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国家安全維持法施行後の香港を記録する【最後の歴史とならないことを祈りながら】

2020年6月30日の午前中に中国全人代常務委で香港国家安全維持法が可決され、その内容が明かされないまま、同一23時に香港で施行されました。

香港の法律にあるはずの英語版がなく、中国式の言葉遣い混合で書かれたその法案は、中国が作成した法案を香港風に少しだけアレンジしたハリボテそのもので、かえってそれが現在の香港を的確に表しているような気もします。

翌日、日本の産経新聞には1面トップで「香港は死んだ」の文字が掲げられましたが、このノートでは葬送も無く葬り去られた香港で、その後何があったのか、事実を歴史として、それでもそこで自由のために闘う人がいた記録として、綴っていきたいと思います。

最後の歴史とならないことを祈りながら。

2020年6月18日

・中国全人代常務委が始まり国安法の審議入りが予想されたこの日、日本を含めたG7が「香港に関するG7外相声明」を発表。

・香港学生独立連盟の創設人でもある独立派の活動家陳家駒が香港を去ったことを発表。2019年6月10日に違法集結罪で逮捕され、保釈期間中であったが、国家安全維持法の議論が出た頃から海外退去が噂されていた。

・『香港城郭論』と陳雲のペンネームで知られる陳云根が社会運動からの退出を公表。

2020年6月30日

・日本やイギリス、フランスなど27か国が中国に再考を求める共同声明を発表。

・午前中に中国全人代常務委で香港国家安全維持法が162票の満場一致で可決。

・民主自決を掲げる民主派政党である「香港衆志(デモシスト)」の創設メンバーである黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、羅冠聰(ネイサン・ロー)、周庭(アグネス・チョウ)ら主要メンバーが脱退を表明。その後デモシスト自体も解散を発表。

・かつて梁頌恆(バッジオ)がスポークスパーソンを務め、香港独立を掲げる政治団体「香港民族陣線」が香港本部の解散を発表。

・ 独立支持派の学生グループ「学生動源」が香港本部の解散と、海外で活動を続けるため、台湾、米国、オーストラリアに海外支部を置くことを発表。

・香港学生独立連盟が香港のすべての活動とメンバーの解散を発表。

・日本政府が遺憾の意を表明。

・民主派を支持する黄色経済圏のレストランやショップでレノンウォールの撤去が始まる。

・23時、香港国家安全維持法が官報公告、施行。

2020年7月1日

・羅冠聰(ネイサン・ロー)が映像によりアメリカ下院外交委公聴会において香港の状況を証言。

・米下院が香港自治法案を全会一致で可決。香港の自治侵害に関して制裁が可能に。上院では既に可決済みのため、大統領署名により成立となる。

・例年行われていた返還日の民主化デモは当局から許可が下りなかったものの、集まった市民らにより自然発生的にデモが発生。警察により370人余りが逮捕され、うち国家安全法違反で10人逮捕。

・イギリス政府は、イギリス海外市民(BNO)パスポート保有者がイギリスに5年間滞在できるようにし、将来的に市民権を取得する道をひらくと発表。BNOは1997年の返還前に生まれた人が保有できるパスポートで、香港には現在、BNOパスポートの保有者が35万人いる。イギリス政府は、保有資格者を含めると全体の数は290万人に上るとしている。

2020年7月2日

・羅冠聰(ネイサン・ロー)が香港を去ったことを公表。

2020年7月3日

・カナダのトルドー首相が香港との犯罪人引き渡し条約を停止すると発表。また、高度な軍備品の香港への輸出禁止や、国家安全維持法の影響を警告する新たな渡航勧告も実施される。

・市内で1日に行われた抗議活動の最中、警官隊にバイクで突っ込んでけがを負わせた男性(23)を国家安全維持法(国安法)違反の罪で初めて起訴した。男性は「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、革命の時だ)」という標語が書かれた旗を所持し、国安法の国家分裂とテロ活動の罪が適用された。

・中国国務院が出先機関である「国家安全維持公署」の署長に、対デモ強硬派として知られる鄭雁雄(Zheng Yanxiong)氏(56)を任命。また、「国家安全維持委員会」の担当顧問に、中国政府の香港出先機関である香港連絡弁公室の駱恵寧(Luo Huining)主任を任命。

2020年7月5日

・北京日報は、香港の図書館で香港独立に関連する書籍の検査が始まったと報じた。

2020年7月6日

・フェイスブックとグーグル、ツイッターの米ネット大手3社は香港当局に対する利用者情報の提供を一時停止したと発表。その他テレグラム、Zoomなども同様の措置を取っている。

2020年7月7日

・香港の親中派メディアである「大公報」と「文匯報」は、香港牧師・神学教師ネットワークが発表した「香港2020福音宣言」を国安法違反と指摘し、宣言の起草者たちを批判。

2020年7月8日

・治安機関「国家安全維持公署」が開設される。メトロパークホテル(Metropark Hotel)に事務所が置かれ、ホテル周辺の道路は警察に封鎖され、水注入式のバリケードも設置された。

2020年7月9日

・オーストラリアのモリソン首相が香港との犯罪人引き渡し条約を停止したと発表。また、技能を持つ香港からの移民に対し、永住権への道筋として5年間のビザ(査証)を付与する。

2020年7月11日

・ショート動画アプリのTikTokが香港でのサービスを停止。香港国家安全法に基づく当局からの情報提供依頼に応じざるを得ず、ブランド毀損リスクがあると判断したとみられる。

2020年7月12日

・11日~12日にかけて9月の立法会選に向けた民主派の予備選が開催。計51人が立候補し61万人が投票。

2020年7月13日

・羅冠聰(ネイサン・ロー)氏がロンドンに滞在していることを明らかにした。

・香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)が前日まで民主派が行った予備選について「予備選の目的が立法会で過半数議席を得て政策を妨害することなら、国安法の規定する政権転覆罪に当たる可能性がある」と述べ、予備選が香港国家安全維持法に違反する可能性があると警告。ただし、民主主義の意味を知っている者にとって林鄭月娥行政長官の発言内容は翻訳が困難なものだ。

2020年7月14日

・トランプ米大統領が香港の自治侵害に関与した中国を含む金融機関への制裁を可能にする香港自治法と貿易などに関し香港に与えた優遇措置を廃止する大統領令に署名。

・英政府は高速通信規格「5G」網から、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)を排除する方針を決定。

2020年7月15日

・ニューヨークタイムズが香港に拠点を置いていたデジタルニュースを扱う部門を韓国のソウルに移転させると発表。

・中国外務省は米国で成立した香港自治法に強烈な非難を表明し、報復として米国の関係者と組織に制裁を実施する方針を示す。

・民主党の羅健熙副主席逮捕。昨年11月に香港理工大学の外で起きた件に関連している模様。

・民主派の予備選主催者の1人である元立法会議員の区諾軒氏が予備選運営からの撤退を表明。中国政府からの圧力によって「身の安全を確保できない」と説明。

2020年7月17日

・台湾が香港に設置している事実上の台湾大使館である台北経済文化弁事処の高銘村(Kao Ming-tsun)代理所長が台湾へ帰国したことを公表。高氏の就労ビザ更新の際に、台湾を中国の一部とみなす「一つの中国」政策への支持を表明する文書への署名を拒否した影響。

2020年7月18日

・9月の香港立法選挙への立候補受付が始まる。

2020年7月20日

・イギリス政府は、香港との犯罪人引き渡し条約を即日かつ恒久的に停止する方針を明らかにした。

2020年7月21日

・ポンペオ米国務長官は、訪問先の英ロンドンで香港の民主活動家、羅冠聡(ネイサン・ロー)と面会。

2020年7月22日

・英内相は、1997年の香港返還以前に生まれた香港市民が持つことができるイギリス海外市民(BNO)パスポートの保持者と、その扶養家族は、来年1月からイギリスの特別査証(ビザ)を申請できるようになると発表した。

・香港政府が外国からの入境を禁止する措置を2020年12月31日まで延長することを発表。

2020年7月23日

・中国外務省の汪文斌副報道局長は、香港の居住者が所有する「英国海外市民」を対象とした旅券の無効化を検討すると述べた。

・ 中国政府はイギリスが香港問題で内政干渉しているとして、香港市民が所有する「イギリス海外市民パスポート(BNO)」の無効化を検討すると発表。

2020年7月25日

・香港の選挙当局から民主派の議員に対し、国家安全維持法とアメリカの香港に対する罰則について、支持するか否かを問うレターが送られる。

2020年7月30日

・香港の選挙管理当局は立法会選挙に立候補を届け出た者のうち、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)ら民主派12人の立候補資格のはく奪を通達。事前に民主派陣営に送られたレターへの返答内容や返答有無は全く関係がない裁定。

・このように民主派の立候補者に規程外のレターを送り、その返答内容や返答有無に関係なく資格はく奪するのは前回2016年の選挙と同じ手法。

2020年7月31日

・林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は9月6日に予定された立法会選挙の1年延期を発表。新型コロナウイルスの影響としているが、選挙での民主派の躍進を阻止する意図があることは明らか。

2020年8月5日

元デモシスト(香港衆志)の周庭に対し、2019年6月に違法集会を扇動したなどとして公安条例違反により有罪判決。量刑は後日言い渡される。

2020年8月7日

アメリカ財務省は、香港政府の林鄭月娥行政長官ら幹部11人を対象にした制裁措置を発表。制裁では、アメリカ国内の個人や関連団体の資産が凍結される。

2020年8月8日

・全国人民代表大会常務委員会が開会。選挙が1年延期された香港立法会議員の任期延長を議論。

2020年8月10日

・民主派の日刊紙であるアップル・デイリー(蘋果日報)創始者である黎智英(ジミー・ライ)やその家族である、蘋果日報の社長、元デモシスト(香港衆志)の周庭(アグネス・チョウ)ら10人が相次いで国家安全維持法違反で逮捕される。この時点で具体的にどの行為が摘発対象となっているかは不明。

・香港警察は蘋果日報社の家宅捜索の際、捜査令状に含まれていないはずの各記者の取材資料も捜索。

2020年8月11日

・全国人民代表大会常務委員会は香港立法会選挙の1年延期に伴い現職の人気延長を容認する決定。

・立候補資格が取り消された民主派12人のうち、現職である梁継昌、郭栄鏗、郭家麒、楊岳橋の任期について焦点となっていたが、この4人の任期も延長されることとなった。

2020年8月12日

11日遅く~12日未明にかけて国安法違反で逮捕された周庭(アグネス・チョウ)や黎智英(ジミー・ライ)らが保釈。

2020年8月17日

教科書を作成する出版社6社が17日に高校の通識教科書の改訂内容を公表。「三権分立」が削除されたのに加え、市民の抗議行動に関わる資料や写真なども削除。「民主派」という言葉が「非建制派(非親中派)」に書き換えられた教科書も。

教育団体「香港教育専業人員協会」は19日に声明を発表し、「政治審査」があったと指摘。一方、中国国営新華社通信は21日、「通識科の『消毒』は、香港の教育が正しい道に進む第一歩だ」と題する論評を配信。

2020年8月20日

香港当局が、中等教育の教科書から「慎重な取り扱いを要する」内容を削除するよう出版社に要求したと現地メディアにより報じられる。

対象となったのは、生徒の批判的思考力を育む科目「通識(リベラル・スタディーズ)」の教科書で、市民的不服従についての議論、抗議デモで使われた特定のスローガン、さらに複数の政党名までもが削除されたという。

2020年8月23日

中国海警局が台湾への密航を試みた香港の活動家李宇軒を含む12人を海上で拘束。李宇軒は香港国家安全維持法(国安法)違反(外国勢力との結託)の疑いで逮捕され、保釈中。その他の11人は2019年のデモ参加者とされる。中国海警局は27日にこの事実を発表。香港への送還ではなく中国本土で拘束されていると見られている。

2020年8月25日

香港の解放を求めるスローガンを掲げ、オートバイで警官隊に突っ込み、国安法による初の起訴となった唐英傑被告(23)の保釈が高裁で棄却。
唐被告は7月に地裁の公判で保釈を求めたが認められず、高裁に対し、不当に拘束された身柄の解放を命じる人身保護令状の発行を申請。高裁は21日にこれを棄却。

2020年8月26日

2019年7月21日元朗(ユンロン)駅で白装束の暴漢集団が市民を無差別に襲撃した事件で、暴漢に襲われた被害者となった民主党の林卓廷議員、許智峯議員や記者らを含む16人が香港警察に暴動に関与した疑いで逮捕。

2020年9月1日

・国家安全法違反で逮捕され保釈中の周庭(アグネス・チョウ)が取り調べのため警察に出頭。証拠の一つとして昨年デモシストが日本経済新聞に掲載した意見広告が示されたことを述べた。また、周庭(アグネス・チョウ)逮捕の日に日経新聞香港支局にも警察の捜査が入っていたことが明らかになった。

・香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)は記者会見で「香港に三権分立は無い」と発言。香港の教科書から三権分立に関する記述が削除されたことを支持。

2020年9月6日

立法会選挙の延期や国家安全法に抗議するデモで289人を拘束。警察が家族と買い物中の12歳の少女に数人がかりで全力でタックルする動画に批判が殺到。現場近くを通りかかったバスの運転手を拘束し車内に置いてある整備用のスパナやドライバーを武器所持として逮捕。

2020年9月7日

香港マカオ事務弁公室は1日の香港行政長官の発言を裏付ける形で「香港に三権分立は無かった」と発言。返還前の1987年、鄧小平(当時の事実上の最高実力者)が「三権分立を導入し、英米のような議会制度を取り入れるのは不適切」と指摘していたことを引き合いに出し、香港は行政主導で、行政の下に法制度や司法制度があること、香港行政長官の上には中国政府があると主張。

2020年9月10日

アップルデイリーの創始者であり、国家安全法違反で逮捕された黎智英(ジミー・ライ)氏のメディア企業、ネクスト・デジタル(壱伝媒)の株価を操作したとして、香港警察が15人を逮捕。

2020年9月12日

8月23日に香港から台湾に渡ろうとした疑いで中国海警局に逮捕された12人の家族が会見。逮捕以降消息が不明なこと、弁護士の接見も拒否されていることが明らかに。

2020年9月15日

・台湾への密航疑惑により逮捕された12人の家族が12日に会見したことを受け、香港行政長官の林鄭月娥(キャリー・ラム)は「本土(中国)の管轄権である」旨発言。香港政府の協力を拒否。

・第45回国連人権理事会合において、ベネズエラ・ブルンジ・エチオピアなど多数の国が香港問題とウイグル問題について中国政府を支持。中国と経済的な結びつきが強い国が中国を支持する傾向が鮮明に。

2020年10月6日

香港政府は九龍塘宣道小学の男性教員が授業で言論の自由や香港独立について議論させたとして教員免許をはく奪した。林鄭月娥行政長官は「香港独立を教育に持ち込むのは許さない」と強調した。同教員は2019年3月小学5年生の授業で、言論の自由や香港独立について議論することを取り上げたテレビ番組を生徒に見せた上で、生徒個々の考えについてまとめる宿題を出したとされる。

2020年10月10日

8月に李宇軒を含む12人が台湾への密航を図り中国当局に海上で拿捕された事件に関係し、その渡航のための資金援助や現地での支援を行ったとして9人が新たに香港警察に逮捕された。

2020年10月11日

中国中央テレビは同国の国家安全当局が台湾によるスパイ事件を数百件摘発したと報じた。拘束された容疑者の中には香港デモに参加または支援したとされる人物も含まれる。

今日も香港の状況は刻一刻と変わっています。そんな状況の深層を理解できるような基礎知識を得られる記事を目指しています。皆様からのサポートは執筆の励みになります。どうもありがとうございました