィンチに次いで2番目に日本で製造販売承認された手術支援ロボットです。
コンセプトはダヴィンチに近く、患者側ロボットと離れた位置に置いた術者用のコンソールを操作して手術を行います。
コンソールはダヴィンチと同じ没入型で、縦横比16:9の広い視野での3D視が可能です。

ヒノトリを作っているメーカー、メディカロイドは、産業用ロボットのパイオニアである川崎重工業と医療検査診断機器メーカーのシスメックスが共同出資して設立された国内企業です。
そのため、日本に合わせた設計がなされています。

ヒノトリの名前の由来は手塚治虫先生の「火の鳥」。ロゴにも火の鳥のシルエットがあしらわれています。

公式HP:hinotori手術支援ロボット|メディカロイド

ヒノトリの特徴とダヴィンチとの違い

ヒノトリとダヴィンチは似たコンセプトで作られており、大きく異なる点は多くはないでしょう。挙げるとすれば3つ。

  1. スリムなデザイン

  2. 遠隔手術に力を入れている

  3. 価格設定

また、ロボットの機能ではありませんが、国産メーカーなので日本人医師の意見聞いてくれやすいこともひとつの強みだと思います。

すごく個人的な意見を言うと、公費をアメリカに流さずに済むよう国産メーカーには頑張ってもらいたいです。
国産の手術支援ロボットにはリバーフィールド社のSaroa(サロア)もあります。

少し脱線しましたが、ここからヒノトリの特徴を見ていきましょう。

特徴①スリムなデザイン。小型で軽量

ヒノトリはダヴィンチに比べてスリムにできています。トロッカーまわり、アームまわりはかなりすっきりとした印象があります。

鉗子とトロッカーがドッキングフリーで、将来的にはトロッカー間距離を8cm以下にできそうです(ただし現在の推奨は8cm以上)。小柄な日本人女性のトロッカー位置を決める際に困ることが少なくなるのではないでしょうか。
また、アーム自体が細身なので助手が操作しやすい点もメリットです。

特徴②遠隔手術に力を入れている

メディカロイド社は、遠隔手術技術に力を入れて開発しているようです。2023年にはdocomoの5G回線を利用した実証実験をおこなっています。

参考:東京-神戸間(約500km)で商用の5GSAを活用し遠隔地からロボット手術を支援する実証実験に成功

日本ではへき地の医師偏在が社会問題となっており、地域医療格差を解決するひとつの手段となるかもしれません。
ただ、現在のガイドラインではまだ遠隔手術の臨床使用は推奨されていません。事故が起こった際に責任を持つべきは誰か?という点が未解決だからです。事故の内容によると思いますが、遠方の術者か、患者のそばにいる助手か、ロボットメーカーか、通信会社か、セキュリティ会社か…パッと思いつくだけでもこれだけ考えられます。

参考:日本外科学会 遠隔手術ガイドライン

ダヴィンチを製造するイントゥイティブ・サージカル社は遠隔手術にあまり乗り気ではなさそうなので、いずれはヒノトリの強みになっていくかもしれません。

特徴③価格設定

少しヤラシイ話になってしまうのですが、ダヴィンチってイニシャルコストもランニングコストもお高いですよね…。ダヴィンチを導入したものの、稼働するほど赤字になる施設もあると聞きます。
でも、今や手術支援ロボットがない病院は外科医に選ばれなくなるところまできています。集患にもつながりますし、買いたくなくても買わざるを得ないというのが病院の本音かもしれません。

ヒノトリはダヴィンチに比べて控えめな価格設定になっています。本体価格は3分の2程度、ランニングコストも小さいです。
日本の大学病院はほぼ全てがダヴィンチを持っていますが、1台目にダヴィンチ、2台目にヒノトリを選ぶ病院もあるようです。

ヒノトリの欠点は?

では逆に、ヒノトリを選択した場合のデメリットはなんでしょうか?

欠点①鉗子の種類が少ない

ヒノトリがダヴィンチに劣る点は鉗子の種類の豊富さでしょう。

ダヴィンチは20年以上臨床で使用されてきた実績があり、鉗子の開発も豊富に行われてきました。特に自動縫合器と血管シーリングデバイスは現在のところ他社のロボットにはなく、圧倒的優位を誇っています。

ロボット手術はSolo surgery(=術者1人で手術できてしまう)なんて言い方もされますが、ヒノトリを使用する場合は助手がサポートする割合が増えるでしょう。
反面、助手が手術に積極参加でき、教育的にはメリットとなるかもしれませんね。

欠点②保険適応術式が少ない

手術支援ロボットは、機種ごとに保険適用術式が微妙に異なります。
ダヴィンチは5診療科29術式(2022年診療報酬制度下)で保険適用されていますが、ヒノトリは3診療科での適用に留まっています。

すでに呼吸器外科への保険適用申請も行われており今後拡大すると予想されますが、現時点ではヒノトリ利用の幅はやや狭いです。とはいえ、ダヴィンチと2台持ち3台持ちの病院では使い分けができるため、あまりデメリットに感じないかもしれません。

ダヴィンチからヒノトリへの乗り換えは可能?

ダヴィンチからヒノトリへの移行は車を乗り換えるような感覚なんだそうです。操作は非常に似ており、数時間トレーニングをすれば慣れるとの感想を耳にします。
Certificationの面でも、ダヴィンチですでに取得している医師はヒノトリのトレーニングが一部免除されます。
乗り換えのハードルは低いといっていいでしょう。

まとめ

ヒノトリは国産初の手術支援ロボットとして注目を浴びています。ダヴィンチよりもスリムで安く、日本のニーズに合った機種といえます。鉗子の種類や保険適用術式数など今後の機能拡充に期待したいですね。

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