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続々増える手術支援ロボット|ダヴィンチ含む全5機種を比較

いまや手術支援ロボットの代名詞となったダヴィンチ。
一方、2019年にダヴィンチが持つほぼすべての特許が切れてからは、日本でもさまざまな手術支援ロボットが発売されています。
この記事では、2024年現在発売済みのロボット5種とその違いをご紹介します。

手術支援ロボットとは?何がスゴイの?

手術支援ロボットとは、術者が遠隔でアームを操作し手術を行えるロボットです。直視下手術(開腹など)と異なり、切開創が8mm~12mmほどと小さいため、腹腔鏡手術と同じく低侵襲な手術を行うことができます。

従来の腹腔鏡手術との大きな違いは、鉗子操作がより正確に、繊細に、自由に行えることでしょう。 具体的には、手ブレが少なく、アームの手首部分の可動域が大きいため、人間にはできない動きまで作り出すことができます。
モーションスケールと呼ばれる機能では、術者の鉗子操作を縮小してロボットアームに伝えることができます。例えば術者が1cm動いてもロボットは2mmだけ動かすことができ、より繊細な操作が可能です。
このため、ロボット支援下手術では腹腔鏡手術よりも合併症が少なくなるといわれています。

また、術者が滅菌ガウンを着ずに座ったまま手術できることから、外科医の身体的負担軽減にもつながります。

手術支援ロボット Da Vinci(ダヴィンチ)って何?

ダヴィンチはインテュイティブ・サージカル社が開発した世界初の手術支援ロボットです。2000年に米国FDAの承認を得た後、日本にも導入されました。
日本で初めて保険適応となったのは2012年、泌尿器科の前立腺全摘術です。前立腺は骨盤内の奥深くにあり、開腹手術では視野が狭く、出血も多く、合併症が起こりやすい手術です。ダヴィンチのメリットが活かしやすい手術でした。
その後、泌尿器科の手術を中心に保険適応が拡大し、2022年には5診療科33術式が保険で手術可能となりました。
現在、日本の大学病院のほとんどが所有しており、手術支援ロボットのシェアの9割以上を占めています。
現在販売されている機種は、X、Xi、SPの3つです。

公式HP:Da Vinci by Intuitive|Intuitive surgical

ダヴィンチ以外の手術支援ロボットは日本で4機種発売されている

冒頭でもお伝えした通り、手術支援ロボットは2019年以降さまざまなメーカーが販売を開始しています。ダヴィンチのように主に腹腔内の手術に使用できるロボットは、2024年現在4種類あります。

  1. メディカロイド社製 hinotori

  2. リバーフィールド社製 Saroa

  3. メドトロニック社製 Hugo RAS

  4. アセンサス社製 Senhance DLS

どの機種も操作性は大きく変わらず(後述しますがセンハンスだけは異なります)、車を乗り換えるような感覚なんだそうです。

国産手術支援ロボット①hinotori(ヒノトリ)

hinotoriは、メディカロイド社が開発した国産初の手術支援ロボットです。メディカロイドは産業用ロボットを日本で初めて製造した川崎重工業と、医療用検査・診断機器メーカーのシスメックスが共同出資して設立した企業です。産業用ロボット界では世界シェアの50%を日本企業が占めており、川崎重工業はそのパイオニアです。

hinotoriのコンセプトはダヴィンチとよく似ていますので、ダヴィンチの操作に慣れた術者・スタッフには扱いやすいロボットだといえるでしょう。

ダヴィンチとの一番の違いはアーム回りがスリムなこと。アームそのものも細く、トロッカーと鉗子のドッキングが不要ですっきりしているため、ダヴィンチでは難しい小柄な日本人女性にも使いやすいでしょう。
本体も比較的小型で軽量なため、ダヴィンチの1tという重量に手術室が建築的に耐えられず諦めた施設でも導入がしやすいです。
本体価格がダヴィンチXiの半額から3分の2ほどという点も、導入施設が増えている大きな要因の一つです。

一方、デメリットは鉗子の種類が少ないこと。ステープラーや血管シーリングデバイスは開発中とのことで、腹腔鏡用のデバイスで術野側にいる助手が補助する必要があります。

公式HP:hinotori手術支援ロボット|メディカロイド

国産手術支援ロボット②Saroa(サロア)

Saroaは2台目の国産の手術支援ロボットです。東京工業大学と東京医科歯科大学、リバーフィールド社の共同開発で2023年に発売されました。

ダヴィンチやhinotoriとの大きな違いは、世界初の触った感覚が手に伝わる「力覚フィードバック」機能があること。視覚のみに頼るほかのロボットと異なり、より安全に手術が行えるでしょう。
また、空気と電気のハイブリッド駆動で、従来の手術支援ロボットより柔らかな動きを再現できます。

本体価格はダヴィンチXiの半額以下、hinotoriよりもさらに軽量で小型のため設備投資も少なく済みます。ダヴィンチでいうビジョンカートがなく、既存の使い慣れた内視鏡タワーユニットとスコープをそのまま利用できます。
また、術者のコックピットがオープン型であることもダヴィンチやhinotoriとの大きな違いです。術者と周囲のスタッフのコミュニケーションが取りやすく、術者が楽な姿勢で座って手術できます。

欠点は、アームが3本と他より1本少ないことと、hinotoriと同じくステープラーや血管シーリングデバイスがないことでしょう。どちらも開発中のようです。
リバーフィールドは日本企業なので、日本の医師の要望にスピーディに応えてくれる点が魅力なんだそうです。

公式HP:Saroa|製品紹介|リバーフィールド株式会社

手術支援ロボット③Hugo(ヒューゴ)

アイルランドのメドトロニック社が2022年に発売したHugo RASシステムは、患者側のアームが独立型であることが特徴的です。1本の鉗子に1台のカートという構成のため、トロッカーの挿入位置を自由自在に設定できます
開腹移行の際には出血点をロボットの鉗子1本で把持したまま、不要なアームは緊急ロールアウトさせるという使い方ができそうですね。

一方、カートが増えるため、ロールアウトを考慮するとダヴィンチよりも広い手術室が必要です。カート同士をつなぐ配線も多く煩雑になるでしょう。
現状、鉗子の種類はダヴィンチほど豊富ではありませんが、メドトロニックは別事業部で血管シーリングデバイスやステープル製品を持っており、他社よりも実装が早いのではと期待されているようです。

公式HP:外科手術で使用する「Hugo™️ 手術支援ロボットシステム」の販売を開始|メドトロニック

手術支援ロボット④Senhance(センハンス)

Senhanceは前述の4機種とは大きく異なり、腹腔鏡をロボットで操作するというコンセプトで作られています。
既に病院で持っているラパロ用の鉗子のスコープを利用でき、コックピットでの術者操作も腹腔鏡鉗子と同じ動きになりますので、腹腔鏡に慣れた医師には扱いやすいでしょう。
保険上も腹腔鏡手術として算定されるため、現状「ロボット支援下手術」で保険適応されていない手術(特に良性疾患)でも使用できます。

ただ、ロボットの大きなメリットのひとつである鉗子手首部分の可動域の広さはありません。また、Hugoと同様の独立型カートであり、ダヴィンチよりもさらに広い手術室が必要になります。

公式HP:Senhance|ASENSUS(英語のページへ飛びます)

整形外科や脳外科でもロボット手術が保険適用されている

腹腔鏡・胸腔鏡手術以外でも手術支援ロボットの開発が進んでいます。

整形外科・脳外科ではナビゲーションシステムと併用し、カッティング・ドリリング位置や角度をガイドしてくれるものがあります。
整形ではTKA、THA、脊椎で、脳外科では定位脳手術で保険適用されています。

J&Jも参入?手術支援ロボットは今後も開発競争が過熱!

手術支援ロボットは世界各地で開発が進んでいます。
大きな注目を浴びている企業には、Googleの親会社AlphabetとJohnson & Johnsonが共同出資したVerb surgical社があり、ダヴィンチに匹敵するロボットが作られるのではないかと期待されています。

国内でも、国立がん研究センターがスタートアップ企業A-tractionが手術支援ロボットを開発中です。

ロボット支援下手術は従来の腹腔鏡手術と比べて手術成績が良いというのが外科医の共通認識でしょう。さまざまな診療科・術式でも比較検討されていますが、出血や神経損傷のリスク、開腹移行の確率も腹腔鏡手術より小さいとされる研究が多いです。

2022年の診療報酬改定で加点がついた術式もあり、今後ますます活用が広がっていくのは間違いありません。

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