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映画「素晴らしき哉、人生!」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第68回

生きていてよかったと思える日が来ますように
1946年公開映画「素晴らしき哉、人生!(It’s Wonderful Life)」
文・〝美根〟(2022年12月22日連載公開)

「今までやってきた甲斐があったな」と思える瞬間は、毎日過ごしていく中の割合では少ない方で、頑張らないといけない過程の方が多い。そんな日が来るのを願いながらもちょいとしんどいとき、ご飯食べすぎちゃったり、いらない買い物しちゃったり、手っ取り早い心地よさとか楽しさを得ようとしがちな私ですが・・・。自分の中で無理矢理にでも、良い兆しを見いだそうとすると、「いかんいかん、こんな素敵で確かな兆しがあったじゃないか」と見失っていたものも手の中に戻ってくる。

12月、今年一年振り返りながら、来年を手繰り寄せる今、ぜひ観てほしいのがこの映画です。

天使は見てくれていた

聖なる夜、多くの人がある男の幸せを願い、祈っていた。その男は、まさにクリスマス・イブに、人生に行き詰まり自らの命を絶とうとしていた。祈りを聞きつけた星々は、男を救うため、まだ羽を持たない2級天使のクラレンスに事情を伝え、助けに向かわせようとする。その男の名前はジョージ・ベイリー。クラレンスと共に、彼の人生を追っていくところから物語は始まる。

ジョージ・ベイリーの人生、彼のいない世界

映画のほとんどが、ジョージ・ベイリーの子供の頃から、大人になるまでを描いているシーンなのだが、どんな場面でもジョージの優しさや家族や友人への思いやりが滲み出て、いつの間にか私たちもジョージを見守り応援する天使のような立ち位置になれる。弟が溺れるのを助けたり、アルバイトの雇い主をある事件から救ったり、夢だった大学進学や世界旅行を諦め、家族や街の人々のために家の仕事を継ぎ、愛する人と出会い、守るものができ・・・。

演出が秀逸で、一大イベントが沢山描かれる!というのではなく、ささやかなジョージの心の動き、感じる優しさや温もりが、丁寧に描かれているため、ジョージの人生を通して、自分の日々を思い出す人も多いと思うし、多くの人がどんどん前のめりでジョージに共感していくと思う。

夢見るハツラツとした愉快で心優しい青年から、諦めや自ら働き生活を営むことを知り、家族を幸せにしたいと願う大人への変化。私はちょっと、ジョージと自分も重ねたんだけど、「そうだよな、家族を養うプレッシャーとかってでかいよなぁ」と、世の親御さんたちとか、両親の気持ちを勝手に想像して重ねて泣いたぞよ。コメディな部分から、次第にシリアスになっていく展開には、目が離せない。そして、橋から身を投じようとしたときに、現れたクラレンスが「ジョージが生まれなかった世界」を彼に見せるのだ。

粋な演出、素敵なキャラクターたち

最初に、みんなが祈るシーンから、急に宇宙が出てきて、星々が喋り出すあの演出は、もう最高。可愛くて声出して笑いました。

主人公のジョージ・ベイリーを演じたジェームズ・ステュアートは、私が大好きな映画「ハーヴェイ」の主役の方だったのでびっくり。お人好しな優しい雰囲気、打って変わって物申したり、怒ったりするシーンと、表情豊かで人間味に溢れた姿は、いろんな人とのつながりを大切に生きてきた情深いジョージ・ベイカーそのもの。それゆえに追い詰められ、家族に当たってしまうところは心が痛かった。妻となる女性メアリーも、夢を語るジョージを愛し、ささやかな幸せを感じる力を教えてくれる、温かく聡明な女性。また、天使のクラレンスはまるでサンタクロースのような風格のほんわかしたおじいちゃん天使で可愛い。ジョージを優しく諭してくれる魅力的なキャラクターだ。

「ジョージが生まれなかった世界」は、バック・トゥ・ザ・フューチャーや、クリスマスキャロルを思い出すような感覚で、見る人の頭の中にもこびりつくだろう。自分バージョンで想像してみてほしい。どんなに孤独を感じても、一瞬すれ違っただけでも、人々は繋がり、影響しあっている。

素敵なクリスマスを!

本作はモノクロ映画のため、色は自由に、ベルがついたクリスマスツリーと「トム・ソーヤの冒険」の本を作った。12月にぴったりの指輪になりました。ツリーにはキラキラもつけたよ!
皆さんも、よきクリスマスと年末を!
今年も一年ありがとう。
来年も、楽しく、そして願わくば、今までやってきてよかったとたくさん思いたい。そのためには挑戦し続けること、飽くなき野望を見失わず、突き進むぞ。己の人生を、素晴らしき人生にしていくのは他でもない自分だから。

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モチーフ:クリスマスツリー、ベル、クラレンスの愛読書「トム・ソーヤの冒険」の本

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