見出し画像

石喰う男「クリムゾン・キングの宮殿」を読んで

初カキコ…ども…

最近あまりに言いたいことが多すぎて140字や漫画に収まらないため、noteで発散することにした。

140字以上の文章を書いたことがないので、
ゴリラが言語学習のために書いてると思って温かい目で読んでほしい。

今回お伝えしたいことは、最近私がTwitterと脳内で騒いでいる 片岡總 著「石喰う男」という短編集の中の一話、「クリムゾン・キングの宮殿」という作品の素晴らしさ及び推しについてである。

まず、この「石喰う男」について。
これは1997年にマガジンハウスで出版された片岡總先生(現・カラスヤサトシ先生)の不条理系ギャグ短編集で、現在は絶版となっているため入手困難である。
そんな状況のため、人にお勧めしずらい作品ではあるが、どうしても多くの人に読んでほしい!ということで演説を述べると共に復刊ドットコムで一票を投じてきた。

本題の「クリムゾン・キングの宮殿」のあらすじを簡単に説明しよう。
主人公は普通の男子学生、山田。
ある日の夜、「この一枚がスゴイ!キングクリムゾン」という記事が書かれた雑誌を片手に「クリムゾン・キングの宮殿」を聞いて首を傾げている。
翌日、学校で昼の時間に流れていた邦楽を褒めている友人たちに「オレ最近洋楽しか聞かへんから」「キングクリムゾン…とか」と言ったところ、近くで聞いていたクラスメイト「宮西」に「このクラスにオレの他にキング・クリムゾン好きな奴がおるとはな!」と話しかけられる。
その日を境に宮西からプログレのCDをドンドコ貸され続け、主人公の毎日はプログレ一色に染まってゆく。そもそもそんなにプログレを理解していなかった(興味なかった)主人公はそんな毎日が苦痛になっていき… という話である。

これを読んだ私の感想は「宮西くん…!」だった。
いい子すぎるだろ宮西くん。推せる。
(キャラデザもいい。黒髪長髪長身痩せぎすだからフォロワー諸兄もお好きかと思う。)

ここまで書くと宮西くんかわいそうという感想を抱くかもしれないが、最終的にはハッピーエンドだと(私は)思うので安心してほしい。

そして「宮西くん」を私は知っている。なぜなら中学生の頃の自分だから。
もっとも、宮西くんのように好きな音楽を布教できたわけではなかったが…
少なくとも、自分の聞いている音楽は世界で自分しか聞いていないのではと思えるほどに孤独だった。(しかもそのユニットの1人が数年前に逮捕されたので今は余計に言いにくい。)当時の私には「音楽を人と分かち合う」「布教する」ということは超能動的活動であり、勇気のいる行動として映った。当作品と同じくSNSのなかった当時、同志を見つけるというのは大変な大仕事であった。というか、「布教」や「推し」という言葉すらなかった。
漫画なら割と気軽に布教できたのに、音楽となると自分の内的世界とより密接になってくる気がして人と分かち合うということができなかったのである。
好きな音楽を1人で楽しむのもいいじゃん、人と話すために聞くもんじゃないじゃん!という意見もあるだろうが、当時の私としては好きな曲を分かってくれる人と語りたかったし、好きな音楽が同じ=世界観が同じ というほど大きな意味を持っていたのである。

あらすじには書いていないが、宮西くんは今でいう所謂「ぼっち」の少年で、人と会話している場面すら珍しいということがクラスの女子の会話から伺える。そんな宮西くんが唯一見つけた「自分の世界を理解してくれる存在」が山田だった……。
山田がプログレ好きっていう話聞いて本当に嬉しかったんだね。本当によかったね…とかつての自分の亡霊が成仏していくのを感じる。
しかし山田との温度差は埋めようがないというのがこの話の悲しい点なのだが。
前述の通り、雑誌でキングクリムゾン賞賛記事を見つけた山田は「俺は最近邦楽聞かないけどね(笑)」という「イキり」で好きと言っているに過ぎないのだ。(断言しているがあくまで私の読解なので間違っていたら許してほしい)しかもその記事を見つけた時、山田はよくわかってない感じで「クリムゾン・キングの宮殿」を聞いていることが描写されている。よくわかってないけど翌日教室で邦楽よりキングクリムゾン聴いてるよアピをしてガチ勢に友人認定されて話しかけられているのだ。思春期にありがちなイキりとはいえ山田コラ… といった心境である。しかし、みんなと違う曲(お洒落なやつ)を聞いてるでオレは!ということを言いたい気持ちもわかる。(ここで言う人と違う要素(霊感だったり、不幸な俺アピだったり)がアイデンティティーとなっていく…という作品はこの「クリムゾン・キングの宮殿」以外にもこの短編集中で散見される。全部最高だった。)
だからこそ宮西くんやっぱかわいそう。宮西くんは本気でキンクリ推してんのに。
ここからは私の妄想だが、宮西くんは他者との対話で「趣味は?」「どんな音楽聴いてんの?」「ごめんそれ知らないや」をたくさん経験して1人になる→「こいつら(クラスの人)わかってへん」→誰とも会話しなくなる→同志(同士じゃない)現る だったら私はもう…。
宮西くんを「俺はその気持ちわかるよ…?😃俺は見てるからね😉」とクラスのモブ男子になって後方腕組みで見守りたい。(私は「世界」に入れてもらえなくていい)オタクはクラスのモブ男子になって推しのこと見てたいがち。

こういう孤独に陥っていた人、人類の誕生からインターネットの誕生まで沢山いたんだろうな。今ならば、完全に人と分かり合うことはできなくても、せめて好きなことだけの繋がりは持つことはできただろう。だからこそ、この作品の宮西くんという存在そのものに強いシンパシーと、自分が成し得なかったことを成した宮西くんへの憧憬を感じる。

おわり

以下、当作品の好きな場面を紹介
①宮西くんが山田へ最初に声を掛けたシーン。
友人たちと帰宅している山田に、急に「おい!」「山田だけこっち来い。」と圧のある声を掛けている。どうやって声を掛けたらいいかわからなかった、話すテンションが調節できなかったのではないだろうか(偏見)。いい。
②宮西くんが山田に接近し始めてから山田の友人たちがいなくなっている所。宮西くんに追い払われたのか、最近付き合い悪いな〜笑 的な感じで去っていったのか定かではないが趣深い。
③大量に貸されたCDを真面目に聞いてる山田。罪悪感からか、貸されたCDを全て数日間で聞く。貸されたもん全て聞く(池の水全部抜く)のは当然だが、睡眠時間を削ってまで聞いてるのがいい。このジャンル好きになれ!というのは違うよな。かといって断れない。「好き」って言ったのは他でもない自分だし。
④山田の目を通すと若干ホラーっぽくなってる宮西くん。かわいそうすぎんだろ?!?!山田の蒔いた種なのに…!絡み付くように布教しようとする宮西くん。ここ、執着ポイントなんだよな…。
⑤最後のシーンらへん。厳密には最後のページの少し前からいい。よかったね宮西くん…本当に…
こういう友達はマジで一生だからね、大事にしとき…!いや宮西くんみたいな人は言われるまでもなく友人を大切にしそうなのでそこがまた好きなんだ2022。あとはなんといっても最後の一コマが1番有名なのではないだろうか。爽快感を覚えるのが宮西くんには申し訳ないが。山田さあ…。

《余談》
この短編集は他の作品も素晴らしい。
特に「ノストラダムス」という作品が好きだ。
ノストラダムスの地球滅亡説を近所の子供達に説いて怖がらせるおじさんの話で、これもまた最後の1ページが秀逸なのである。このラストページを部屋に飾りたいとさえ思った。とにかく復刊求む。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?