バレなければ浮気をしても良い? 5

平凡な生活を維持することの、難しさ。

危険な香りは、人を惹きつける。とりわけ、人間的に成熟していない人や、一時的に気持ちが弱っている人は、その香りに翻弄される。今置かれている自分の環境を、そして傷つくであろう誰かのことも忘れ、ただひたすらにその香りを追い求める。

会社の同僚との食事の席では、普段仕事の席では話せないようなお互いの趣味や恋愛感について話した。私と同僚の間には、生活感などかけらもなく、まるで夢の中に生きているのでは無いかと思うほどに、刺激的な空気が流れていた。ただひたすらに、パートナーのいる自分に好意を向けている相手と話しているという事実に酔いしれていた。

食事の席が終わる頃、私は自ら同僚に対して、次に会うことを持ちかけていた。食後も続く心地よい刺激に、正常な判断力は奪われていた。同僚は、嬉しそうにその誘いを受けてくれた。妙に顔の距離が近づいていた気がする。


家に着いた頃には、パートナーは夢の世界へ旅立っていた。パートナーが玄関で待ち構えているのでは無いかなど考え、どきどきしながら玄関の鍵を開けたが、その事実にすこしだけほっとした自分がいた。

この事実がバレたら、きっとパートナーを失うことになる。

そんな恐怖が一瞬頭をよぎった。しかし、パートナーには絶対にバレないという自信と、この安定した平凡な生活は「あたりまえ」のものであり、そんな簡単に壊れるものでは無い、いつまでも続くものであるから心配はない、と考えていた。

平凡な生活に、すこしぐらい刺激を求めても、バチは当たらないだろう。こんな風に考えてすらいた。


その後私は、定期的に同僚と2人で食事に行くようになった。どちらからともなく毎回食事後に次の約束をし、その日を心待ちにしていた。その刺激が手に入るのであれば、今の平凡な日常が今以上に刺激のないものになっても良いと考え、パートナーと過ごす時間を、それまで以上に当たり前に思い、それまで以上に疎かにしていたと思う。自分のことしか考えていなかった。

そんな中、パートナーは、よく体調を崩すようになった。家にいる時は、具合が悪いと言い、寝室に一人で閉じこもる日も多くなった。今まで元気で隣にいたパートナーの異変に容易に気づくことができるはずが、その時は見ないふりをしていた。むしろ、パートナーが別の部屋で過ごしていれば、気兼ねなく同僚とメッセージのやりとりができることに、メリットさえ感じていた。





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