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着陸態勢

コロナが流行り始めた頃、
2020年夏から私は禁煙を始めた。



禁煙を始めた理由は、
嫌いな人がみんなタバコを吸っていたから。
母親、父親、タツクン、縁を切った友だち。
私の周りは喫煙者で溢れていた。




喫煙者は問題を後回しにする。
ニコチンによって、問題から背を背ける。



タツクンとの別れ話は何度も揉めた。
喫煙者は話し合いが必要になるとすぐ脳を麻痺させるためにタバコに手を伸ばす。
お互いニコチンで麻痺させあった脳内でする話は
いつも着陸点を見失ってしまい、
フラフラ不安定フライトを続行させる。




「タバコを吸うことはストレス発散になる。」
「我慢は良くない。吸わないほうがストレス。」
聞き飽きたセリフ。

根本のストレスをニコチンによって誤魔化す。
根本のストレスは解決されないまま、
ニコチン切れのストレスが発生し、また吸う。
その繰り返し。

今再び、「タバコ増税!いろいろ増税!」
となっている世の中。
今辞めないで、いつ辞める?



再上京したときはタバコを吸ってはいなかった。
しかし、もう一度タバコに手を出してしまった。
10月頃かな。
寂しさを埋めるために、1日500円。
臭い自分を家に閉じ込める理由には丁度よい。
タバコを吸っていると、
人に会うことがますます億劫になる。



吸えない時間のムズムズ感。
吸える場所を探すときのイライラ感。
今度はいつ吸えるかのハラハラ感。
自分が臭くないかのドキドキ感。





わたしはタバコがとても似合う。
自分で言うのもなんだが、
本当に吸ってる姿がサマになっているのだ。



ニコチンアテンダント


でもねぇ。サマになっていても無駄なの。
いつまで着陸点を見失ったフライトを続けるの?
到着したい。
到着できるのは、何にも依存せず、
自分の信念を持っている者。それだけ。



自分を地面にしっかり立たせるために。
再び自分を奮い立たせて。
今まで付き合った男たちよりも付き合いの長いタバコに別れを告げる。
「立った立った!ホクロが立った!!」




タバコを辞めるときは
大好きな男と別れるときによく似ている。
今まで心に寄り添ってくれてありがとう。
あなたなしでも、わたし、生きていくわ。
別れてはヨリを戻し、繰り返し。
でも今回は絶対最後のお別れだからね。




アテンション・プリーズ。着陸します。


生けタバコ/作・ホク

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