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大学院生から助教になって苦しんだこと

以前にも書いた通り,大学教員の主な仕事は,研究・授業・学内外の業務だ。

この中で,授業と学内外の業務は人生初めての経験だったことから,社会人として当たり前の仕事としてすんなり受け入れることができた。

一方,研究は博士課程から継続しているものであり,博士の学生にとってはほぼ唯一の仕事である。

大学教員になると,この研究という仕事の上に学生指導という仕事が新しく乗っかる。

この学生指導という研究に対する博士時代とのギャップに,赴任後の数年間苦しんだ。

基礎的な指導

学部生に研究レベルの専門知識がある訳ではないので,研究室に配属された学生に対しては基礎的なところから指導を開始する必要がある。

一度で理解できる学生もいれば,中には何度も繰り返し伝える必要のある学生もいる。

実験結果について議論したくても,そもそも議論するためのグラフが作れなかったり,説明能力に問題があってなかなか話が進まない場合も少なくない。

基本的なところで話が止まってしまうことが多いため,研究の本質的な話をすることができず,イライラすることが絶えなかった。

時間をかけて立派に成長した頃には就職を迎え,また4月には新しい学生が入室する。

もちろん大学院に進学してくれる学生もいるが,新しい4年生にはまた基礎的な話からスタートする必要がある。

学生の教育という意味では非常に重要な時間であっても,研究という意味では勿体無い時間の使い方をしていることについて,モヤモヤを抱えていた。

論文の執筆

論文の執筆は大学教員にとって欠かせない仕事だが,学生指導と合わせると非効率と思わざるを得ないことが出てくる。

学生個人には卒論や修論として研究成果をまとめてもらうが,その成果をそのまま鵜呑みにすることはできない

もちろん学生が意図的に研究不正をしているとは思っていないが,計算過程に問題があったり,単純な計算ミスを犯したりすることは十分にあり得る。

なので,学生がまとめるのとは別に個人的に新たにデータ整理をしてグラフを作成する必要がある。

学生に対しては「このデータ整理がおかしいので直すように」と指導しながら,自分でも生データからデータ整理をするという二度手間をかけている。

学生の代わりに途中から助けてあげることもあり,「自分で一からやった方が早いのに。。」と思うことも多々ある。

指導教員の存在

これは当たり前のことだが,博士課程の頃はいざとなると指導教員に頼ることができた。

自分が大学教員になった今,頼れるものは少ない。

もちろんわからないことは研究室の教授や,知り合いの先生に聞くこともあるが,やはり自分で解決する機会は劇的に増えた。

その中でよく勉強するようになったと思う。読む論文の本数は大学教員になってからの方が格段に増えた。

学生に頼られた時になんでも答えられる存在になりたいという使命感がそうさせていると思うが,「なんでもわかっていないとまずい」というストレスは大きい。

最近ようやくできるようになってきたこと

学生との打ち合わせ

以上のように,研究に対しては博士課程の頃よりも非効率な仕事の仕方をしていたが,最近では少しづつ対処法がわかってきたように思う。

まず大事なことは,学生との打ち合わせに全精力を注ぐことだ。

表面上の体裁だけを指摘する打ち合わせに終わることなく,研究内容の深いところまで考え抜く打ち合わせにする。

どうせ後から自分一人で考え込む必要があるなら,学生がいる前でもお構いなく考え込むことにした。

時に学生が付いてこれなくなったり,打ち合わせ時間が数時間になることもあるが,二度手間にならないことで結果的に効率が上がっているように思う。

その打ち合わせの中でしっかりとした方針を定め,学生にはある程度粗々でも良いので指定したデータ整理をしてもらうようにした。

次回に持ってきたその成果が正しそうであれば,後追いで自分でも真剣にデータ整理をするようにした。

学生に下書きをしてもらって,自分で清書するイメージだ。

当然その過程で学生自身にも考えてもらう時間は作るようにしているが,ある程度ストーリーを誘導することで,卒業研究が終わる頃には論文一本分の内容がある程度頭の中で出来上がっている状態にした。

もちろん大学院生相手だともう少し要求を上げたアプローチをするようにしている。

基礎的な指導の効率化

基礎的な部分の効率化に関しては試行錯誤を続けている。

最近では生活でも仕事でもブラックボックス化が進んでいる中で,あまりに基礎的な部分に拘る必要もないのではないかと考えるようにもなってきた。

スマホの構造はわからないまま皆利用しているのと同じように,例えば,計算ツールみたいなものを学生に配布するなど,便利なツールをツールとして使う能力を磨くことも大事じゃないだろうか。

かといって本質的なところを学生に教えたい気持ちもあり,この効率と本質の折り合いはとても難しいところだ。

なかなか答えが出ないことばかりだが,試行錯誤しながらアップデートを重ねていきたい。

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