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離別、瀲灎

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「別れ」のかたち
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#短編小説

箱

それは非常に巨きい箱であった。箱と云うには余りにも巨大であり、然し箱としか表現の仕様がない。

「あの、済みません」

箱に近付く男性に声を掛けるが、此方に視線を向けることなく通り過ぎて行く。先程からずっとこうであった。誰に話し掛けても、誰一人として返事を寄越すことはない。まるで私のことなど視界に入っていないかの様に。

「そんな訳無い」

他所から移り住んだ私に対する嫌がらせだろう。再び箱に目を

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