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「才悩人応援歌」と健やかな破滅 | わた藤 執筆後記

フラスコ飯店で連載している「わたしがグダグダうじうじしていることは大抵すでに藤原基央が曲にしている」、略して「わた藤」の第4回が公開されました。取り上げたのは「才悩人応援歌」。

今回は、就職活動をやめたことについて書きました。これは過去を振り返った前回前々回とは違って、今年の3月から6月までのドンピシャタイムリーな出来事と煩悶です。

1年間休学して、日本でも海外でもフルタイムで働いてみて、実際にやってみて、それでも辞めた「シューカツ」。レールに乗ること、降りること、厳しい現実や、自立して生き延びることについて。

わたしがグジグジうだうだしていることは大抵すでに藤原基央が曲にしている。それは、厳しい現実がみちびく健やかな破滅と、その正しい大きさすらも。

就職活動を辞めて、わたしは社会的に破滅したんだと思います。ほんとに。
しかも、破滅しないルートがちゃんと目の前に用意されていたのに、わざわざ。

周りに就活しない人なんていなかったし、ましてや辞める人なんていなかったし、何よりとても親不孝なことをしたんだと思う。わたしは旧帝大に通っていて、もともと学歴にうるさい親ではなかったんだけど、やっぱり合格した時の彼らの誇らしそうな嬉しそうな顔は忘れられないし、そういう大学の新卒カードを捨てて不安定な道をゆくというのはきっと想定外だったでしょう。早く安心したかっただろうな、ごめんね。

このあたりの悩みは実際に就職活動を辞めてしまってからも大きいもので、「そういうタイミングだからこそ、就職活動の話を書きましょう」と編集者に言われた時も、書けるかなあとけっこう不安でした。

結果的に、「自分の中にあるものを取り出す」というよりは「書くことでちゃんとわかる」というような現象が起こり、かなり純度の高いものがするするっと出てきて、自分自身でも救われたような感じがありました。

中学生の頃は「珍しくキレ散らかしてるなあ」と思っていたこの曲も、大人になって聴くと、正しく応援歌だ、と思わされました。

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さて、今回もアイキャッチはイラストレーターのくどうしゅうこさん。(Instagram:@shk003

レールの上を正しく速く走る電車に引き込まれそうになって、それでもぐっと踏んばる。無機質な電車の色、なまっちろい腕、なびく髪。

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一見して「レールなんかに乗らないぞ」という格好いいロックな図にも見えるのですが、実はくどうさんは原稿を読んで「自分の確固たる意思があるはずなのに流されそうにもなるし負けそうになる感じ」を汲み取ってくださいました。

才悩人、つまり悩む才能がある。もしかしたら悩む才能「だけは」あるのかもしれない。悩むことはくよくよすることで、真摯に悩めば悩むほど、「これが正解だ!」と断言することは難しくなってゆきます。

だから、負けそうになる。ようやく整理もついて覚悟もして、威勢のいいことも言えるようになったけれど、それでもたくさん悩んだし、同じように悩んでいる人・悩んだことのある人もいるはず。実際に、記事を公開してからたくさんの感想やメッセージをいただきました(本当に励みになります、ありがとうございます)。

当然、あらゆるイラストや記事はどのように受け取ってもよいのですが、くどうさんがこの記事に「負けそうになる感じ」というモチーフを選んでくださったことは、個人的にはとっても嬉しかったし、ちょっとだけ知っておいてもらいたいなという気持ちです。

さっき「この曲は正しく応援歌だ」と書いたのですが、この記事も、全ての「負けそうになっている人」への応援歌になればうれしいです。

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今回もくどうさんの許可を得て、ボツになったラフを紹介します。

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採用になったものとは正反対の配色、雰囲気。みんなそれぞれのレールの上を歩いていて、1人でゆく人もいれば2人で進む人もいる。そんななかで自分のレールだけ途中で途切れていて、どうしようかなあ。

真綿のような、ぬるく息苦しい劣等感や煩悶をよく表してくださっている、めちゃくちゃかっこいいやつです。

これをボツにするのは本当にしんどかったのですが、やはりあの赤の苛烈なイラストを諦めることができず......クッッ..............

とはいえ、毎回くどうさんの新しい一面を見ることができて役得でもあります。

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最後になりましたが、なんとか卒業した高校の卒業式で、担任の先生がわたしに贈ってくれた言葉を書いておきたいと思います。

「今日ようやく和島さんの人生が始まりました。鋭い洞察力と感受性があなたの武器です。応援しています」

先生が敷こうとしてくれたレールからは降りてしまったけれど、わたしはあのとき生まれたんだとも思っています。ありがたいなあ。

次回予告

思えば、父親の心配ばかりして生きてきた。
お父さんは孤独じゃないだろうか、生きていてよかったなって思えているんだろうか。
昔から「あなたの人生ですから」が口癖の彼が与えてくれたその愛。
次回は、2010年リリースのアルバム『COSMONAUT』に収録されている「66号線」に寄せて、自他を区別することについて考えます。

5曲目は2010年のアルバム『COSMONAUT』収録の「66号線」。公開は10月の予定です。


「わた藤」トラックリスト

1曲目:「ディアマン」ともう聴かなくなったバンド

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2曲目:「宇宙飛行士への手紙」と流れ星のわたしたち

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3曲目:「リボン」と無敵の友情

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4曲目:「才悩人応援歌」と健やかな破滅

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番外編:2020年、激動の BUMP OF CHICKEN への信頼を問い直す | 彼らの振る舞いや不倫報道へのステートメントを読んでわかること

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▶︎執筆後記たち:https://note.com/medetais/m/mf0b3435eff05

▶︎藤原基央さんのお誕生日に寄せて書いた連載予告はこちら




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